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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
一章 成長編

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第十話 依頼

※毎朝4:00頃に投稿中!

挿絵(By みてみん)


 次に、籠手の類を選ぶ。


 手甲。前腕を覆う、しっかりした物。受けと(さば)き、それに武器を失った時の備えだ。拳で殴る気は、はなから無い。この腕で拳を固めても、痛いのはこっちだ。


 肘当ては、金属製を選んだ。革で済む所を、わざわざ重い方にする。


「そいつは金属だと重いぞ。革でも保護は――」


「これでいいの」


 保護の為じゃない。


 膝当ても、脛を覆う物も、つま先に鉄板の入ったブーツも、全部硬い物を選んだ。肘、膝、脛、つま先。当てる所に、金属を入れる。


 この体で拳を固めても意味はない。肘と膝と蹴り、硬い部位に体重を乗せる。それだけの話だ。


 店主が、選んだ品を眺めて、片眉を上げた。


「……お嬢さんにしちゃ、ずいぶん物騒(ぶっそう)な選び方だ。守るより、殴る方に寄ってやがる」


 よく見ている。


 だが、口には出さないでおいた。


「さあ。人聞きが悪いわね」


 とだけ返しておく。


 店主は、それ以上詮索しなかった。詮索しない客の方が、長く付き合えると知っているんだろう。骨太のくせに、目端が利く。



             ◆



 服も一式、見立ててもらった。


 動きやすい、短めのベスト。膝上のショートパンツ。その下に、あの黒い防具が隠れる。上から見れば、身軽な女が一人。防具を着込んでいるとは見えない。


 それと、フード付きの軽い外套。


 これは顔を隠す為だ。この街は国境に面している。王国の貴族も普通に通る。ヴィオレッタの顔を知っている人間が、いないとも限らない。


 髪も、どうにかしないといけない。


 この長さは、戦うには邪魔だ。切るのが手っ取り早い。


 ……が、やめておく。


 髪は女の命、とか言うらしいしな。持ち主の物を勝手に()るのも気が引ける。


 それに、長い方が使い出がある。まとめれば戦えるし、下ろせば印象が変わる。フードと合わせれば顔もぼかせる。切るのは、選択肢を捨てる事だ。


 後ろで一つに(くく)った。


 鏡を見る。


 ……ポニーテール、というやつだな。


 まあ、こんなもんだろう。邪魔にならないし、見た目も悪くない。凝った結い方など知らないし、覚える気もない。


 やろうと思えば手の込んだ結い方も出来るんだろうが、そんな気にはならなかった。おっさんの頭が女の髪型として思いつくのは、精々これくらいだ。おっさんのファッションセンスに期待しないで貰いたい。


 持ち主なら、もっと上手くやっただろうがな。



             ◆



 会計をした。


 伯爵一行から頂戴(ちょうだい)した路銀が、綺麗に消えた。ほとんど防具に()ぎ込んだ形だ。


 だが、後悔はない。


 命を守る物に、金を集めた。半端な物をあれこれ揃えるより、要る物に全額入れる。金が無いからこそ、使い所を間違えられない。


「毎度あり。……いい買い物をしたな、お嬢さん」


「ええ。あなたも、いい客を持ったわ」


 店主がニカッと笑った。



 外はもう、昼を過ぎていた。


 新しい服の下で、黒い防具が肌に吸い付いている。肘と膝には金属のガード。足には鉄板の入った脛当てと、つま先。頭の後ろで、(くく)った髪が揺れる。


 ……悪くない。


 昨日までの、ぶかぶかの男物を着た(ぼう)っきれとは別人だ。見た目だけは、一丁前の冒険者になった。


 問題は中身――いや、中身は上等なんだ。問題は、この中身を動かす体の方だ。


 装備は整った。


 次は、これを使いこなす体を作る番だ。



             ◆



 その帰り、ギルドに顔を出した。


 依頼を確認しておきたかったのと、ミラに店の礼を言おうと思ったからだ。


 窓口のミラが、俺を見て目を丸くした。


「ヴィ、ヴィヴィさん!? わ……別人みたいです!」


「そう? 昨日がひどすぎただけよ」


 昨日までの令嬢めいた喋り方は、もうやめていた。


 「〜ですわ」だの「〜ですのよ」だの、いちいち肩が凝る。誰彼構わず令嬢ぶる必要もない。ミラのような気安い相手には、素で喋る方が楽だ。それに、もう令嬢でもないしな。


 もっとも、俺の素は中身がおっさんだ。それが女の体から出ると、どうにも勝気(かちき)な女になるらしい。まあ、令嬢よりは俺に近い。


 令嬢の喋りは、必要な時だけ引っ張り出せばいい。あれは武器だ。使い所を選べば、よく効く。


「なんだか……喋り方も、変わりました?」


「こっちが素なの。昨日のは、よそ行き」


「そ、そうなんですね……どっちのヴィヴィさんも、素敵ですけど」


 ……素直な子だな。


「ありがと。店、良かったわ。あのおっさん、目利きね」


「でしょう? あそこの親方、腕は確かなんです」


 ミラが嬉しそうに笑った。昨日、酔漢から(かば)ってやった件を、まだ(おん)に着ているらしい。


 貸しは大事にしておく。窓口の人間と縁を作って、損な事は一つもない。……もっとも、この(なつ)かれ方は、打算だけじゃ説明がつかない気もするが。


 まあ、悪い気はしない。



             ◆



 依頼票の並んだ掲示板(けいじばん)を眺めた。


 最下級の俺が受けられる仕事は、限られている。荷運び、清掃(せいそう)(みぞ)(さら)い。それから、薬草の採取。


 どれも地味だ。だが、地味な仕事から信用は積み上がる。いきなり大仕事は回ってこないし、回ってきても今の体じゃこなせない。


 まずは舐められない実績を作る。土台から積む。順番はいつも同じだ。


「あの、ヴィヴィさん」


 ミラが遠慮がちに声をかけてきた。


「もし初めてのお仕事を探してるなら……薬草採取からが、鉄板ですよ」


 一枚の依頼票を差し出してくる。


「街の外の森で、指定された薬草を採ってくるだけ。危ない魔物(まもの)も、あの辺りにはあまり出ませんし。新人さんは、大抵ここから始めるんです」


 ……採取か。


 地味だ。だが、今の俺には丁度いい。体はまだ出来ていない。実戦は早い。まずは街の外の勝手を覚えて、少しでも金を作る。順番として、間違っていない。


 それに、(ふところ)が寂しくなってきたところだ。装備に使いすぎた。


 働くとしよう。


「受けるわ。ありがと、ミラ」


「はい! 頑張ってくださいね!」


 依頼票を受け取る。


 ついでに、修練場を使う許可も貰っておいた。今日はまだ昼過ぎだ。新しい装備の慣らしも、しておきたい。


 ……さて。明日から、新米冒険者の仕事始めだ。


 まずは、走れる足を作る。話はそれからだ。


 急ぐ旅でもない。一つずつ、片を付けていく。




10話・了

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