愛情編 ⑤
「見て見て、パウル!お花がいっぱいだ!」
私は、眩しい太陽の下で、一面に広がるお庭を駆け回った。王国の街が燃えて、お父さんとお母さんと一緒に真っ暗な道をずっと歩いていた時は、もう二度とこんな綺麗な景色は見られないんだって思ってた。
でも、このお屋敷は、まるでおとぎ話に出てくるお城みたい。ふかふかのベッドに、温かくて美味しいスープ。それに、お人形さんみたいに綺麗なベリルさんが、いつも私たちのことを見ていてくれる。
「リナさん、パウルさん。あまり走り回ると転んでしまいます。…あちらに、冷たいお飲み物を用意してありますから」
ベリルさんが、すてきな仕草で私たちを呼ぶ。彼女の着ている服はとっても素敵で、本当はどこかのお姫様なんじゃないかって、私とパウルでこっそり話していたの。
「ねえ、ベリルさん。アルスおじさんはすごいね!」
「ふふ、そうですね、凄い方です。この美しい庭も、美味しいお料理も、すべてアルス様が与えてくださったものですから」
ベリルさんは少しだけ寂しそうに笑って、私たちの頭を優しく撫でてくれた。アルスおじさんは、お父さんの「古いお友達」なんだって。
かっこよくて、お洋服もピカピカで、いいにおいがするし、お話しする時はいつもニコニコしている。
でも…。
(お父さん、どうしてあんなに震えてるんだろう)
お父さんは、このお屋敷に来てから、ずっと怖い夢を見ているみたい。おじさんとお話しする時も、なんだか泣きだしそうな顔をして、ずっと下を向いている。
お母さんも、なんだか難しそうな顔をしてそれを見てる。
「…リナさん。何を考えているのかな?」
急に、後ろから声がした。
振り返ると、そこにはアルスおじさんが立っていた。いつの間にか、すぐ近くまで来ていたみたい。
「アルスおじさん!お父さん、病気なの? 何だか元気がないの」
【リナ:幸福感 82、父親への憂慮 64、アルスへの信頼 93】
「そうだね。君のお父さんは、少し疲れているんだ。君たちを守るために、必死だったのさ。…それより、リナさん。この花を知っているかい?」
アルスおじさんが、オレンジ色の花を一輪、私に差し出した。
「かわいい…」
「マリーゴールド、って言うんだ。綺麗だろう」
それを見つめるおじさんの瞳も、吸い込まれそうなほど綺麗だ。
でも、なんだろう。おじさんの目には、私たちが映っていないみたいに見える。空の星とか、全然違う遠くのものを見ているような、そんな感じ。
「ありがとう、おじさん!このお屋敷、大好きだよ!」
「それはよかった。…ゆっくりしていくといい」
おじさんは、またニコニコしながらお屋敷に戻っていった。私は、もらったお花を大事に握りしめて、またパウルと一緒に走り出した。
こんなに素敵な場所なんだもん。お父さんもきっと、そのうち元気になって、みんなで楽しく暮らせるよね。
そう。
おとぎ話の終わりは、いつだって
「みんな幸せに暮らしました」
なんだから。
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