表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観測者アルスは解き明かしたい  作者: 邑沢 迅
恋愛編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/110

恋愛編 ⑧

※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。

挿絵(By みてみん)

「…」


 翌朝。私は、廊下の窓を拭きながら、不意に昨夜の出来事を思い出して、持っていた雑巾をぎゅっと握りしめた。


 アルス様の、あのしなやかな指先。交わした言葉。世界が色鮮やかに彩りを帯びる、瞬間。そして、あの後の…。


(…いけないわ、私。仕事に集中しなくては…!)


 ぶんぶんと頭を振り、無心で窓を磨こうとする。けれど、鏡のように磨き上げられた硝子に映る自分の顔は、隠しようもないほど真っ赤に染まっていた。


「あら、ベリル。…掃除の手が止まっているわよ。って、…顔、真っ赤じゃない」


 背後から、クスクスと笑いを含んだ声が聞こえた。振り返ると、そこには朝の給仕を終えたマルタが、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて立っていた。


「マ、マルタ。ただ、少し、熱気にあてられただけで…」

「はいはい…それで、どうだったの?白状しなさい」


 マルタが私の隣に並び、肩をぶつけてくる。隠しても無駄だということは、先日の深夜の追求で痛いほど理解していた。


「…私…返事をしたの」

「それって…例の、あれ?」

「ええ。…あれです」

「…なんて言ったの?」


 私は、窓の方を向いたまま、消え入りそうな声で答えた。


「…………よろしく、お願いします…って」


 次の瞬間、マルタの顔がパッと輝いた。


「やったわね、ベリル!!みんな――っ!聞いて――!!」

「ま、マルタ!?ちょっと、まだ業務時間内ですよ……っ」


 私の静止も聞かず、マルタは脱兎の如き速さで廊下を駆け抜けていった。

 数秒後、屋敷のあちこちから「キャー!!」「本当!?」「おめでとー!」という歓声が、一定間隔で聞こえてくる。


 ああ、マルタ…もはや各所で触れ回ってるのね…。


 遠ざかる歓喜の波を聞きながら、私はふと、磨き上げた窓の向こうにある、空を見上げた。


 本当に、よかったのだろうか。

 幸せだ。それは、間違いようのない事実。奴隷だった私が夢見ることも許されなかったほどの。


 迷っていても、仕方がない。確かにアルス様は、愛を語って下さった。どんな形になるにせよ、もう決めたこと。


 家族。

 夫婦。


 彼も、私も、本当の家族や夫婦というものを知らない。だけど、作り上げていけばいいんだ。二人だけの、夫婦を。そして、もしかしたら、増えるのかもしれない、家族を。…こうして未来を考えられるなんて、それだけで幸せだ。


 私は、彼の傍らで、あの瞳に映る景色を少しずつ鮮やかな色に変えていく。

 それが、私に再び命をくれたあの方への、たった一人の「妻」としての、一生をかけた私の使命なのだから。


「…よし、頑張ろう」


 熱い頬のまま、私は再び雑巾を動かし始めた。これから、私たちの素晴らしい物語が始まるんだ。


 そういえば、リナが、前に言っていた。


 『おとぎ話の終わりは、いつだって”みんな幸せに暮らしました”なんだから』


 きっと、”そう”なるに違いない。


※この小説を面白いと感じていただけましたら、★★★★★の評価と【ブックマーク】で応援お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ