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観測者アルスは解き明かしたい  作者: 邑沢 迅
恋愛編

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恋愛編 ③

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挿絵(By みてみん)

 ガシャン!!


 静かな朝の厨房に、陶器が砕け散る無惨な音が響いた。私は、朝食のパンを焼いていた手を止め、音のした方へ駆け寄った。


「ベリル!? 大丈夫?」


 そこには、床に散らばったティーカップの破片を前に、呆然と立ち尽くすベリルの姿があった。


「…あ……すみません…私……」


 ベリルの声は、どこか遠い場所から届いているかのように虚ろだった。

 淑女としての教育を受け、アルス様の側近として完璧な所作を身につけていた彼女が、食器を割ったぐらいで狼狽えている。


「いいわ、片付けは私がやるから。…ねえ、ベリル。昨日、アルス様と何を話したの?」


 私が破片を拾おうと手を伸ばすと、ベリルはびくりと肩を揺らした。


「…何でもありません。ただの、今後の屋敷の管理についての相談です」

「嘘ね。今のあなたの顔、引きつっているわよ」


 いつもなら凛としている彼女の瞳が、今は迷子になった子供のように泳いでいる。それからのベリルは、見ていられないほどだった。

 掃除をすれば角に埃が残り、お茶を淹れれば茶葉の量を間違える。


 何より異常だったのは、アルス様への態度だ。


「ベリル。…少し、肩を揉んでくれないか」


 書斎から聞こえてきたアルス様の静かな呼びかけ。いつもなら「はい」と即座に向かうはずのベリルが、その時は数秒間、扉の前で金縛りにあったように固まっていた。


「…申し訳、ございません。今は少し手が離せませんので、マルタを行かせます」


 あからさまな、拒否。代わりに向かった私が書斎に入ると、アルス様は机に頬を突き、去っていくベリルの足音を「楽しそうに」見送っていた。


「彼女は…そうか、ふむ…」


 アルス様は何か考えを巡らせている…いや、困っている?ようだった。あまり、というか、ほとんど見たことがないその表情。これは…ベリルの調子が悪いのではない。アルス様が、彼女の心の中に「何か」を放り込んだのだ。


(毒、いや、このような表情をなさっているのは、それとはもっと別の…何か違う…)


 アルス様に直接…いや、だめだ。今は無為に刺激せず、まずは、様子を見よう。


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