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観測者アルスは解き明かしたい  作者: 邑沢 迅
王子編

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王子編 ④

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挿絵(By みてみん)

 隣国の大商会との交渉は、実に呆気ないものだった。私の『第一王位継承権』、国境の重要拠点である『黒鉄の砦』の無期限貸与、そして王城の宝物庫にある『すべての実物資産』。 それらを担保とする誓約書に王家の印環を押した瞬間、私の手元に「王国十個分」に相当する途方もない金額の融資証書が渡された。


 私はその足で、ラピスの元へと向かった。


「ラピス! 金は用意したぞ! さあ、帝国に渡る予定だった『星脈の輝石(エテメンアンキ)』の最後の大規模商船、その積み荷を全額買い占めるのだ!!」


「…承知いたしました、殿下。これで殿下は、世界に存在する輝石のほぼ全てを独占したことになります。間違いなく、歴史上最大の富を持つ『富の神』となられましたね」


 ラピスは涼しげな微笑みを浮かべ、うやうやしく私に契約書を差し出した。ペンを走らせる手が、歓喜でブルブルと震える。


 やった。やり遂げたのだ!


 これで私は、明日にはこの融資額のさらに10倍の富を手にする。帝国も、周辺諸国も、すべて私の金で買い叩いて奴隷にしてやる。老いぼれた父王も、私を軽蔑していた貴族どもも、全員私の足元に這いつくばらせてやるのだ!


「は、はははははっ! ああ、なんという美しい数字だ! 見ろ、ラピス!私の資産が、紙の枠に収まりきらないほどに膨れ上がっていく!!」



  【マクシミリアン:金欲 100、万能感 100、理性 20】



 もはや現実の金貨などどうでもいい。帳簿に書き込まれていく異常な桁数の『数字』の羅列こそが、私の脳髄を最高に痺れさせる甘い麻薬だった。


 この世のすべてを手に入れた。私は神だ。絶頂の興奮で視界が白くチカチカと明滅する中、バンッ! と執務室の扉が蹴り破られた。


「で、殿下ァァァーッ!! 大変でございます!!」


 飛び込んできたのは、ひどく狼狽した青ざめた顔の伝令だった。あまりの無礼に、私は機嫌を損ねて眉をひそめる。


「神聖なる富の計算中に土足で踏み込むとは何事だ。不敬罪で首を刎ねるぞ」

「そ、それどころではありません! 王都の広場の市場が…パニックに陥っております!殿下の買い占めに対抗していたはずの帝国商人たちが、突然、所持していた輝石を残らずすべて市場に『投げ売り』し始めたのです!」

「…は?」


 私は、自分が何を言われているのか瞬時には理解できなかった。


「な、投げ売りだと?馬鹿な、彼らも輝石が明日には倍になるのを知っているはずだ!なぜそんな馬鹿げた損切りを…」

「そ、それが…!他国の宝石商会本部から、先ほど公式な声明が出されたのです!

 『星脈の輝石(エテメンアンキ)には、魔力など一切含まれていない…。それどころか、星脈の輝石(エテメンアンキ)などと言う大層な呼び名も無い』、と。『あれは新大陸の山肌で拾える、ただの綺麗な石ころだ』と…!!」


「…………、……え?」


 伝令の言葉が、ひどく遠く聞こえた。石ころ。魔力などない。


 ただの石ころ。


 理解できない。

 何を言っている?


 私は、その『ただの石ころ』を買うために、国を売ったのか?


「で、殿下! いまこの瞬間にも、輝石の価格は暴落を続けております! 昨日の百分の一…いえ、千分の一まで落ち込み…ゴミ同然の扱いで…っ!」

「嘘だァァアアアアッ!!!!」


 絶頂の万能感から、脳天をカチ割られるような急転直下の現実。私は血を吐くような絶叫を上げ、傍らに立っていた男を睨みつけた。


 ラピスは、顔色一つ変えず、ワイングラスを片手に遠くを見つめていた。


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― 新着の感想 ―
あらぁ、マクシミリアンも壊れちゃいましたねぇ
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