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観測者アルスは解き明かしたい  作者: 邑沢 迅
花嫁編

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花嫁編 ⑩

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 座席へと深く座り直し、僕は手帳を取りだした。


――――――――――


〇月×日 快晴


本日、帝都における「清廉の白百合」リリア、及び「騎士」レイの観察を終了した。

最終的な結果は「抑圧された色欲の爆発」。

しかし、レイの経過は極めて興味深く、驚くほどに色彩豊かな自滅であったため、その推移を総括しておく。



【フェーズ1:観察】


リリアは「貞操観念」を自己の生存価値の核としていた。

私はこれを、剥き出しの「色欲」を抑え込むための「堤防」であると推測。

同様にレイの「愛」もまた、リリアを己の望む「偶像」に固定するための『独占欲』の変形であると定義し、接触を開始した。



【フェーズ2:調整】


リリアには「異物」による触圧を与え、堤防の決壊を誘発。

レイには「毒」を付加し、偶像の汚染を自覚させることで、潜在的な嫉妬心の顕在化を促した。



【フェーズ3:結末】


実験は驚きの結果であった。

寝室にて、レイは、リリアの裏切りを糾弾するのではなく、その「不浄」を眼前にて実行させることで自らの興奮を極点まで上昇させた。

最後は、絶頂の瞬間に刃で貫くという、これまでに無いほどの「物理的」な救済で幕を閉じた。

「愛情」という名の感情が、論理の果てに自らを全否定し、破壊する様は実に見事であった。



【総評】


これまでの実験体の中でも、今回の二人は「美徳」という燃料が豊富であった。

強く抑え込まれた感情ほど、解放された際のエネルギーは凄まじい。

特にレイが最後に見せた、狂気と正義の未分化な状態。これこそが、人間の持つ最も美しく、納得し難い感情といえる。

しかし「それ」に至った経緯が不明瞭であり、不明な点が多いことは留意すべきだろう。


――――――――――


 馬車の揺れに身を任せながら、僕は皮表紙の手帳をパタンと閉じた。


「…」


 独占欲の成れの果て、かと思ったが、どうやら違う…。彼が最期に見せたあの表情は、喜びだったのだろうか。刺し貫いた彼の想いはどこにあったのか。


「今回も、いいモノが見られた…けど、理解も納得も、できたとは言い難いな…」


 その、愛という名の狂信を僕は理解したい。もっと実験と観察を重ねれば見えてくるはずだ。


 さあ、次はどこへ行こうか。


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