淑女編 ⑦
「――どうだい、ベリル。自分でも惚れ惚れするだろう?」
鏡の前で髪を整える彼女の背後から、僕は静かに声をかける。視界に浮かぶ数値は、僕の予想した曲線を見事に描いていた。
ただ、一点を除いて。
【ベリル:自尊心 94、傲慢 98、アルスへの感謝 8、アルスへの愛情 21】
彼女を、最悪の環境から、最高の舞台へ押し上げた。しかし、自尊心、傲慢といった数値と反比例するように、僕に対する感謝や愛情の数値が低下傾向にあったのだ。
実に面白い。
ただ単純に与えるだけでは、特別な愛情は芽生えないのか。
(そう、例えば、僕の両親のような…自己犠牲を伴う、愛情)
僕という存在すら、自身の輝きを維持するための「舞台装置」程度にしか思っていない。だが、これはこれで実験のし甲斐がある。
「ええ。アルス様。…ですが、この髪飾りは少し地味ではないかしら?今夜の舞踏会には、もっと私に相応しいものを用意してほしかったわ」
注文。
そして、傲慢な一瞥。
僕は更なる好奇心と共に、恭しく頭を下げて見せた。
「おや、それは失礼したね。ベリル、君の言う通りだ。君はもう、僕が横にいて細かく指示を出す段階は終わったのかもしれない」
僕はわざと、少しだけ寂しげなトーンを声に混ぜる。彼女の自尊心を、最後にひと回しだけ煽るための調味料。
「今夜の公爵主宰の舞踏会。あえて僕は同行しない。君一人で、帝国最高の宝石であることを証明しておいで。…僕の支えなどなくても、君なら会場のすべてを魅了できるはずだ」
「…私一人で?」
一瞬だけ、彼女の瞳に不安の色がよぎる。だが、それはすぐに肥大化した「自負」によって塗り潰された。
「当然ですわ。ふふ。アルス様もようやく気づかれましたのね。よろしいわ。私一人の力で、あの方たちを跪かせて見せますわ」
【ベリル:自尊心 94→100、傲慢 98→100】
「期待しているよ。ベリル」
僕は彼女を送り出し、その馬車が屋敷の門を抜けるのを窓から見送った。
彼女が”彼女”たることができたのは、管理者である僕が周囲に”そう”見せているからだ、ということを、彼女は理解していない。
僕の予想の通り、破滅の道を往くのか。想像を覆す、淑女ぶりを発揮するのか。特等席から観劇させてもらうとしよう。
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