誕生編 ②
朝の更衣室。私は自分のエプロンドレスの身支度を整え、鏡の前でパンッと両頬を叩いて気合を入れた。
「よしっ、今日も頑張ろう」
今日は確か、夜から重要なお客様をお招きしての会食の予定があったはずだ。執事のゲルトに、早めにテーブルの最終確認をしておかなければ。
そんなふうに今日のスケジュールをあれこれと考えていると、更衣室のドアが開き、ベリルがふらふらとした足取りで現れた。
「…おはようございます、マルタ…」
「おはよ…って、全然おはようって顔じゃないわね。顔色が悪いわよ、大丈夫?」
「ええ…。ただ、とても眠くて……」
ふわぁ、と小さくあくびをしながら、ベリルはフラフラと衣服を脱ぎ、いつものエプロンドレスに袖を通そうとする。
「ちょっとちょっと!あなた、今日は奥様として夜に会食のご予定があるでしょ!アルス様に御同行しなきゃいけないんだから、使用人用のエプロンを着ている場合じゃないわよ」
「…あっ…。そうでした…私ったら、頭がぼんやりして……」
そう言って苦笑いを浮かべる彼女の身体にふと視線をやり――私は、ある明らかな違和感に気づいた。
「ちょっと、待ちなさい。ベリル、あなた、その…」
「え…?」
「胸…大きくなってない?下着のサイズが全然合ってないわよ」
私の指摘に、ベリルはきょとんとした顔で自分の胸元を見下ろした。
「あっ…ほんとですね。最近、なんだか張るような感じがするなとは思っていたのですが…。…少し、太ってしまったのかしら…」
昨日の突然の嘔吐。
異様な眠気。
そして、胸の張り。
そのすべての点と点が、私の中で一本の線に繋がった。
「もしかして…ベリル……もしかすると…!」
「なんでしょう?」
私は興奮で震える手で、彼女の肩をガシッと掴んだ。
「…赤ちゃん…!」
「…えっ?」
「…」
「……」
「………」
ベリルは信じられないと言わんばかりに瞬きを繰り返し、パチパチと私と自分の身体を交互に見比べた。
そして。
「やった…やったじゃない!!ベリル!本当におめでとう!!」
私はたまらず彼女を抱きしめ、大声を上げていた。アルス様の底知れなさや、この屋敷の異質さなんてどうでもよかった。大切な友人に、愛すべき新たな命が宿ったのだ。これほど嬉しいことはない。
「早速、アルス様に急いでご報告にいかなきゃね!会食だって、もちろんキャンセルよ!」
私は弾かれたように更衣室を飛び出し、アルス様の元へと一目散に走り出した。
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