花嫁編 ①
鏡の前に立つ私は、自分でも見惚れるほどに「清らか」だった。
一点の曇りもない純白のドレス。幾重にも重なるシルクの裾。
丁寧に整えられた金髪は、まるで月の光を紡いだかのような輝きを放っている。
そして、何よりも尊いのは、誰にも踏み荒らされたことのない、
潔癖なまでの私の魂だ。
「……本日も、お美しゅうございます。リリア様」
侍女の言葉に、私は静かに微笑みを返した。
帝国の貴族社会において、私は「清廉の白百合」と呼ばれている。
奔放な恋愛や、品性の欠片もない睦み合いが横行するこの泥沼のような社交界。
その中で、私は一度も汚れることなく、婚約者であるレイ様との純愛を守り抜いてきた。
それは、私の至上の誇りだ。
下賎な本能に振り回される「獣」のような連中とは、人種が違うのだ。
愛とは、もっと精神的で、崇高なものであるべきだ。
私は、その「正解」を体現する存在であるはずだ。
「レイ様がいらっしゃいました。庭園でお待ちです」
私は頷き、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
窓から差し込む陽光が、私の肌を白く焼き付けるようだ。
ふと、廊下の隅に、見慣れない青年が立っているのが見えた。
新しく雇われた下働きだろうか?
一瞬、その男と目が合った気がしたが、私はすぐに視線を逸らした。
私の本能が、うすら寒い何かを感じ取ったからだ。
あのような空虚な瞳を見るのは、あまり気分が良いものではない。
【リリア:自己愛 85、貞操観念 92、色欲 12】
庭園に出ると、レイ様が眩しい笑顔で私を迎えてくれた。
凛々しい軍服姿。誠実な瞳。
彼もまた、私と同じ「清らかさ」を重んじる人。
「リリア。今日も君は、世界の誰よりも美しい」
「ありがとうございます、レイ様」
彼が私の手をとり、恭しく甲に口づけを落とす。
そのわずかな感触に、私はいつも、ほんの少しだけ、「熱」を感じている。
レイ様の吐息が肌に触れた場所が、ちりちりと疼くような錯覚。
これは、愛ゆえのときめきだ。
純愛のみが成せる、所業だ。
私は愛の素晴らしさを感じながら、レイ様のたくましい腕に優しく手を添えた。
私たちの結婚式は、もうすぐだ。
ああ、なんと素晴らしき日か。




