花嫁編 ②
剣を振るう。大気を切り裂く鋭い音だけが、静まり返った訓練場に響く。全身から噴き出す汗が、騎士としての規律と、僕という存在の正しさを再確認させてくれる。
帝国騎士団の若き精鋭。
そして、帝国最高峰の美徳と称えられるリリアの婚約者。
僕の人生は、一点の汚れもない。
模擬戦の相手を泥まみれにして退け、僕は木剣を置いた。侍従が差し出すタオルで顔を拭いながら、僕の意識は自然と、先ほど別れたばかりの婚約者――リリアの面影へと向く。
彼女は、汚らわしい欲望と裏切りが渦巻くこの社交界において、唯一無二の「奇跡」だ。誰の視線にも、誰の不実な言葉にも染まらず、ただ僕のためだけにその純潔を守り続けている。
その事実がもたらす優越感は、戦場で敵や魔物を討ち取る悦びよりも遥かに深く、僕の魂を満たしてくれる。
「レイ様。本日の集中力、一段と冴え渡っておりますな」
周囲の騎士たちの称賛。
だが、僕が真に求めているのは、そんなありふれた羨望ではない。僕が死を賭してでも守り抜かねばならないのは、リリアだけだ。
【レイ:正義 86、功名心 65、独占欲 20】
…結婚式まで、あと7日。
美しく清廉な彼女と騎士団の精鋭たる僕。
有力外交貴族の令嬢と軍の有力家閥の嫡男。
柔と剛。
全て、順調だ。なんの問題もあろうはずがない。
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