淑女編 ⑪
※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。
静まり返った書斎で、僕は手帳へと手を伸ばした。
――――――――――
〇月×日 快晴
本日、帝国における「宝石」ベリルの実験を終了した。
当初の最終的な結果は「慢心による自滅」。
しかし、使用人マルタの介在によって、極めて稀な『生への回帰』という形での継続観察となったため、その推移を総括しておく。
【フェーズ1:観察】
ベリルは当初、自尊心がほぼ欠如した状態であった。
私はこれを、あらゆる価値を注ぎ込める「空」であると推測。
彼女の「救済への渇望」を、僕への『愛情』に変換できるかを確認するため、『淑女』としての再構築を開始した。
【フェーズ2:調整】
ベリルには「仮初めの価値」を与え、自尊心の肥大化を誘発。
彼女には「独立」という名目の自由を付加し、僕という盾を外すことで、 潜在的な傲慢さの顕在化と、僕への感謝の維持を天秤にかけた。
【フェーズ3:結末】
実験は予測し得た「失敗」であった。
社交界にて、彼女は自らを本物の宝石と過信し、僕の管理を否定。
しかし盾を失った途端に周囲の嘲笑に晒され、その自尊心は粉々に砕け散った。
だが、特筆すべきは、その後の使用人マルタの「人道的介入」である。
廃棄されるべき不良品に対して「同情」を感じ、自らの地位を揺るがしかねない上申を行う非合理な行動を取る。
これによってベリルは自らの矜持を以ってマルタを救済。
このまま実験を完全に終了するのは非常に勿体ない。
私は、彼女を「再雇用」し、経過観察することに決めた。
【総評】
注ぎ込まれた自尊心が大きければ大きいほど、それが剥がれた際の孔は深い。
特に最後に見せた、誇りを捨ててでも私に縋り付く姿。
これこそが、人間の持つ最も醜く、そして生存に特化した感情といえる。
ベリルの「転換」が、今後どのような変化を見せるか、あるいは「愛情」という結論に繋がるのか。
不明な点が多いことは留意すべきだろう。
――――――――――
書斎の椅子に身を預けながら、僕は皮表紙の手帳をパタンと閉じた。
「…」
人道…。
”それ”がマルタを奇行へと誘ったのか。あるいは、その行為がベリルに変化をもたらしたのか。
「想定は違ったけど、今回も面白いものが見られた。特に、彼女ら二人…経過観察をかかさないようにしないと」
人間性…もっと実験と観察を重ねれば見えてくるはずだ。
さあ、次は何をしようか。
※この小説を面白いと感じていただけましたら、★★★★★の評価と【ブックマーク】で応援お願いします。




