淑女編 ⑥
鏡の中に、完璧な存在がいた。
絹のドレス。
宝石を散りばめた髪飾り。
そして何より、一点の曇りもない、気品に満ちた微笑み。
かつて、私が檻の中で這いつくばっていたなんて、誰が信じるだろう。今や、”それ”以前の記憶は、私にとって「悪い夢」でしかなかった。
(ああ…。やはり、私はこうなるべき人間だったんだわ)
あのおぞましい奴隷市場も、鉄格子も。あれは単に、世界が私の価値に気づくのが遅すぎただけの、不幸な間違い。
それをアルス様が見出したのは、当然の帰結。彼は優れた審美眼を持っていた。ただ、それだけのこと。
廊下ですれ違う使用人たちが、怯えたように頭を下げる。私は彼女たちの視線を浴びるたび、最高の優越感に浸る。
かつて私をゴミ扱いした彼女たちは、今や私のドレスの裾に触れることすら許されない。
所詮、「使用人」に過ぎないのだ。
「ベリル。今日の仕上がりも完璧だね」
部屋に入ってきたアルス様が、満足げに目を細める。以前の私なら、この言葉に震えるほど感動し、彼の足元に跪いたかもしれない。
でも。
「ええ、当然ですわ。これだけの素材ですもの…。アルス様も流石と言わざるを得ませんわ。私の美しさをここまで引き出すなんて」
私は優雅に扇を広げ、さも当然かと言わんばかりに彼を一瞥した。
私の美しさ。
私の教養。
それはすべて、私自身の才能が開花した結果。
そもそも光を放つ私を磨き上げたのは私自身。彼が行った事と言えば、私と言う原石を拾い上げて、綺麗に洗った程度の、些細なことに過ぎない。
「そうだね、ありがとう」
アルス様は微笑んでいたけれど、その瞳の奥は何一つ笑っていない。
けれど、今の私にはそんなことはどうでもよかった。なぜなら、私はもう、誰かに愛されたり、認められたりする必要なんてないから。
私には、この「完璧な私」という、絶対的な価値があるのだから。
【ベリル:自尊心 88→94、傲慢 56→98、アルスへの信頼 36→21】
愛? 信頼?そんなものは、弱者が縋るための藁だ。私はもう自由。そして、誰よりも高貴。
この色づいた光輝く世界に、燦然と在るのが宝石たるこの私。帝国の誰もが、私の前に跪き、その美しさを称賛する日が来る。
ベリルという美しい名も、アルス様が与えたものではない。神が、アルス様を通して、至宝たる私に与えたもうたのだ。
それが、私の正当な権利なのだから。
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