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観測者アルスは解き明かしたい  作者: 邑沢 迅
花嫁編

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花嫁編 ⑤

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挿絵(By みてみん)

 夜の帳が下り、私の寝室は重苦しいほどの沈黙に包まれていた。数日後に迫った結婚式への高揚感など、今の私にはどこにもない。あるのは、身体の奥底で燻り続ける、正体不明の「熱」だけ。私は独り、豪華な寝椅子に身を横たえ、自分の乱れた呼吸を数えていた。


「――お呼びでしょうか、リリア様」


 扉の向こうから、私を惑わせる澄んだ声が響く。


 青年、ルカ。


 私の静謐な世界をかき乱す、忌まわしき異物。本来なら遠ざけるべきだと分かっているのに、私は抗いがたい誘惑に負け、彼をこの私室へと招き入れてしまった。


「…脚が、少し疲れているの。揉んでくださる?」


 それは、最悪な言い訳だった。


 帝国の至宝と謳われる私が、名もなき下働きに肌を触れさせるなど、あってはならないことだ。けれど、言葉が口を突いて出た瞬間、私の背筋には甘美な震えが走った。


「…失礼します」


 ルカは跪き、私の足元に手を添えた。絹の靴下越しに伝わる、青年の指先の熱。その感触は驚くほど優しく、そして——悍ましいほどに官能的だった。


 ルカの瞳を見下ろすと、そこには穢れを知らない「純粋な服従」だけがある。その無垢な瞳に射抜かれるたび、私の胸の奥で何かが決壊していくような、恐ろしい音が聞こえてくる。


(…ああ。これは、きっと、一時の気の迷い。相手はただの青年。私という気高い存在を脅かすものではないわ)


 私はそう自分に言い聞かせる。レイ様は、私を「清廉の白百合」として大事にして下さっている。けれど、この青年は、私を「一人の女」として、その指先で解きほぐしていく。


 指が、ふくらはぎを、そして膝の裏を。


 彼は、あくまで私の指示に従順に、奉仕を行っている。ただ、それだけだ。しかし、私は婚姻を控えた女らしからぬ事を考えてしまっている。


(まさか、この先を、望んでしまっているの…?いいえ、そんなはずは、ないわ。ありえない)



   【リリア:貞操観念 88→65、色欲 30→53】



「リリア様…お加減は、如何でしょうか」


 ルカが顔を上げ、潤んだ瞳で私を見つめる。その何でもない問いが、どんな罵詈雑言よりも深く、私の魂を汚していった。


(はしたない…恥ずかしい…。でも、ああ、レイ様、申し訳、ありません…)


 私は、彼の柔らかな髪に指を這わせる。いや、這わせてしまった。ルカは、はっと驚くような表情を見せたが、拒絶の意思は感じない。この感情を受け入れてしまえば、もう、後戻りはできない。理性が警鐘を鳴らしている。


 でも、私は聞こえないふりをした。



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