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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
第2章 遠征編

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第四十五話 道中

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 トラペジアを発ってから二日。


 最初に立ち寄った小さな村では、畑を荒らしている小型魔獣の群れの討伐を頼まれた。


 厄介なのは、その素早さだった。


 茂みから飛び出したかと思えば、次の瞬間には畑の反対側まで駆け抜ける。身体が小さいうえに方向転換も速く、畝(うね)や柵を使って追手を振り切るのにも慣れているらしい。見た目はウサギの様で可愛いが、動きは可愛くない。


 私やガイルなら追えない相手ではないが、その必要はなかった。


 ヒュッ――。


 短い風切り音の直後、一匹が畑の中を転がった。


 トッドだ。


 次の矢が放たれる。


 二本目は畝(うね)を飛び越えようとした個体へ突き刺さり、三本目は森へ逃げ込もうと進路を変えた一匹を正確に射抜いた。


 ただ狙っているわけではない。敵の足の速さと向きを見て、次にどこへ出るのかを先回りして射ている。


 こちらへ飛び込んできた一匹をバルガスが大槌で叩き潰し、それを最後に畑から魔獣の姿が消えた。


 私は剣を構えたまま、森と畑の境へ視線を走らせる。


「リリ、周囲に逃げたり隠れたりしている個体はもういない?」


「ちょっと待ってねー」


 リリがふわりと高度を上げ、そのまま畑の上を飛んでいく。


 ピクシーは元々、人間より遥かに鋭敏な感覚を持っている。そのうえリリには、敵対する存在を探知する《センスエネミー》の魔法がある。茂みに伏せようが、木の陰へ隠れようが、彼女から逃げおおせるのは難しい。


 しばらくして戻ってきたリリが、私の前で大きく両手を広げた。


「いなーい!」


「分かったわ。なら終わりね」


 討伐数も村人から聞いていた数と一致している。それを確認して、皆もようやく武器を収めた。


 バルガスが大槌を肩へ担ぎながら、面倒そうに息を吐く。


「ちっこくて素早い敵は、面倒だぜ」


「リリ面倒なの?」


「お前の話じゃねぇよ」


 いつの間にか目の前まで飛んできたリリを、バルガスが片手でしっしっと追い払う。


「リリもちっこくて素早いよ?」


「はいはい、そうだな」


「でしょー!」


 なぜかリリが自慢そうに胸を張った。


 私はそのやり取りを横目に、戦闘を終えたトッドへ声を掛けた。


「流石ね、トッド。判断が的確で、狙いも正確だわ」


「ありがとう」


「特に逃げようとした個体への対応が早かった。あそこで森へ入られていたら、余計な手間が増えていたでしょうね」


 仕留めることだけを考えているわけではなく、敵の動きを読み、必要なら逃げ道から先に潰す。弓の腕だけでなく、周囲を見る余裕も十分にある。


 遊撃部隊の後衛を任されるだけのことはある。


             ◆


 二つ目に立ち寄った村は、最初の村よりずっと大きかった。


 街道沿いに宿や商店が並び、小さいながらも鍛冶場まである。ここでも残されていた依頼を一件片付けたが、それ以上に重要だったのは、ここまで使ってきた装備や荷馬車の点検と補給だった。


 武器は一度使えば汚れるし、刃にも細かな傷が入る。トッドは自分たちで済ませられる程度のものを選り分け、手に余るものだけを村の鍛冶場へ持ち込んでいた。


 荷馬車についても、車輪や車軸、金具の緩みを一台ずつ確認していく。御者から道中で気になったことがなかったかを聞き、幸い大きな不具合は見つからなかったものの、こういうものは壊れてからでは遅い。


 その間に、最初の依頼で消費した矢をはじめ、ランタンの油や馬の飼料なども補充していく。


 食料そのものにはまだ余裕があったが、オルドは荷に積んである調味料を一通り確認すると、残っている塩の袋を手に取った。


「塩は補充できる時にしておこう。他にも何か香辛料でもあれば買っておこう」


 料理の味だけでなく、塩は汗をかく長旅には欠かせず、現地で手に入れた肉や魚の保存にも使える。必要な量は積んできているが、旅が予定通りに進むとは限らない以上、補給できる場所で余裕を持たせておくに越したことはない。


 こうして装備と荷馬車を整え、消耗した物資も補充してから、私たちは再び街道を進んだ。


 二つ目の村を出てからは、一日を丸々街道で過ごした。その夜は人家のない街道沿いで野営し、翌日も荷馬車を進める。


             ◆


 そして、トラペジアを発って四日目の夕方。


 私たちは三つ目の村へ到着した。


 人口は百人にも満たないだろう。深い森の入口に寄り添うように作られた小さな村で、家々の軒先には獣皮が干され、壁際には獲物を運ぶためのソリや、手入れ途中の弓が立て掛けられている。


 ここで暮らす者の多くは狩人だった。


 畑もあるにはあるが、自分たちが食べる分を賄う程度。村の外へ売るのは森で仕留めた獣の肉や毛皮が中心で、それを街道を通る商人へ売り、塩や穀物、鉄製品など村では賄えない物を手に入れて暮らしているらしい。


 今回ギルドへ出されていた依頼も、その森に関するものだった。


「トロールが三匹?」


「ああ。三日前、狩りに入った者が見つけた。幸い向こうに気づかれる前に戻って来られたが、それからは誰も森の奥へ入っていない」


 村長の話を聞きながら、私は少し眉を寄せた。


 トロール。


 ヒドラほどではないにしても、高い再生能力を持つ厄介な魔物だ。腕の一本くらいなら再生すると言われており、確実に仕留めるなら首を跳ね飛ばすか、心臓を潰すのが基本になる。


 そのうえ巨体を覆う厚い脂肪と筋肉が邪魔をして、普通の矢では致命傷を与えるのが難しい。


 トッドほどの腕なら、《ピアッシングアロー》で心臓まで貫くこともできるかもしれないが……村の狩人たちに同じことを求めるのは無理がある。


 三匹ともなれば、討伐依頼を出したのも当然ね。


「居場所は分かるか?」


 ガイルが尋ねる。


「見つけた場所なら。ただ、少し厄介でな。その辺りはヴァイスティーガーの縄張りに近いんだ」


「ヴァイスティーガー?」


「ああ。この森じゃ『森の守り手』なんて呼ばれてる。頭のいい魔獣で、こっちから手を出さなきゃ人間を襲うこともまずない。だから俺たちも、縄張りには入らないようにしてる」


 人間と魔獣が、互いの領分を侵さずに暮らしているということらしい。


 トロールは三匹。


 最後に確認されたのは、ヴァイスティーガーの縄張り近く。


 それ以上は、実際に森へ入って確かめるしかなさそうだった。


 すでに日は傾いている。森へ入るのは明日にして、今夜は村の外で野営することになった。


第四十五話・了


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