花嫁編 ③
結婚式を数日後に控え、私の屋敷はかつてないほどの慌ただしさに包まれていた。届き続ける祝いの品々、絶え間なく訪れる貴客、そして式の細部を確認する事務官。
その全てを優雅に捌きながら、私は「清廉の白百合」としての役割を完璧に演じ続けていた。疲労はある。けれど、それ以上に自分が「正解」の中にいるという充足感があった。
そんな折、老執事に連れられて一人の青年が私の前に現れた。以前の掃除人が逃げ出したとかで、急遽雇われた新人だという。
「ルカと申します。精一杯、努めさせていただきます」
青年――ルカは、深く頭を下げた。
一目見て、私はその「造形」に目を奪われた。まだ幼さの残る顔立ちは驚くほど整っており、その瞳は穢れを知らぬ少年ように無垢で、森の奥の湖のように澄んでいた。
【リリア:自己愛 85、貞操観念 92→88、色欲 12→22】
けれど、ただ美しいだけではない。どこか危うく、壊れそうな雰囲気が、私の視線を捉えて離さない。
「…よろしくね。粗相のないようにしなさい」
私は努めて冷静に言葉を返し、彼を下らせようとした。
だが、その時。
お茶を運ぼうとしたルカの指先が、わずかに震え、私の手に触れた。瞬間、頭の芯が痺れるような、冷たい熱が走った。
「ああ…申し訳ございません!リリア様!」
御盆を置き、慌てて跪くルカ。その拍子に、彼の首元から淡い白檀のような、清潔でいてどこか扇情的な香りが漂い、私の鼻腔を突いた。
ドクン、と。
心臓が大きく跳ねる。
レイ様への、あの清廉な純愛とは違う。もっと鋭く、もっと根源的な…。私の中の下で眠っていた「何か」が、外を求めて牙を剥いたような感覚。
(…な、何かしら。この感覚は)
動揺を隠すように、乱暴に彼を下がらせ、一人になった室内で、私は自分の掌を見つめる。ルカの指が触れた場所が、焼けるように熱い。
【リリア:自己愛 85→90、貞操観念 88、色欲 22→30】
「…私は、汚れてなど、いないわ…。
ああ、レイ様、早くお会いしたい…」
私は鏡を直視できず、手近な聖典を強く抱きしめた。けれど、私の鼻腔にはまだ、あの青年の香りがこびりついて離れないのだった。
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