愛情編 ⑩
※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。
手帳を開き、いつになく速く、ペンを走らせる。
――――――――――
〇月×日 曇天
本日、屋敷にて、ガイ、及びその家族を用いた『愛情と自責の相関』に関する実験を終了した。
最終的な結果は「罪悪感による、防衛的自壊」。
ガイが示した数値の推移は、極めて典型的な「人間の脆弱さ」を証明するものであったため、その要点を総括しておく。
【フェーズ1:観察】
対象は、過去の加害経験を「忘却」と「現在の幸福」によって塗り潰していた。
私はこれを、汚れた布の上に新しい絵を描くような、不完全な隠蔽であると定義。
彼が守ろうとしていた「愛情」は、自己防衛を兼ねた、自己肯定の装置として機能していた。
【フェーズ2:調整】
妻アンナへの情報の開示、及び日常的な「親切」という名の圧力を付加。
ガイにとって、僕の存在そのものが「生きた過去の証拠」となり、彼が築き上げた幸福な家庭という虚像を侵食し始めた。
これによって対象は、外部からの攻撃ではなく、内なる「自責」という毒によって理性を磨り減らしていった。
【フェーズ3:結末】
庭園での息子パウルの純粋な偶然が、対象の被害妄想を最終的な引き金として作用した。
対象は被害妄想を、家族を守るための「大義」に置換。
しかしその実態は、自らの醜い過去を曝け出す恐怖から逃れるために、愛する家族をさらなる困窮へと引きずり込むという、最悪の利己的行動であった。
最終的に対象は、過剰なストレスによる突然死に至った。
【総評】
人間にとっての愛情とは、時に自分を守るための盾であり、同時に自分を呪う鎖でもある。
ガイは愛ゆえに壊れ、ベリルは壊れた愛を見て僕への依存を深めた。
実に、矛盾に満ちた面白い種族だ。
【特記事項:ベリルの数値変動】
今回の実験において最も不可解だったのは、使用人ベリルの数値推移である。
私への愛情の数値が、上昇傾向にあるのだ。
他者の家庭の崩壊、及び僕の観察を目の当たりにしながら、なぜ彼女の数値が上昇したのか。
通常の論理であれば、恐怖や嫌悪が増加するはずである。
「壊れた愛情」を見たことで、消去法的に「管理された支配」に安寧を見出したのか。
現時点では、僕の能力でも解明できない。
これは、未知の変数として残し、経過観察を続ける。
――――――――――
書き終えると、僕は革表紙の手帳を、ぱたん、と静かに閉じた。
「家族というものは、とても面白い」
一家の支柱を失った家族の数値変遷も気になる。しばらくは屋敷で面倒を見よう。
※この小説を面白いと感じていただけましたら、★★★★★の評価と【ブックマーク】で応援お願いします。




