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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
第2章 遠征編

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第五十話 言わなくても分かる事

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 日が沈んでから、私たちは議長館へ向かった。


 正面には回らず、冒険者ギルドで渡された木札を持って東側へと回り込む。昼間に見た正門とは違い、高い塀の途中に設けられた小さな通用門の周囲には人通りもほとんどなく、門の両脇には二人の衛兵が立っていた。


 私たちが近づくと、そのうち一人が無言で前へ出る。


「これを」


 木札を差し出すと、衛兵は表裏を確認してからこちらの人数を数えた。


「八名ですね」


「ええ」


「お待ちしておりました」


 名前も用件も聞かれなかった。


 門が開くと、中で待っていた男が一礼し、そのまま私たちを先導する。議長館の裏手から入り、使用人が使うらしい細い廊下を進んでいった。


 正面から入るなとは聞いていたけれど、随分と徹底している。


「ヴィヴィー」


 頭の上から小さな声がした。


「何?」


「くらーい」


「夜だからね」


「そっかー」


 納得したらしい。


 胸元ではモカがもぞりと動き、昨日開いたばかりの目で珍しそうに辺りを見回している。その耳では、薄いスカイブルーの石が歩くたびに小さく揺れていた。


「みぃ」


「あなたも静かにしててね」


「みぃ」


 やがて案内役は一つの扉の前で足を止めた。


 コン、コン。


 一拍置いて、さらに三度。


 案内役は声を掛けず、そのまま待っている。


 しばらくすると、扉の向こうから一度だけ音が返ってきた。


 そこで初めて男が扉に手を掛ける。


「どうぞ」


 ここまで徹底してるのね。


 扉の向こうは、それほど広くない応接室だった。


 部屋の中央には大きな卓が置かれ、その向こうで大柄な男が待っている。私たちが入ると、男は椅子から立ち上がり、僅かに笑みを浮かべた。


「久しぶりだな。七都市会議以来か」


「お久しぶりです」


 ラディア議長、ドランザート。


 ヘクサゴナで開かれた七都市会議で顔を合わせて以来だから、それほど久しぶりというわけでもない。


「ステラ殿からの紹介状も読ませてもらった。まずは座ってくれ」


 勧められた席へ腰を下ろすと、ガイルたちもそれぞれ席についた。リリだけは当然のように私の頭の上に居座り、モカは胸元から顔だけを出している。


 ドランザートの視線が、そこへ向いた。


「そちらは?」


「途中でついてきたの」


「……ヴァイスティーガーに見えるが」


「そうみたいね」


「みぃ」


「……そうか」


 それ以上は聞かなかった。


 話が早くて助かる。


「では、本題に入ろう。あの会議でも話した襲撃についてだ」


「何か分かったの?」


「確証はない。だが、最も疑っている者はいる」


「聞かせて」


「兄のドランジールが、最も怪しい」


「ドランジール?」


「ああ」


 ドランジールはドランザートの実兄であり、ラディアに百人に満たない規模の私兵を抱えている。


「襲撃者は六人だった。全員が顔を隠し、身元に繋がるものは何も残していない。互いに連携された動きで、離脱も手慣れていた」


 襲撃者から直接身元を割り出すのは難しそうね。


「お兄さんを疑う根拠は?」


「単純な話だ。私が死んで最も利益を得るのが兄だからだ」


 ドランザートは淡々と言った。


 議長である弟が死ねば、その後のラディアで誰が最も有利な立場になるのか。実兄であり、自前の武力まで抱えているドランジールが次期議長の筆頭と言う事だ。


「私兵との照合は?」


「当然行った。こちらで把握している者については、全員確認が取れている」


 百人にも満たない私兵の中から実行役を出したのか、それとも最初から表に出していない人間を使ったのか。どちらにせよ、ドランジールへ直接繋がる証拠は残っていない。


「そうなると、襲撃者はほぼ確定。ただ証拠が無い。そして、どこまで組織内にその手が伸びているか分からないと言ったところね」


「ああ。身内を疑い始めれば切りがないが、疑わずに済ませられる状況でもない」


 さっきの通用門と、扉の前で交わされた符丁を思い出す。


 誰に見られているか分からないから、私たちとの接触そのものを伏せておきたいということね。


「それだけではない」


 ドランザートが続けた。


「ミエリッキから流れて来た者たちのことは覚えているな」


「武装蜂起を求めている人たちね」


「ああ。彼らとは会議の後も何度か直接対話している」


 ミエリッキからラディアへ流れてきた者たちは、ボビット族やハーフリングなどの小人系種族が多い。人間種や獣人種も混じっているものの、全体として見れば小人系の一族が中心となっている。


 彼らの主張についても、七都市会議で聞いていた。


 王国がミエリッキだけで止まる保証などなく、いずれ七自由都市にも手を伸ばす。ならばミエリッキが陥落してからでは遅く、今のうちに七都市も兵を挙げ、王国へ対抗すべきだというのが彼らの主張だ。


 その危機感についてはドランザートも同じで、七都市会議でも出兵の必要性を主張していた。


 しかし、連合国として出された結論は武力介入ではなく物資による支援。私たちがここまで運んできた荷も、その決定によるものだ。


「向こうの要求も変わってないのね」


「ああ。支援物資には感謝している。だが、それだけではミエリッキを守れないという立場も変えていない」


 それはそうでしょうね。


 彼らが求めているのは食料や薬だけではなく、王国と戦うための兵なのだから。


「問題は、その中の一部が組織化されていることだ」


「それも聞いてるわ」


「なら話が早い。兄の私兵の何人かが、彼らと接触している」


「組織間の繋がりの証拠は?」


「私兵三名が、難民組織の者と継続的に接触していることまでは確認している」


「相手は?」


「一人ではない。接触場所も一定していない」


 それだけなら、難民組織がドランジールと手を組んでいる証拠にはならない。


 彼らにとって重要なのは、誰がラディアを治めるかではなく、ミエリッキを救うために七都市が兵を出すかどうかだ。ドランザートであろうとドランジールであろうと、それを実現できる可能性があるなら話くらい聞くだろう。


 むしろ問題なのは、ドランジールが彼らに何を持ちかけているのか分からないことだった。


「接触している三人の資料は?」


「用意してある」


 ドランザートが机の上に三枚の紙を置いた。


 それぞれに名前や年齢、種族、容姿だけでなく、普段の行動や頻繁に出入りする場所まで、ドランザート側で把握している情報が簡潔にまとめられている。


 一枚ずつ目を通してから、隣のガイルへ回した。


「これ、貰っていいの?」


「そのために用意した」


「そう」


 戻ってきた三枚の資料を折り畳み、鞄へ入れる。


 ドランザートは、兄の私兵を調べろとも、難民組織を探れとも言わなかった。両者の関係についても、自分が確認している事実を伝えただけで、それ以上の指示はない。


 それなのに、こちらが動くために必要な情報だけは綺麗に揃っている。


「他には?」


「今のところ、私から話せるのはそれくらいだ」


「分かったわ」


 席を立つと、ガイルたちも続いた。


 ドランザートは、それ以上何も言わなかった。


             ◆


 来た時と同じ通用門から議長館を出る。


 夜のラディアをしばらく歩き、議長館から十分に離れたところで私は口を開いた。


「善人と言う訳でもなさそうね」


「ドランザート議長がか?」


「ええ」


 ガイルは前を向いたまま歩きながら言った。


「俺たちに何をしろとは、一度も言わなかったな」


「でも、必要な情報は全部あったでしょう?」


「ああ。随分と綺麗に揃えてくれたもんだ」


「試してるつもりなんでしょ。それならこっちのやり方でやらせて貰うわ」


「もう何か考えてるのか?」


「待つだけよ」


 ガイルは黙って続きを待った。


「ドランジールが思った通りの人物なら、私達に接触を図るでしょうね」


 少し後ろを歩いていたバルガスが、首を傾げた。


「……どういうことだ?」


 頭の上にいたリリが振り返る。


「バルガス、おバカさんなんだね……」


 リリは悲しい顔つきでバルガスを見て、そっと目を伏せた。


「な、なんだよ! リリだって分かってねぇだろう!」


 するとリリは顔を上げ、妙に真面目な声で話し始めた。


「あのね、ドランザートはねー、ヴィヴィたちにお兄ちゃんを調べてって言わなかったの。でも、お兄ちゃんが怪しいって分かることはいっぱい教えてくれたの」


「…………」


「だからヴィヴィたちが勝手に調べて悪いこと見つけても、ドランザートは頼んでないって言えるの」


「…………」


「ヴィヴィはそれが分かったから、自分たちの好きなやり方でするって言ってるの」


 さっきまで食ってかかっていたバルガスが、黙ってリリの話を聞いている。


「ドランジールはヴィヴィたちが何しに来たのか気になるから、たぶん向こうから来るの。だから待ってるの」


 そこまで説明すると、リリはバルガスの顔を覗き込んだ。


「バルガス、分かった?」


「…………はい」


 私も思わず黙ってしまった。


 ……この子、全部分かってたのね。


 考えてみれば、精霊魔法とソーサリー魔法を使い分け、それを実戦で組み合わせて戦えるのだから、頭が悪いはずもない。


 普段の言動で忘れそうになるだけだ。


「みぃ」


 胸元から聞こえた声に目を落とすと、モカがくりっとした目でリリを見つめていた。


「んー?」


 リリも気づいたらしく、私の頭からふわりと降りて肩の辺りまで近づいてくる。


「モカー?」


 いつもなら、この辺りでモカの耳が伏せられ、シャーッと威嚇する。


 けれど今回は、リリが顔を近づけても何も起こらなかった。


「みぃ」


 リリが目を丸くして、さらに少しだけ近づく。


「モカ?」


「みぃ」


「ヴィヴィー! モカ、シャーってしなかったー!」


「そうね」


「リリって分かったー?」


「さあ?」


 何がきっかけだったのかは分からない。


 それでもモカは、嬉しそうに自分の周りを飛び回るリリを目で追うだけで、もう威嚇することはなかった。


「モカー!」


「みぃ!」


 どうやら、ようやく認めてもらえたらしい。


 そんな二人を眺めながら、私は夜のラディアを歩いていく。


 ドランザートから貰った情報は十分にある。あとは、こちらのやり方で使わせてもらおう。


 ドランジールが思った通りの男なら、そう長く待つ必要もないでしょうね。


 トボトボと歩くバルガスをトッドが慰めていた。


第五十話・了


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