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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
第2章 遠征編

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第四十八話 登録

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 門を抜けて、最初に目についたのは頭から生えた角だった。


 一人や二人ではない。


 通りを歩く大男の額からは湾曲した二本の角が伸び、露店で店主と話している女の頬には細かな鱗が浮かんでいる。


 その向こうを歩く男には太い尾まであった。


「……竜種が多いわね」


「そりゃそうだ。ここはドラゴノイド種が治める街だからな」


 隣を歩くガイルが答える。


 もちろん人間種もいるし、エルフや獣人の姿もある。


 ただ、これまで通ってきた都市とは明らかに比率が違う。


 角や鱗を持つ者が、そこら中を当たり前のように歩いていた。


「ヴィヴィー、角いっぱいー!」


 頭の上からリリが声を上げる。


「そうね」


「リリも角ほしいー!」


「何に使うのよ」


「かっこいい!」


「角が生えたらうつ伏せで寝れないわよ?」


「じゃあ、いらなーい」


「みぃ」


 今度は胸元から声がした。


 服の隙間から、小さな茶色い頭が覗いている。


「あなたまで参加しなくていいのよ」


「みぃ」


 ここが自由都市ラディア。


 ドラゴノイド種のドランザートが議長を務める、七自由都市の一つだ。


 ひとまず無事に到着した。


 私たちはそのまま荷馬車とともに通りを進んでいく。


 目的地までは、もうそれほど掛からない。


「ヴィヴィ」


「何?」


「ついでに冒険者ギルドへ顔を出しておけ」


「ギルド?」


「ああ。そいつを登録しといた方がいい」


 ガイルが私の胸元を指差した。


「モカ?」


「ヴァイスティーガーをそのまま連れ歩くつもりか?」


「駄目なの?」


「今はいいけどな、こいつらは直ぐにデカくなるぞ」


 ガイルが小さなモカを見る。


「その大きさなら猫か何かだと思われるだろうからいいが、でかくなったら猛獣だ」


「みぃ」


「…………」


 母親の姿を思い出す。


 確かに、あれが何の印もなく街中を歩いていたら騒ぎになる。


「登録しておけば、飼い主のいる魔獣だと分かる。余計な揉め事を避けるためにもやっとけ」


「そういうことなら、分かったわ」


「あと、お前はテイマーじゃないからな。その辺も説明してこい」


「面倒ね」


「拾ってきたのはお前だろ」


「拾ってないわよ。この子が勝手についてきたの」


「みぃ」


 そうでしょう?


 指先で頭を撫でると、モカは鼻先を押しつけてきた。


「モカ、ぼーけんしゃになるのー?」


「違うわ」


「クエストするー?」


「歩ける様になったらね」


「みぃ!」


 胸元から抗議するような声が返ってきた。


             ◆


 荷馬車を預けたあと、私たちはラディアの冒険者ギルドへ向かった。


 中へ入ると、ここでもやはりドラゴノイド種の姿が目立つ。


 受付へ向かい、胸元からモカを取り出した。


「この子を登録したいんだけど」


「はい。従魔登録ですね。種類は――」


 受付嬢の視線がモカで止まった。


「……こちら、ヴァイスティーガーですか?」


「そうらしいわ」


「そうらしい……?」


「私は詳しくないから」


「みぃ」


 モカが鳴く。


 受付嬢は少し身を乗り出して確認していたが、やがて顔を上げた。


「テイマーの方ですか?」


「違うわ」


「え?」


「勝手についてきたの」


「…………」


 受付嬢が私を見る。


 モカを見る。


 もう一度、私を見る。


「……契約は?」


「してないわ」


「調教なども?」


「してない」


「では、どうやって指示を?」


「モカ」


「みぃ」


「大人しくしてて」


「みぃ」


 モカは私の腕の中へ身体を預け、そのまま動かなくなった。


「こんな感じ」


「…………」


 何かおかしいだろうか。


 受付嬢が困ったように眉を寄せる。


「少々お待ちください」


「ええ」


 奥へ引っ込んでいった。


「面倒になったわね」


「だから言っただろ」


 後ろにいたガイルが呆れた声を出す。


「私、何もしてないんだけど」


「それが問題なんじゃねぇか?」


 バルガスが笑う。


 しばらくして受付嬢が戻ってきた。


「お待たせしました。本人……いえ、個体が自発的に付き従っており、指示にも従うのであれば登録可能とのことです」


「そう」


「ただし、街中で問題を起こした場合の責任は登録者にあります」


「分かったわ」


 それは当然だろう。

「モカ、分かったわね?」


「......み」


「分かった?」


「みぃ...」


「では、こちらへお名前をお願いします」


 渡された用紙へ名前を書く。


「従魔のお名前は?」


「モカ・ラテ」


「モカ・ラテ……と」


「普段はモカって呼んでるわ」


「分かりました」


 受付嬢が書類へ記入していく。


「それと、登録済みであることを示す識別具を付けていただきます」


「識別具?」


「はい。こちらです」


 小さな箱が取り出された。


 中に入っていたのは、小さな金属製のピアスだった。


「これを?」


「耳に装着します。金具には登録番号が刻まれていますので、衛兵や他の冒険者から見ても登録済みの個体だと分かります」


 モカの小さな耳を見る。


「穴を開けるの?」


「はい。魔獣を街中へ連れて入る場合には、識別具の装着が必要になります」


「…………」


「みぃ?」


 モカが何も知らずに興味を示している。


「必要なら、仕方ないわね」


「石はこちらからお選びいただけます」


「石?」


 もう一つ、小さな箱が出された。


 中には色の違う小石がいくつも並んでいる。


「色に意味はあるの?」


「いいえ。登録情報は金具の方に刻まれますので、こちらはお好みで」


「そう」


 赤、緑、黄色、青、同じ赤でも薄かったり濃かったりする。


 いくつか眺め、その中の一つを指差した。


「これ」


 淡い空のような色をした、小さな石。


「スカイブルーですね」


「ええ。それがいいわ」


「みぃ」


「あなたのよ」


「みぃ?」


 分かってなさそうね。


「では、装着しますので抱いていてください」


「分かったわ」


 モカを胸元へ抱き寄せる。


 受付嬢が小さな耳を摘まみ、位置を確かめた。


「すぐ終わりますからね」


「みぃ?」


 器具が耳を挟む。何かを察したのか、モカの身体に力が入っている。


 ぱちん。


 腕の中の小さな身体が、一瞬だけびくっと震えた。


「…………」


 無意識に、抱いている腕へ力が入った。


 モカは鳴かなかった。


 ただ、私の胸へ鼻先を押しつけてくる。


「終わりました」


「そう」


 頭を指先で撫でる。


「もう終わったわよ」


「みぃ……」


 小さな耳には銀色のピアス。


 そこに嵌められた薄いスカイブルーの石が、小さく光っている。


「似合ってるわよ、モカ」


「みぃ」


「モカ、見せてー!」


 リリが私の頭から飛び降りてきた。


「きれー!」


「触っちゃ駄目よ。今開けたばかりなんだから」


「見るだけー!」


 珍しく素直ね。


 リリはモカの耳元を飛び回りながら、いろんな角度からピアスを眺めている。


「モカ、かっこいいー!」


「みぃ」


 受付嬢から登録証を受け取る。


「これで、どこへ連れていっても大丈夫なのね?」


「はい。少なくとも、野生の魔獣と間違われることはありません」


「そう」


 腕の中を見る。


 薄い空色の石が、小さな耳元で揺れていた。


「行きましょうか、モカ」


「みぃ」


 呼べば、ちゃんと返事をする。


「モカー、帰るよー!」


「みぃ」


 リリの声にも返事をした。


 ……名前を付けてから、まだ一日しか経ってないのに、随分と馴染んだものだ。


第四十八話・了

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