アルスの過去編 ④
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「ねえ、アルス君。…痛くないの?」
学校の裏庭。
泥だらけで座り込むアルス君の隣に、私はそっと座り込んだ。彼の頬には、さっき投げつけられた石で切れたような傷跡がある。
なのに、彼は泣くことも、怒りに震えることもなく、ただ水たまりに映る自分をじっと見つめていた。
「痛みはあるよ」
「怒らないの?いつも、こんなに酷い事されて」
「怒る意味がない。僕が怒りを露わにしても、彼らの行為は収束しない。感情で動く彼らの根本的な原因を解決する術はない。理解できないものへの恐怖は、僕も理解している」
アルス君の言葉は、いつも冷たくて、どこか遠い国の言葉みたいだった。
ガイ君や他の子たちは、そんな彼を「不気味だ」「人間じゃない」と言っていじめている。
そして最近では、彼と一緒にいる私も、同じように無視されたり、意地悪をされたりするようになっていた。
私の胸は、いつも不安で押しつぶされそうだった。昨日も、靴の中に砂を入れられていて…。それを思い出すだけで、涙がこぼれそうになる。
【ミラ:恐怖 65、悲哀 72、憤怒 10、アルスへの同情 48】
「君は、なぜ泣いているんだ?」
アルス君が、不思議そうに私を覗き込んできた。
その瞳には、私への同情も、申し訳なさも一切ない。ただ、興味深そうに観察しているだけ。
「僕と一緒にいなければ、君はそんな無意味な数値を上げずに済む。
なぜ、彼らと行動を共にしない?」
「…自分でも、分からないよ。でも……」
私は、震える手でアルス君の傷をハンカチで拭った。
アルス君は拒まなかったが、喜ぶ様子もなかった。
「アルス君を放っておくと、自分が嫌いになりそうだから。
世界から消えてしまいそうだから」
誰にも理解されず、誰の心とも触れ合わず、ただ一人で虚空を見つめる彼。
それが、どんなに大声で泣き叫ぶ子よりも、ずっと寂しく見えたから。
私が寄り添うことなんて、彼にとっては何の意味もないのかもしれない。
それでも、私は明日もアルス君の隣にいたいと思ってしまう。
好きとか、嫌いとかじゃない。
自分にだけは、嘘をつきたくなかったから。
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