王子編 ⑥
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観察を終え、僕は手帳を取り出した。
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〇月×日 快晴
本日、『王族』マクシミリアンの観察を終了した。
最終的な結果は「資産価値の完全喪失による、現実逃避と重度の妄想性障害への逃避」。
予想通り、彼は自らの命を救うための逃走よりも、無価値となった自らの『富』を抱きしめて焼死する結末を選んだ。
実に見事なデータだ。あらためて、この「実験」の推移を総括しておく。
【フェーズ1:観察】
彼は「金こそが絶対の力だ」と豪語していたが、実のところは「増え続ける数字の奴隷」に過ぎなかった。
他者への共感能力が致命的に欠如しているため、民の飢えよりも帳簿の数字を優先する。私は財務官「ラピス」として潜り込み、彼のその脆弱な『強欲』を極限まで膨らませることにした。
【フェーズ2:調整】
「星脈の輝石」という全く無価値なガラス玉を利用し、意図的なバブル経済を構築した。
彼が自分の才能だと信じ込んでいた利益はすべて、私が市場と人心を操作して作り上げた幻影だ。しかし彼は『自分は選ばれた存在だから富が集まるのだ』と錯覚し、忠臣たちの諫言を「自分への嫉妬」として切り捨てた。
強欲という名の麻薬は、いとも簡単に彼の理性を破壊した。
【フェーズ3:崩壊】
私は市場に真実を流布し、バブルを一瞬で崩壊させた。
数時間前まで「世界の全てを買える」と傲慢に笑っていた彼の資産は、文字通りマイナスへと転落した。
その絶望的な落差に、彼の精神は耐えきれなかった。彼は迫り来る炎から逃げる自意識すら失い、「これは金だ」と狂ったように石ころを抱きしめたまま焼死した。
生存本能すらも凌駕する『欲』の暴走。実に人間らしく、滑稽な最期である。
【総評】
人間は、ただの「概念」のために、実の親や自らの命すら担保に入れて喜んで火の中に飛び込む。 富への執着とは、人間の本能すらもいとも簡単に破壊する。
「金でしか世界の価値を測れない強欲な豚」からは、もう新しいデータは期待できない。
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王城を包む巨大な炎の海を、遠く離れた丘の上から見下ろしながら、僕は革表紙の手帳を閉じた。夜風が、生焼けの肉と焦げた絨毯の匂いを運んでくる。
「ありがとう、マクシミリアン。とても良いモノが見られたよ」
僕はそっと、自分の胸に手を当てた。
かつて、僕を「悪魔」と罵り、蔑んだ人間たち。
『感情』を紐解いていけば、いつかたどり着けると思っていたけど…。
僕は水たまりに移る自分に視線を落とす。
【アルス:達成感 0、……】
今回も僕の感情の水面には、波紋は立たなかった。
「優越感と自尊心」
「知性と自己愛」
「正義と罪悪感」
「富と執着」
それぞれに、『納得』も『理解』もしているはずだ。それなのに、なぜ。
「まあ、いい。次はどこへ行こうかな」
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