第四十一話 合流
翌日。
昨日の無茶が祟って多少頭は重かったが、目眩はもうない。朝飯も普通に食えたし、歩いていて壁にぶつかることもない。
俺はガイル、トッド、シフォンの三人と一緒にステラの屋敷を訪れていた。
目的は二つ。
俺が捕まえた射手から何が聞き出せたのか、その情報共有を受けること。それと、ステラが遊撃部隊へ出す四人との合流だ。
◆
「いらっしゃい、ヴィヴィ。待ってたわ」
通された部屋では、ステラが既に茶を用意していた。
菓子まである。
予想通りだ。
「まず、射手の話を聞いていい?」
「来て早々それなの?」
「そのために来たんでしょう?」
「もう少しこう……まあ、いいわ」
ステラは苦笑しながら、俺たちに椅子を勧めた。
俺は遠慮なく座り、いくつか種類のある菓子を一つずつ取る。
「結論から言えば、あの男を生かしておいてくれて助かったわ。本人が知っていたことは大したことなかったけど、そこから随分と調べが進んだの」
「何が分かったの?」
「あの連中がどうやって集められたのか。どこで合流したのか。誰から指示を受けて、報酬がどう流れてきたのか。何人も間に挟んでるけど、辿っていった先に王国と繋がりのある人間も出てきたわ」
「王国が直接命令した証拠は?」
「そこまではまだ。でも、無関係とは考えにくいわね」
まあ、そう簡単に尻尾を掴ませるようなら、わざわざ何人も間に挟んだりしないだろう。
ガイルが腕を組んだ。
「七都市の中にも協力者がいるのか?」
「その可能性は高いと思ってる。だから、あなた達にも探ってもらうことになるでしょうね」
グランティアから聞いた話と同じだ。
表向きの依頼をこなしながら、七都市に入り込んだ王国の草を探す。
「それで、ドランザートの方は?」
俺が尋ねると、ステラの顔から笑みが消えた。
「それが何も出ないのよ」
「何も?」
「私を襲った連中は、一人捕まえたこともあって突破口があったでしょう? でも、ドランザートを襲った連中は、どこから来たのかすら分からないの」
ステラは一度言葉を切った。
「あれだけの人数が動いたのよ。どこかに泊まるでしょうし、食料も必要になる。武器だって用意しなきゃならない。それなのに、襲撃前にどこで何をしていたのか、何も出て来ないの」
それは妙だ。
人数が増えれば、それだけ痕跡も増える。
全員が飲まず食わずで、突然地面から生えてきたわけでもあるまい。
「ドランザートを狙ったのは、王国の別働隊なのか、まったく別の組織なのか。それとも……」
「それとも?」
「分からないわ。まだ情報が足りない」
同じ時期に二人の議長が狙われた。
だから自然に同じ奴らの仕業だと思っていたが、そこから疑った方がいいのかもしれない。
「私も気になってるのよ。それでね」
ステラが机の端に置いてあった地図を広げた。
七都市からミエリッキへ続く街道。その途中を指で叩く。
「あなた達は、これから通るわけでしょう?」
ドランザートが議長を務める都市、ラディアだった。
「支援物資を運ぶからな」
ガイルが答えた。
「荷馬車も多い。別の道を使う理由がない」
「だったら、少し探ってきてくれない?」
「私たちが?」
「ええ。調査のためだけに人を送れば目立つけど、あなた達はミエリッキへ行く途中で立ち寄るだけだもの」
確かに都合はいい。
どうせ通る場所なら、一日二日使ったところで大した違いはない。
「ドランザートにも話を聞いてみて。向こうでも調べているはずだから、こっちでは分からなかったことを掴んでいるかもしれないわ」
「会わせてもらえるの?」
「そのために、これを書くのよ」
ステラは紙を取り出すと、その場で紹介状を書き始めた。
「これを見せれば、ドランザートにも話は通るわ。私から頼んだことも書いておくから、向こうで集めた情報も見せてもらえると思う」
書き終えた紙を封筒へ入れ、封蝋を押して俺へ差し出す。
「ただし、今回のあなた達の仕事はミエリッキへの物資輸送よ。何か分かれば儲けもの、そのくらいでいいから」
「分かってるわよ」
「ならいいけど」
なぜか疑わしそうな目をされた。
◆
「さて、こっちの話はこれくらいにして、残りの四人を紹介するわね」
ステラが人を呼ばせると、ほどなくして四人の冒険者が部屋へ入ってきた。
真っ先に目についたのは、先頭の男――ではない。
背負っているウォーハンマーだった。
でかい。
長い柄の先に、分厚い鉄塊が付いている。
巨人族のパパからもらったのか?
そう感じさせる程、デカい。
俺より頭二つは高い。腕も肩も太く、手もでかい。
……小さな巨人族だな。
「バルガスだ」
それだけ言って黙った。
「それだけ?」
「他は見れば分かる」
ステラが呆れている。
「こんなのだけど腕は確かよ。この四人じゃ一番の前衛ね」
「こんなのって何だ」
バルガスは文句を言いながら、こちらを順番に見ていく。
最後に俺を見て止まった。
「お前がヴィヴィか?」
「そうよ」
「思ってたより細いな」
「あなたが太いんじゃない?」
「太くねぇ。でけぇんだ」
「何が違うのよ」
「全然違ぇよ」
面倒くさい奴だ。
だが、あのウォーハンマーを背負ったまま立っていても身体が後ろへ引かれていない。足腰もしっかりしている。
見掛け倒しではなさそうだ。
続いて前に出た――というより、飛んできたのは小さなピクシーだった。
掌に乗りそうな身体に、背中には透き通った二対の羽。
小さい。
そして、可愛い。
『リリ! よろしくね!』
「……ん?」
声は聞こえた。
だが、目の前のピクシーは口を動かしていない。
『《妖精の声》だよ。喋らなくてもお話できるの!』
「へえ」
面白い。
俺の周りをくるくると飛んでいたリリは、何を思ったのか、そのまま肩へ降りてきた。
『ここにする!』
「何を?」
『リリの場所!』
「……まあ、いいけど」
軽いし邪魔にもならない。
肩の上で満足そうにしているリリを見ていると、次にエルフの女が前へ出てきた。
「フィ、フィナです。精霊使いをしています。よろしくお願いします」
随分と緊張している。
俺と目が合った途端、肩がびくりと跳ねた。
「……何?」
「い、いえっ、何でもありません!」
なぜ怯える。
ステラが苦笑する。
「フィナはこう見えて腕のいい精霊使いよ。森や生命に関わる精霊術を得意としてるの。それと、治癒魔法も使えるわ」
「回復魔法を?」
「は、はい。大怪我になると難しいですけど……ある程度なら」
「そりゃ助かるな」
ガイルが声を掛ける。
フィナがそちらを見た。
さっきまでの怯えた顔のまま、ガイルの顔をじっと見る。
少し間があった。
「……軽薄そうですね」
「は?」
「よろしくお願いします」
「おい、待て」
さっきまでの怯え方はどこへ行った。
ガイルが困惑している間に、フィナはもうそちらを見ていなかった。
代わりに俺の肩にいるリリへ視線を向けている。
ちょっと嬉しそうだ。
『フィナ!』
「リリ……今日も可愛いですね」
『でしょー!』
最後に前へ出てきたのは、中年の男だった。
「オルドだ。コックをやってる」
「……コック?」
「ああ」
オルドは当然のように頷いた。
「たとえダンジョンの奥地でも、美味い飯を食わせてやる」
ほう。
それは頼もしい。
「冒険者なんでしょう?」
「もちろんだ。食材の調達から解体まで自分でやる。戦えなきゃ話にならん」
「なるほどね」
旅先でまともな飯が食える。
それだけで体の調子も随分違う。
オルドは俺の肩へ目を向けた。
「リリ。そこがいいのか?」
『いいでしょー』
「別に構わんが、飯の時は降りろよ。お前はこぼすからな」
『はーい!』
返事だけはいい。
これで四人。
バルガス、リリ、フィナ、オルド。
「出発までに、一度は全員で動きを確認しておくぞ」
ガイルが言った。
「実戦になってから初めて合わせるなんて御免だからな」
異論は出なかった。
明日、訓練場を借りて簡単な連携を確認することが決まる。
そこでバルガスが俺を見た。
「なら、ついでに俺と一度やらねぇか?」
「模擬戦?」
「ああ。一緒に前へ出るなら、お前がどんな戦い方するのか見ておきたい」
なるほど。
俺も同じことを考えていた。
あの馬鹿でかいウォーハンマーを、こいつがどう扱うのかには興味がある。
「いいわよ」
「決まりだな」
バルガスが笑った。
俺もその背中のウォーハンマーを見る。
まともに受ければ、さすがに痛いでは済まないだろう。
バスタードソードで受けるのも御免だ。
なかなかに興味深い戦いになりそうだ。
第41話・了
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