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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
第2章 遠征編

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第五十三話 北西方面へ

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 ラディアを出てから二日。


 街道を西へ進み続けた私たちは、昼を過ぎた頃にミエリッキ東方の街へ到着した。


 道中で大きな問題は起きなかった。


 むしろ、ミエリッキへ近づくにつれて変わっていったのは、こちらへ向かってくる人の数だった。


 最初は数人だった。


 荷物を背負った家族連れや、荷車を引く老人。


 それが街へ近づくにつれて十人、二十人と増えていく。


 私たちと同じ方向へ向かう者より、すれ違う者の方が明らかに多い。


 そして、誰もが荷物を抱えていた。


「避難してきた人たちかしら」


「ああ」


 隣を歩いていたガイルが答える。


「北から来た連中も混じってるだろうな」


 すれ違った荷車には、毛布に包まれた老人が横たわっていた。


 その横を、小さな子供が母親らしい女性の手を握って歩いている。


 戦争。


 言葉にすればたった二文字だけど、こうして実際に目にすると随分と違う。


 傭兵時代にも何度も見た光景だった。


 戦場から最初に逃げるのは、戦えない者たちだ。


 そして戦線が近づけば近づくほど、その数は増える。


「ヴィヴィー」


「何?」


「みんな、どこいくの?」


 頭の上からリリが聞いてきた。


「私たちが来た方でしょうね」


「なんでー?」


「そっちの方が安全だからよ」


「ふーん……」


 いつもなら何かしら続けるのに、今日はそれきりだった。


 やがて街を囲む石壁が見えてくる。


 門の前には長い列が出来ていた。


 入る者ではない。


 出ていく者たちだ。


 荷物を積んだ荷車や馬車に、徒歩の者たちが続いている。


 私たちの荷馬車が近づくと、門を守っていた兵士がこちらへ駆けてきた。


「止まってくれ!」


 御者が馬を止める。


 ガイルが前へ出た。


「七都市同盟から来た支援輸送隊だ」


「支援物資?」


「ああ。食料と薬品が中心だ」


 兵士の表情が変わった。


「少し待ってくれ」


 そう言い残すと、門の中へ走っていく。


 しばらくして別の兵士を連れて戻ってきた。


 こちらは鎧の上から外套を羽織った、中年の男だった。


「お待たせしました。東門の守備を任されている者です。七都市からの支援と伺いました」


「遊撃部隊のガイルだ。荷馬車の護衛を任されてる」


「助かります。まず中へ。荷については、こちらで場所を用意します」


 門の脇を空けてもらい、荷馬車を街へ入れる。


 中へ入って最初に目についたのは、人だった。


 広場にも、通りにも人がいる。


 壁際には簡素な天幕が並び、毛布を敷いただけの場所で休んでいる者もいた。


 荷物を抱えたまま座り込んでいる家族。


 腕に包帯を巻いた男。


 杖をついて歩く老人。


 その間を、兵士や街の者たちが忙しなく行き来している。


「思ったより多いな」


 バルガスが周囲を見回した。


「ええ」


 ラディアで聞いていた以上かもしれない。


 私たちは案内された倉庫へ荷馬車を入れた。


 ただし、荷は下ろさない。


 ここで全部引き渡すか、それともさらに北へ運ぶかを決めるために来たのだから。


 御者たちには馬を休ませてもらい、私たちは現地の冒険者ギルドへ向かった。


             ◆


 冒険者ギルドも混雑していた。


 依頼を受けに来た冒険者だけではない。


 掲示板には避難民の護衛、行方不明者の捜索、街道の安全確認、薬草採取といった依頼が所狭しと貼られている。


 受付で事情を話すと、すぐに奥の部屋へ通された。


 待っていたのは、ギルド職員と街の役人、それにミエリッキ軍の兵士だった。


 卓の上には地図が広げられている。


 私たちもその周囲へ座った。


「まず、七自由都市からの支援に感謝します」


 役人が頭を下げる。


「食料も薬も不足しています。ここ数日で北方からの避難民が急増し、この街でも備蓄を切り崩している状態です」


「北方の状況を教えてほしい」


 ガイルが言った。


「ラディアでは、大きな都市の半分ほどが陥落したと聞いてる。俺たちは状況が許すなら、物資を出来るだけ北へ運ぶつもりだ」


「……北へ?」


 役人が驚いたように顔を上げた。


「ええ」


 私も地図へ目を落とす。


「ここで必要なら、もちろん一部は置いていくわ。でも北方でさらに必要としている場所があるなら、運べるところまでは運びたいの」


 ミエリッキ軍の兵士が地図をこちらへ向けた。


「でしたら、現在分かっている範囲で説明します」


 指が北方へ動く。


「北部では王国軍の侵攻が続いています。主要都市のうち、こちらと、こちら。それから北西部の二都市が陥落しました」


 地図の上で一つずつ示される。


 ラディアで聞いた情報より具体的だった。


「この一帯は?」


 ガイルが中央北部を指す。


「現在も交戦中です。ただ、王国軍の進出が早く、こちらでも正確な戦線は把握出来ていません」


「この街から北へ向かう街道は?」


「北へ直接向かう道は勧められません」


 兵士は即答した。


「二日前、街道沿いで王国軍の斥候が確認されています。さらに北では戦闘も起きています」


「北西は?」


 私が尋ねる。


 兵士の指が地図の上を西へ移動した。


「こちらの方がまだ安全です。北西方面には現在もミエリッキ側が維持している街や村が複数あります。街道も、少なくとも昨日までは使えています」


「昨日まで?」


「戦時中ですので、それ以上は保証出来ません」


「十分よ」


 保証出来ないものを保証しろと言っても仕方がない。


「物資はどこが一番必要なの?」


「……難しい質問です」


 役人が答えた。


「この街にも必要です。しかし、北西へ送れるのであれば、そちらへお願いしたい」


 地図上の北西部を指す。


「北方から逃れてきた住民の多くが、この一帯を通って南下しています。残っている村や街では、避難民を受け入れながら軍への補給も行っています」


「食料も薬も足りない?」


「どちらもです」


「この街から運んでないの?」


「運んでいます。ただ、十分ではありません」


 役人が少し言葉を選んだ。


「北から人が流れてくる一方で、こちらから送れる物資には限りがあります。特に薬品は深刻です」


 なるほど。


 東方で全部下ろしても無駄にはならない。


 けれど、この街にはまだ後方から物資を運び込める道がある。


 北西へ行けば行くほど、その道は細くなる。


「どこまでなら荷馬車で行ける?」


 ガイルが尋ねた。


「現時点で確実に言えるのは、この街までです」


 兵士が一つの街を指した。


「ここまでは?」


「昨日、輸送隊が戻っています。その先については情報がありません」


 さらに北西へ伸びる街道には、小さな村がいくつも描かれている。


「つまり、そこまで行って、また情報を集めろってことね」


「それが最も安全です」


 安全。


 今のミエリッキでは随分と意味の軽い言葉になっている気もするけれど。


 私はガイルを見る。


「どうする?」


「行けるところまで行くって決めて来たからな」


「そうね」


 ガイルが役人へ向き直った。


「北西へ向かう。途中の状況を見ながら、危険だと判断したところで止める」


 役人が深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


「礼は届けてからにしてくれ」


 ガイルらしい。


「それと」


 私は地図を見た。


「避難してくる人たちは、どの道を使ってるの?」


「主にこの街道です」


 私たちが向かおうとしている道だった。


「じゃあ、途中で会う可能性は高いわね」


「はい。北西部からこちらへ避難する者は、今も途切れていません」


 向こうから逃げてくる人間がいる道を、私たちは逆方向へ進む。


 状況は分かりやすい。


「出発は明日の朝にしましょう」


 ガイルが言った。


「御者と馬を休ませる。街道の情報も、今日中にもう一度集めておきたい」


「賛成」


 急ぐ必要はある。


 でも、急いで馬を潰したら意味がない。


             ◆


 ギルドを出た後、私たちは倉庫へ戻った。


 荷馬車から物資の一部を下ろすことになった。


 この街にも避難民がいる。


 全てを北西へ持っていく必要はない。


「薬品はあまり下ろさない方がいい」


 フィナが目録を見ながら言った。


「北へ行くほど必要になると思う」


「私もそう思うわ」


 食料を中心に、この街へ渡す分を決める。


 オルドとガイルが量を確認し、御者たちと一緒に荷を下ろしていく。


 倉庫へ運び込まれた袋を、街の者たちが次々と受け取っていった。


 その中に、小さな子供の姿が見えた。


 母親らしい女性に手を引かれ、配給を待つ列に並んでいる。


 頭の上のリリが、珍しく静かだった。


「どうしたの?」


「んー……」


 しばらく考えてから、リリが言った。


「みんな、お腹すいてるの?」


「そうでしょうね」


「お肉あげる?」


 思わず頭上を見る。


「あなたの?」


「モカの!」


「みぃ!?」


 胸元から勢いよく顔が出てきた。


「冗談だよー!」


「みぃー!」


 ……冗談だったのね。


 でも、少しだけ安心した。


 いつものリリだ。


 荷下ろしが終わる頃には、日が傾き始めていた。


 残った物資を積み直し、御者たちが荷台に縄を掛け直していく。


 ガイルはその様子を確認すると、私たちを集めた。


「明日は朝から北西へ向かう。ここから先は何が起きてもおかしくない。各自、今日のうちに戦闘準備を済ませておけ」


 さっきまで地図の上で話していた王国軍が、今度は実際に遭遇するかもしれない相手になる。


「矢、薬品、食料。ここで補給出来るものは補給しておけ。武器と防具の手入れも忘れるな。出てから足りないじゃ済まんぞ」


 全員がそれぞれ返事をする。


「それと、今夜から荷馬車にも見張りを置く。二人一組で交代。御者には手伝わせない。馬車を動かすのがあいつらの仕事だ。夜は休ませる」


 ガイルが見張りの組み合わせと順番を決めていく。


 それが終わると、自然に全員が動き始めた。


 トッドは自分の弓と矢を確認し、そのままバルガスの武器にも目を向ける。シフォンは残っている触媒や魔法に必要な道具を数え、フィナは薬品と治療道具を確認していた。


 オルドは食料と水の残量を調べながら、明日すぐ取り出すものを荷台の手前へ移している。


 私もバスタードソードを抜いた。


 刃を確かめ、柄や鍔に緩みがないかを見る。クロスボウも一度動かし、矢の残数を確認する。


 手入れを終えた武器から、いつでも使える位置へ戻していく。


 寝ている間も、荷物から目を離せない。


 私は今夜の見張りの順番を確認した。


 しばらくは、朝まで安心して眠れる夜は無さそうね。


第五十三話・了


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