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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
第2章 遠征編

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第四十三話 旅立ち

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 翌朝、俺たちはステラ議長に見送られ、数台の荷馬車とともにステラを発った。


「ヴィヴィちゃん、また来た時はゆっくりしていきなさいよ。今度はもっとお菓子を用意しておくから」


「増やさなくていいってば。またね、ステラ」


 互いを衛星都市と言い合うだけあって、ステラとトラペジアは近い。とはいえ、今日は荷馬車を何台も連れた大所帯だ。途中で馬を休ませながら進み、トラペジアへ戻った頃には昼を大きくまわっていた。


 明日からは四、五日掛けてラディアを目指すことになる。その日はステラから運んできた荷を倉庫へ預け、各自で装備を整えると、これからの旅路に備え早めに休むことになった。


          ◆



 トラペジアの倉庫街は、日の出前から慌ただしかった。


 倉庫の扉が開け放たれ、何人もの男たちが麻袋や木箱を担いで荷馬車との間を往復している。ガラガラと石畳を転がる荷車の音に、馬のいななきや人々の掛け声が重なり、朝の冷たい空気には干し草や土埃、それに塩漬け肉の独特な匂いが混じっていた。


 これから運ぶのは、途中の村や自由都市ラディアを経由し、最終的に妖精国ミエリッキへ送られる支援物資だ。


 穀物や豆、小麦粉、塩、薬品、衣類に生活用品。食料は日持ちするものが中心で、肉も大半が塩漬けか干したものになっている。数日間も荷馬車に積んで運ぶのだから、生鮮食材が少ないのは当然だろう。


「そっちの樽は下でいい。途中で使う食料は手前へ置いてくれ。奥に入れちまうと、休憩のたびに荷を崩すことになる」


 荷馬車の横では、オルドが積み込みを手伝いながら御者へ指示を出していた。


 料理人だから食料にうるさいのかと思っていたが、見ているのは中身だけではない。重い物の置き場所や取り出す順番まで考えているあたり、旅そのものに慣れているのだろう。


 少し離れたところでは、トッドが車輪の脇にしゃがみ込んでいた。


「昨日から何してるの?」


 声を掛けると、トッドは車軸から手を離して立ち上がった。


「ステラから来る途中で少し音が変わったんだ。留め具が緩んでただけだから、もう直した」


「そんなこともできるのね」


「本職ほどじゃないけど、簡単な鍛冶仕事ならね。武器や防具も、調整や応急修理くらいならできるよ」


「へえ、器用ね」


「遠征先で壊れてから鍛冶屋を探すよりはマシって程度だから、過信しないでね」


 そう言いながら、油で汚れた手を布で拭っている。


 昨日顔を合わせたばかりの連中も、こうして旅装を整えて並んでいると、それなりに一つの部隊らしく見える。


 ガイルは御者たちと行程を確認し、バルガスは荷馬車へ積まれる荷を手伝っていた。シフォンとフィナも自分たちの荷物を馬へ固定している。


 俺も背中のバスタードソードを確かめ、腰の短剣に手を触れた。改造クロスボウも鞍へ固定してある。


「ヴィヴィー!」


 元気いっぱいな声とともに、リリが上空から降ってきた。


 私の頭の周りを一周してから、いつものように肩へ腰を下ろす。


「もう行く?」


「荷物を積み終わったらね。あなたも忘れ物ない?」


「ないよ!」


「本当に?」


「……たぶん!」


「確認してきなさい」


「はーい!」


 リリが飛び去っていく。


 あいつの場合、何を忘れるのかも分からないけど。


          ◆


 最後の荷が載せられる頃には、東の空から昇った朝日が倉庫の屋根を照らし始めていた。


 御者たちが積荷を固定する縄を締め直し、ガイルが各車両を回って確認している。


「ヴィヴィ様!」


 背後から声を掛けられ、振り返った。


 ミラが息を弾ませて、こちらへ駆けてくる。


 その後ろにはギルドマスターとサブマスター、グランティアの姿があり、さらに見知った冒険者たちも何人か見送りに来ていた。


「わざわざ見送りに来てくれたの?」


「当たり前です。しばらくお会いできなくなるんですよ?」


 ミラはそう言って笑ったが、目にはすでに涙が溜まっている。


「……もう泣いてるじゃない」


「泣いてません。これは朝日が眩しいだけです」


「まだ建物の陰だけど」


「…………」


 ミラが黙った。


 周囲から小さな笑いが漏れる。


「ヴィヴィ様の意地悪」


「ごめんってば」


 ミラは少し頬を膨らませたものの、すぐに表情を整えると、俺の後ろにいたシフォンへ向き直った。


「シフォンさん。報告書はいつも通りB-3またはC-2の形式で」


「承知しました」


 シフォンは何の疑問も挟まず、当然のように頷いた。


 それを見て、俺は眉を寄せる。


「……何の報告?」


「重要な報告書です」


 ミラが笑顔で答えた。


「私に関係ある?」


「機密事項です」


「何を書くの?」


「機密事項です」


 駄目だ。教える気がない。


 シフォンへ視線を向けてみたが、こちらも柔らかく微笑むだけだった。


「気になるんだけど」


「ヴィヴィ様は任務に集中してください」


「……まあいいわ」


 いつか見る機会もあるだろう。


「あんた、そろそろ行くんだろ?」


 グランティアが前へ出てきた。


「ええ。荷積みも終わったみたい」


「なら、あたしから言うことは一つだけさ。今回は一人でやる仕事じゃない。が、前金分はしっかり働いて貰うからね。勝手にくたばるんじゃないよ!」


「分かってるわよ。仲間を危険に晒してまで、無理を通すつもりもないしね」


 仕事の成否より、生きて帰る方が大事だ。


 成功するに越したことは無いが、依頼に失敗したなら次の手を考えればいい。死んだ奴には次なんてないんだからな。


「その言葉を忘れなきゃ十分だ」


 ギルドマスターが笑いながら私の肩を軽く叩いた。


「何かあったら戻ってこい。遊撃部隊だからって、八人だけで全部片付ける必要はねぇからな」


「ええ。無理そうなら逃げるわ」


「お前が言うと冗談に聞こえねぇな」


「逃げるのも仕事のうちでしょう?」


「それが言えるお前は凄いよ」


 ギルドマスターが声を上げて笑い、サブマスターも眼鏡の奥で目を細めた。


「それでいいと思います。情報を持ち帰ることも重要な任務ですから」


 どうやら、この辺りの考え方は合うらしい。


          ◆


「全員、そろそろ出るぞ!」


 ガイルの声が倉庫街へ響いた。


 御者たちがそれぞれ御者台へ上がり、護衛の面々も馬へ向かう。


 私も鐙(あぶみ)へ足を掛けて鞍へ上がるとリリが飛んで来て肩にとまった。ガイルが全体を見渡しながら配置を確認する。


「俺は先頭につく。トッドは後方から荷馬車全体を見てくれ。シフォンとフィナは中央、バルガスとオルドも基本は荷馬車から離れすぎるな」


 そこで俺を見る。


「ヴィヴィはリリと一緒に前後を自由に動いてくれ。何か見つけても一人で突っ込まず、まず知らせろ」


「分かってるわ」


「ならいい」


 ガイルが片手を上げた。


「出発するぞ!」


 御者の掛け声に馬が応え、先頭の荷馬車がゆっくりと動き始める。


 ギィ……ギギィ……。


 積荷の重みを受けた車輪が軋み、石畳を踏む馬の蹄が朝の街へ硬い音を響かせた。


「ヴィヴィ様!」


 ミラの声に振り返る。


 とうとう堪えきれなくなったのか、大粒の涙が頬を伝っていた。それでもミラは両手を胸の前で握り、どうにか笑おうとしている。


「絶対に帰ってきてくださいね。無茶をしないで、ご飯もちゃんと食べて、怪我をしたら我慢せずフィナさんに診てもらって、それから――」


 まだ続きそうだった。


「ミラ」


「……はい」


「行ってくるわ」


 ミラは一瞬だけ俯き、袖で涙を拭うと、顔を上げた。


「はい。行ってらっしゃいませ、ヴィヴィ様!」


 私は手を上げて応える。


 その後ろではギルドマスターとサブマスターが笑いながら見送り、グランティアは腕を組んだままこちらを見ていた。


 周囲の冒険者からも「気をつけろよ」「土産頼むぞ」と声が飛んでくる。


「土産くらい自分で買いに行きなさいよ!」


 言い返すと、どっと笑い声が上がった。


 悪くない見送りだった。


          ◆


 トラペジアの門を抜けると、石畳を叩いていた蹄の音が柔らかく変わった。


 朝の街道には薄い靄(もや)が残り、草についた露が陽射しを受けて細かく輝いている。荷馬車の車輪が乾いた土へ轍を刻み、その周囲を護衛の馬が囲むように進んでいた。


 先頭にはガイル。


 後方にはトッド。


 中央ではバルガスとオルドが荷馬車の左右につき、シフォンとフィナもそこから大きく離れない。


 俺は馬を少し速めて隊列の前へ出ると、《スコープヴィジョン》を使って街道の先を見た。


 遠くに人影が二つ。


 さらに先には荷馬車らしい影が見える。


 今のところ、妙なものはない。


「ヴィヴィー!」


 頭上からリリが降りてきた。


「何かいた?」


「何もいなーい! ずーっと道!」


「なら上出来よ。そのまま周りも見ておいて」


「はーい!」


 再び飛び上がったリリを見送りながら、俺は隊列へ視線を戻した。


 ガイルは前方だけでなく、何度も後ろを振り返って荷馬車の間隔を確認している。バルガスは退屈そうにしているが、街道脇の森へ向ける目は油断していない。オルドも御者と話しながら、ときおり周囲へ視線を走らせていた。


 なるほど。


 冒険者ギルドがわざわざ集めただけはあるらしい。


 まだ互いの得意なことも、戦い方も、全部を知っているわけじゃない。


 それでも、少なくとも背中を預ける相手としては悪くなさそうだ。


 俺は手綱を軽く引き、馬を隊列の横へ戻した。


 これから大小三つの村を経由して、自由都市ラディアまで四日か五日。


 表向きは、各地に残された依頼を片付けながら進む遊撃部隊。


 そして裏では、王国が七都市へ伸ばしている密偵や組織を発見、討伐、捕縛する。


「ヴィヴィー! 早くー!」


 前方へ飛んでいったリリが、空中でこちらへ手を振っている。


「だから先に行きすぎないの!」


「まだ見えるよー!」


「そんな遠くだと、何かあっても助けが間に合わないわよ」


 リリの笑い声が、朝の街道へ響いた。


 俺たちの後ろでは、何台もの荷馬車が規則正しく車輪を軋ませながら続いている。


 さて。


 どんな旅になることやら。


43話・了

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