表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観測者アルスは解き明かしたい  作者: 邑沢 迅
淑女編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/123

淑女編 ⑨

※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。

挿絵(By みてみん)

「…あら。随分とお早いお帰りですこと、ベリルお嬢様?」


 夜更けの屋敷。エントランスの重い扉を叩き、転がり込むように入ってきた彼女の姿を見て、私は思わず唇を歪めた。

 数時間前までのあの傲慢な美貌はどこへやら。ドレスは乱れ、髪飾りはどこかへ落とし、化粧は涙で無残に崩れている。

 その姿は、かつてこの屋敷へ来たときのものと、何一つ変わっていなかった。


「アルス様は!? アルス様はどこにいらっしゃるの!?」

「旦那様なら、書斎で読書をされておりますわ。…ですが、あの方の名前を叫ぶのはおやめなさい。今のあなたは、あまりにも見苦しい」


 私の言葉など耳に入っていない様子で、彼女は階段を駆け上がろうとする。けれど、その足を止めたのは、二階の踊り場に音もなく姿を現したアルス様の、冷徹な一言だった。


「――騒々しいね。夜中に騒ぐのはやめてくれないか」


「アルス様! 私、私、酷いことを言われましたの!

 あの方たちが、私が偽物だとか…!」



  【ベリル:自尊心 84→72、傲慢 88、焦燥 68、アルスへの愛情 26】



 彼女が縋るようにアルス様を見上げる。けれど、その瞳には、かつてのような「教育者」としての光は微塵もなかった。


「事実だよ。ベリル」


「…え?」

「月を見たことがあるかい?あれは、自分で光を放っている訳じゃないんだ。光、そう、太陽があってこそ、夜空に美しく輝くんだ。僕が言いたいことが、わかるよね」

「…それって…」

「マルタ、彼女を外へ。ああ、彼女の衣服と装飾品も回収しておいてくれないか」

「そんな…嫌! 嫌ですわ! 私は、私は…!」


 ベリルが泣き叫び、踊り場のアルス様へ駆け寄る。裾を掴もうとするけれど、アルス様は不快そうにその手を振り払い、私に催促した。


「マルタ。聞こえなかったのかな」


 私は、アルス様のその冷徹な処遇に恐怖を感じた。彼は慈悲深い人格者である。それは間違いない。我々、使用人も元をたどれば彼女と大差ないのだ。娼婦、物乞い、未亡人…。日々の暮らしですら、困窮していた我々を救ってくれたのがアルス様だ。


 だが、この、傲慢な元奴隷への処遇は、あまりにも、血が通っていない。


 しかし、使用人の分際で、意見をしてもよいものか。自分も彼女と同じ様に捨てられるのではないか…。


「あ、アルス様…」


 だが、そんな逡巡を無視して、私の声帯はひとりでに音を発した。


「お、…お言葉、ですが…慈悲は…。彼女に、機会を…与えることは、可能でしょうか…」



  【マルタ:恐怖 52、ベリルに対する同情 32】



「…ほう?マルタ、何故かな?」


 私は恐る恐るアルス様に問いかけた。アルス様は私の発言に怒りを露わにするでもなく、興味深く聞き返す。その感情が無い視線で、次の言葉を紡ぐ事ができない。

 恐ろしくなって目をそらした先には、ベリルが床に這いつくばり、私の言葉を祈るように待っていた。


「彼女は、元奴隷です…。そして私も、地獄からアルス様に救われた身。確かに、彼女は勘違いし、アルス様のお顔に泥を塗りました。しかし、また、同じ環境に逆戻りさせるというのは…、その、あの………人道的に…どうかと…」


「人道的…!なるほど!僕に人道ヒューマニズムを説くのかい!いいよ、教えてくれ!君が思う、その『人道』とやらを!」


 アルス様はパチン、と手を叩き、表情を崩した。しかし、その目の奥は一切笑っていない。


「…私は無学です。アルス様の様な教養は一切ありません。ですが、人間が人間たりうる指針は…、あるものかと存じます…」


 あまりの緊張感で、乾ききった口内。

 しかし、私は恐る恐る、言葉を紡いだ。


※この小説を面白いと感じていただけましたら、★★★★★の評価と【ブックマーク】で応援お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ