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観測者アルスは解き明かしたい  作者: 邑沢 迅
狂信者編

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狂信者編 ①

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挿絵(By みてみん)

 帝都の中心に位置する、由緒正しき帝国大学の講堂。豪奢なシャンデリアが照らす壇上で、僕はベリルを伴い、満員の聴衆を見下ろしていた。今日はハルトマン伯爵からの依頼で、とある講演を行っている。


 題目は――そう、『人道支援』。かつて、使用人のマルタから説かれたことがある、それだ。


「親愛なる同胞の皆様!私たちは今、歴史上かつてない『輝ける時代』に生きています。空を見上げれば電線が走り、街には鉄の馬が駆け、帝国の魔法技術と科学は暗闇を次々と塗り替えています。しかし、皆様。その眩い光のすぐ真下に、目を背けたくなるほど深い『闇』が口を開けているのを、ご存知でしょうか」


 僕は言葉を切り、一度、聴衆を見渡す。一言一句聞き逃すまいと前のめりになる者。ぐずる子供を慌てて静かにさせる母親。


 そのうごめく群衆の中で、ひときわ熱を帯びた、異質な数値が目に付いた。



  【アデリア:アルスへの信仰 91】



「…そんな、輝かしい帝国の北部地域。スラムの路地裏では、多くの人々が煤煙に汚れ、寒さに震えながら、毎日を希望なく生きている。そこには『文明』などという言葉の欠片もありません。あるのは、ただ静かな絶望と、死への恐怖だけです」


 僕は隣に立つベリルへと視線を送る。完璧に仕立てられたドレスを纏う彼女は、僕の視線の意図を汲み取り、淑女としての優雅な微笑みを浮かべた。


「私たちが手にしているこの豊かなパン、この暖かい外套。これらは運命が私たちに与えた特権でしょうか?いいえ、違います。それは、持たざる者、倒れゆく同胞を救うために託された『責任』なのです」


 完璧だ。素晴らしい。言葉の響きも、聴衆の数値も、すべてが計算通り。僕がもう一度、アデリアという女へ視線を送った瞬間だった。



  【アデリア:ベリルへの嫉妬 73→88、ベリルへの憎悪 63→75】



 僕の隣でベリルが注目を浴びたことで、数値が跳ね上がった。なるほど、これは面白い。

 嫉妬と憎悪。まるで油を注がれた炎のように、他者への悪意が増幅していく。


「『人道』とは、書物の中に綴られた高尚な哲学ではありません。それは、今この瞬間に、冷たい石畳の上に座り込む子供の肩を抱き寄せる、その『手の温もり』のことです。言葉による救済はもう十分です。今、私たちに求められているのは、行動であり、犠牲であり、具体的な支援の力なのです!」


 僕は拳を胸の前で握り、声をもう一段階強めた。聴衆の感情がうごめき、熱狂の渦が巻き起こっていくのが視覚情報として飛び込んでくる。


「ハルトマン伯爵の御旗の元、集いましょう。皆様が今日差し出す、一切れのパン、一枚のコインが、絶望の淵にいる誰かにとっては『明日も生きていていいのだ』という『神の福音』となるのです」


 最前列に座るハルトマン伯爵に視線を送ると、彼は満足そうにこくりと頷いた。間髪入れず、ベリルが一歩前へ出て、その透き通った、朗々とした声で講演を締めくくる。


「さあ、共に立ち上がりましょう。人類がかつてないほど『優しくなれた時代』として、歴史に刻みましょう」


 一拍の静寂の後、講堂は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。


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