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観測者アルスは解き明かしたい  作者: 邑沢 迅
誕生編

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誕生編 ⑧

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 手帳を開き、ペンを持つ。


――――――――――


〇月×日 晴天


本日、『娘』エマの誕生を確認した。

これにより当屋敷における「家族」の構成要員が三名となり、新たな長期検証フェーズへと移行する。

ここに、個体の誕生に至るまでの過程プロセスと今後の展望を、記録として残しておく。



【フェーズ1:観察】


母体である妻ベリルの、妊娠期間中における精神的変容。

親の愛を知らず、正しい家族を作れるか、という強い不安と恐怖を彼女は口にしていた。

彼女の数値もまた、歓喜と同時に強烈な不安の数値が上昇。

私はこれを、知識と経験の欠如による『防衛本能的ストレス』であると定義し、観察の起点として記録した。



【フェーズ2:調整】


母体の肉体的負担を極限まで排除するため、最適な医療と人員を配置した。

「最も興味がある実験体」を安全に出力させるための、必要不可欠な環境調整である。

私が用意した庇護により、彼女の不安の数値は徐々に安定へと向かっていった。



【フェーズ3:誕生】


母体から無事に切り離されたエマに対し、即座に『感情(エモーション)数値化(スキャナー)』による数値の読み取りを試みたが、結果は【エラー】であった。


これは推測通り、対象の脳内にまだ「自我」や自己認識が形成されていないためと断定できる。



【総評】


世間一般で言うところの『感動的な我が子の誕生』という瞬間に立ち会ったものの、やはり私自身の感情の数値には一切の変化は生じなかった。


一方で、これまで私に従順に仕え、常に顔色を窺っていたベリルの変容である。


母親になった途端、強固な姿勢で要求を通した件については、計算外の大きな驚きと好奇心を刺激された。


役割が人を作るとはよく言うが、まさにこの事である。

非常に興味深いデータだ。


今後、エマに、私のこの『能力スキル』が遺伝しているのかどうか。

そして、この環境下で、彼女が一体どのような色の感情を持つに至るのか。


これは、長期的な実験となるだろう。

引き続き経過を観察する。


――――――――――


 書き終えると、僕は革表紙の手帳を、ぱたん、と静かに閉じた。


「愛情とはなにか。確かな母性愛の目覚めをベリルには感じた。僕には…何もないな」


 朝日が差し込む執務室の窓ガラス。そこに映る僕の顔は、どうしようもないほど、いつも通りだ。


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