勇者編 ⑥
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手帳を開き、白紙のページへとペンを走らせる。
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〇月×日 快晴
本日、『勇者』の観察を終了した。
最終的な結果は「完全自壊」。
予想されていた生存、あるいは更生への分岐は一切発生せず、全個体が最も高い期待値に収束した。
だが、満足のいくデータが得られた。あらためて、この「実験」の推移を総括しておく。
【フェーズ1:調整】
パーティ在籍中、私は『感情数値化』を使い、彼らの精神構造のログを取り続けた。
結論から言えば、彼らの「絆」とは、互いの欠損を補い合う高尚なものではなく、単なる「依存の押し付け合い」だった。
勇者レオンは「他者への優越感」で自尊心を保ち、
戦士ガストンは「強者への寄生」で責任から逃れ、
聖女クラリスは「清廉な仮面」で自らの欲を隠蔽していた。
私は彼らが不具合を起こさないよう、数値を調整し、不満を予め間引いていたに過ぎない。
【フェーズ2:観察】
私がパーティを去る際、レオンに投げかけた言葉。あれは予言でも呪いでもない。単なる事実の提示だ。
管理者がいなくなったパーティは、蓄積された恩恵を使い果たした後、自身の重みに耐えきれなくなる。
私が彼らに直接手を下した回数は、ゼロだ。私はただ、彼らの目の前に「自分自身の醜悪さ」を映す鏡を置いただけだ。
鏡を見て発狂したのは、鏡のせいではない。映っている本人の顔が醜いからだ。
【フェーズ3:崩壊】
ガストンの離反、クラリスの逃亡、そしてレオンの社会的失墜。これらはすべて、ドミノ倒しのように連鎖した。
特に興味深かったのは、聖剣がレオンを拒絶した瞬間だ。私の見立て通り、「聖剣」は周囲の観測によってその出力を決定する。
私が周囲の評価値を底上げする「広報」を止め、代わりに「真実」を流布した結果、聖剣はレオンを「勇者」と認識できなくなった。
レオンが絶望したあの表情――自尊心という最後の柱が音を立てて崩れ去るあの瞬間。
自己防衛の本能が完全に機能不全に陥ったあの瞬間に立ち会えた喜びは、筆舌に尽くしがたい。
【総評】
人間とは、これほどまでに脆く、そして美しい。
私にあるのは、達成感ではない。
「納得」だ。
計算式が正しく解かれ、期待した通りの解が得られた。
『自己顕示欲と自尊心の塊』からは、もう新しいデータは期待できない。
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日記を書き終えると、僕は革表紙の手帳を、ぱたん、と静かに閉じた。
次は、何で遊ぼうかな。
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