狂信者編 ⑨
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手帳を開き、微かな昂揚と共に、ペンを走らせる。
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〇月×日 晴天
本日、私邸にて、アデリア及びその夫を用いた『狂信と嫉妬の相関』に関する実験を終了した。
最終的な結果は「前提条件の否定による、自我の完全な自壊」。
アデリアが示した数値と行動の推移は、極めて典型的な「身勝手な信仰の正体」を証明するものであったため、その要点を総括しておく。
【フェーズ1:観察】
対象は、私の行っている慈善事業に過剰な感銘を受け、私という存在を「神の使者」として勝手に神格化していた。
私はこれを、現実逃避の延長線上にある、極めて利己的な偶像崇拝であると定義。
彼女が抱いていた「信仰」は、己の人生に価値を見出すための自己肯定の装置として機能していた。
【フェーズ2:調整】
妻ベリルの存在の強調、及び私邸での「平凡な夫婦の幸福」のひけらかし。
対象にとって、孤高の存在である僕が世俗の愛を楽しんでいる姿は「不純物」となり、彼女の築き上げた完璧な偶像を侵食し始めた。
これによって対象は、私への信仰を「神を悪魔から救う」という歪んだ大義名分へとすり替え、理性を磨り減らしていった。
【フェーズ3:結末】
食事中の子供のアクシデントと、私の妻への感謝が、対象の殺意を最終的な引き金として作用した。
対象はその殺意を、私を守るための「使命」に置換。
しかしその実態は、自らの思い通りにならない信仰対象を無理やり作り替えようとする、最悪の独善的行動であった。
最終的に対象は、直接存在意義を全否定され、主体性を保てずに自壊に至った。
【総評】
人間にとっての信仰とは、時に自分を特別だと思い込むための麻薬であり、同時に他者を攻撃するための大義でもある。
アデリアは私のためと言いながら、最後まで自分自身しか見ていなかった。
感情というものは、どれほど純粋に見えても極めて自己中心的にできている。
【特記事項:妻ベリルの有用性】
今回の実験において特筆すべきは、妻ベリルの存在である。
対象の嫉妬と狂信をこれほど短期間で沸点まで到達させることは不可能であった。
この成果は、妻の協力、あるいは存在そのものがあって初めて成立したと言える。
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書き終えると、僕は革表紙の手帳を、ぱたん、と静かに閉じた。
「ありがとう、アデリア。とても良いモノが見られたよ。そして、ベリル」
傍らの女性が妻としての肩書を得るだけで、こんなにも実験の幅が広がるのか。
明日、日が昇ったら。妻に、ありがとうと伝えよう。
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