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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
一章 成長編

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第二十二話 タブー

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)

 討伐クエストの三本目は盗賊崩れの掃討だ。


 群れの(ぬし)と、はぐれのオーガ討伐は完了。ギルマスから受け取ったクエストも残るはこれ一本になった。街道を荒らす有象無象どもをまとめて掃除すれば、面倒な依頼もようやく終いだ。


 このクエストを片づけたら、ギルドマスターがもう一つ割のいい仕事を回してくれるという。相手はずいぶん身分の高いお方だとかで、詳しい話は実力を示してからだそうだ。これだけもったいぶって、中身が大した話じゃなかったら覚えてろよ。


 有象無象どもの根城まではまだ遠い。俺たちは朝から街道沿いをただ歩いていた。先頭は俺とガイル。後ろでシフォンが鼻歌交じりについてきて、トッドはしんがりをのんびり歩いている。いつもの並びだ。


 二本続けての討伐で、みんな多少は疲れが残っている様だ。俺は平気だが、口に出すと角が立つから黙っておいた。


 小一時間ほど黙って歩いた頃、隣のガイルがふいに口を開いた。


 「なあ。お前、戦闘技術をどこで誰に教わったんだ?」


 唐突だな。俺が答えずにいると、ガイルは前を向いたまま続けた。


 「あの戦い方はな。お前の実家の騎士が習う型とはまるで違う。暗殺術とも違う。医学的でもあって、獣の解体にも通じてる。倒すと言うか、動きを封じる攻撃方法だ」


 「騎士がオーガと戦ったら、腕の内側のみを狙って斬ったり、膝周りの腱を狙ったりはしない」


 「ギルドに登録したのは半年前だろう。その前は剣もろくに握ったことがなかったはずだ。なのに、これだ」


 昨日仕留めたオーガの傷。あの傷を、こいつはよほど念入りに見ていたらしい。


 「あら?」


 俺は目を細めてガイルを睨み、軽く笑ってやった。


 「女の過去を探ろうなんて、野暮なことするのね?」


 「からかうなよ」


 ガイルが横目でこっちを見る。


 「お前はいったい、『誰』なんだ?」


 「私が『誰』かなんて、些細な話よ」


 足は止めない。前を向いたまま俺は答えた。


 「今の私は中級冒険者のヴィヴィで、王国が大嫌いってだけ。それ以外、何も持ってないわ」


 ガイルはしばらく黙っていた。それからため息交じりに小さく笑った。


 「まあ、お前ならそう答えると思ったよ」


 「ごめんなさいね」


 「いや。言葉で言わなくてもいい」


 肩をすくめて、ガイルは前へ向き直る。


 「お前はこれまでの半年で、十分教えてくれたしな」


 「そう」


 それきり、会話は途切れた。



             ◆



 しばらく歩いて、俺はふと後ろを振り返った。


 「そういえばシフォン。あなた、どんな魔法が使えるの?」


 いきなりの質問にシフォンは目を丸くする。


 「おい」


 ガイルが慌てて口を挟んだ。


 「やめとけ。それはマジックホルダーにとっちゃタブーだぜ?」


 だが、遅かった。


 「はい! わたしはですね――」


 シフォンは待ってましたとばかりに、自分の手の内を並べ立て始めた。使える属性から得意な使い方まで、それはもう嬉しそうに、一つ残らず。しまいには実演までしようと、両手に魔力を集め始める始末だ。


 「おいおいおい!」


 ガイルが頭を抱えた。


 「マジックユーザーが手持ちの魔法をペラペラとバラしてどうすんだよ!」


 「シフォン、それ普通は言っちゃ駄目なやつだぞ……」


 トッドまで横で渋い顔をしている。だがシフォンはどこ吹く風だ。それどころか、聞かれてもいないことまで得意げに付け足していく。


 「お姉さまにお教えして、わたしの損になることなんて一つもありません!」


 ふんす、と鼻を鳴らして、シフォンは胸を張った。


 その誇らしげな顔を見て、俺はようやく合点がいった。


 「ああ。持ってる魔法がバレたら、対策されちゃうからって事なのね」


 道理でガイルが止めたわけだ。手の内は隠すのが常識、か。この手の作法はどうも俺には疎い。強くなる方ばかり考えていて、常識には頭が回っていなかった。

 確かにカウンターマジックの存在はもちろん、手の内のバレたマジックホルダーは攻略されやすいだろう。


 「ごめんなさい、シフォン。無神経だったわ」


 素直に頭を下げる。


 その瞬間だった。


 シフォンの目が、すうっと上を向いた。


 「お、おいシフォン!?」


 トッドが慌てた声を上げる。糸の切れた人形みたいに、シフォンはぱたりと崩れ落ちた。満面の笑みで白目を剥いている。


 「あら大変」


 俺はしゃがんでシフォンを覗き込んだ。


 「連戦の疲れが出たのね。無理をさせちゃったかしら」


 ガイルとトッドが顔を見合わせた。


 何か言いたげに口を開いて、また閉じる。二人ともなぜか、俺と目を合わせようとしない。


 「仕方ないわ。ガイル、運んであげて」


 「……は? なんで俺が」


 「あなたが一番の力持ちでしょ。ほら、早く」


 ガイルは盛大にため息をつくと、しぶしぶシフォンを背負った。


 「……何で俺が背負わなきゃいけないんだよ」


 ぶつぶつ言いながら、それでもちゃんと歩き出す。俺は聞こえないふりをした。



             ◆



 街道の先に、目当ての根城が見えてきた。廃れた宿場町だ。昔は旅人で賑わったんだろうが、今は半分朽ちて、盗賊崩れどもの巣になっている。


 遠目にも、屋根の上に見張りらしき影が一つ。細い煙も上がっている。中に何人か居るのは間違いない。正確な数と配置は、日が落ちてから改めて探ればいい。


 シフォンを背負ったガイルが、まだ何かぼやいている。その背中を横目に、俺は明日の獲物のことを考え始めた。


 人間が相手の仕事は、オーガみたいにはいかない。頭を使ってくるし、命乞いもする。時には命乞いのふりをして、刃を隠していたりもする。一番面倒なのは逃げて隠れられることだ。


 厄介なのは、いつだって人間のほうだ。


 これ以上進めば相手に気が付かれてしまうだろう。今夜はここで待機し、情報を集めるとしよう。



             ◆



 街道を外れ、木立の陰へ入る。見張りの目が届かない窪地を見つけて、そこで足を止めた。


 ガイルがシフォンを、木の根元にそっと下ろす。それでもまだ、ぶつくさ言うのはやめないらしい。


 「重かったぞ、こいつ。見た目より、ずっしり来やがる」


 「女の子に向かって、失礼ね」


 「起きてる時にゃ言えねえよ」


 トッドが小さく吹き出した。俺も、口の端だけで笑っておく。


 日はもうだいぶ傾いていた。宿場町の影が長く伸びて、屋根の見張りの輪郭もじきに闇へ溶けるだろう。


 暗くなれば、向こうの目も鈍る。忍び込むのは、それからでいい。


 「日が落ちたら、様子を見てくるわ。トッド、あんたも来て」


 「え、俺?」


 トッドが大袈裟にビクッと振り向いた。


 「アーチャーなんだから盗賊系のスキルも持ってるでしょ?ガイルはここでシフォンを守ってあげて」


 「へいへい。貧乏くじばっかりだな、俺は」


 軽口を叩きつつも、ガイルは素直に頷いた。


 そこで、ふと思い出した。


 「そういえば。あんたたち、ハンドサインは使える?」


 「はんど……何だって?」


 トッドがきょとんとする。ガイルも首をかしげた。どうやら、この面子にそんな習慣はないらしい。


 なら、教えておくしかない。潜入任務で声を出せば、それだけで気づかれる。ハンドサインは覚えて損はない技術だ。


 「じゃあ覚えて。これが『止まれ』。これが『進め』。『戻れ』はこう、『曲がれ』はこっち。右、左。手を下に払ったら『伏せろ』」


 一つずつ、手の形を作って見せていく。


 「数はこう。一、二、三……五までは片手で。あとは握って開いて、十まで数える」


 「ちょ、ちょっと待った、早い早い!」


 トッドが慌てて手を動かし、必死に真似ようとする。覚えの悪い新兵みたいで、少しおかしかった。


 その様子を、ガイルが呆れ顔で眺めている。


 「……なあ。俺はますますお前が、分からなくなってきたぞ」


 「何が?」


 「お前、いったいどこでこんな技術教わってんだよ。俺は聞いた事もないぞ」


 「あら。さっき言ったでしょう。些細な話よ」


 受け流してやると、ガイルはがりがりと頭を掻いた。それ以上は、もう聞いてこない。


 西の空が、赤から藍へ沈んでいく。


 そろそろ頃合いだ。俺はトッドに目配せをして、腰を上げた。


22話・了

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