表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホラー日間【1位】観測者アルスは解き明かしたい  作者: 邑沢 迅
王子編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/28

王子編 ④

挿絵(By みてみん)

 ドワーフの大商会との交渉は、実に呆気ないものだった。

 私の『第一王位継承権』、国境の重要拠点である『黒鉄の砦』の無期限貸与、

 そして王城の宝物庫にある『すべての実物資産(金貨と歴史的宝飾品)』。


 それらを担保とする誓約書に王家の印環を押した瞬間、

 私の手元に「王国十個分」に相当する途方もない金額の融資証書が渡された。


 私はその足で、ラピスの元へと向かった。


「ラピス! 金は用意したぞ!

 さあ、帝国に渡る予定だった『星脈の輝石エテメンアンキ』の最後の大規模商船、

 その積み荷を全額買い占めるのだ!!」


「…承知いたしました、殿下。

 これで殿下は、世界に存在する輝石のほぼ全てを独占したことになります。

 間違いなく、歴史上最大の富を持つ『富の神』となられましたね」


 ラピスは涼しげな微笑みを浮かべ、

 うやうやしく私に契約書を差し出した。

 ペンを走らせる手が、歓喜でブルブルと震える。


 やった。やり遂げたのだ!


 これで私は、明日にはこの融資額のさらに10倍の富を手にする。


 帝国も、周辺諸国も、すべて私の金で買い叩いて奴隷にしてやる。

 老いぼれた父王も、私を軽蔑していた貴族どもも、

 全員私の足元に這いつくばらせてやるのだ!


「は、はははははっ!

 ああ、なんという美しい数字だ! 見ろ、ラピス!

 私の資産が、紙の枠に収まりきらないほどに膨れ上がっていく!!」



  【マクシミリアン:金欲 100、万能感 100、理性 20】



 もはや現実の金貨などどうでもいい。

 帳簿に書き込まれていく異常な桁数の『数字』の羅列こそが、

 私の脳髄を最高に痺れさせる甘い麻薬だった。


 この世のすべてを手に入れた。私は神だ。

 絶頂の興奮で視界が白くチカチカと明滅する中、

 バンッ! と執務室の扉が蹴り破られた。


「で、殿下ァァァーッ!! 大変でございます!!」


 飛び込んできたのは、ひどく狼狽した青ざめた顔の伝令だった。

 あまりの無礼に、私は機嫌を損ねて眉をひそめる。


「神聖なる富の計算中に土足で踏み込むとは何事だ。不敬罪で首を刎ねるぞ」


「そ、それどころではありません!

 王都の広場の市場が……パニックに陥っております!

 殿下の買い占めに対抗していたはずの帝国商人たちが、

 突然、所持していた輝石を残らずすべて市場に『投げ売り』し始めたのです!」


「…は?」


 私は、自分が何を言われているのか瞬時には理解できなかった。


「な、投げ売りだと?

 馬鹿な、彼らも輝石が明日には倍になるのを知っているはずだ!

 なぜそんな馬鹿げた損切りを……」


「そ、それが…!

 ドワーフの宝石商会本部から、先ほど公式な声明が出されたのです!

 『星脈の輝石(エテメンアンキ)には、魔力など一切含まれていない……。

 それどころか、星脈の輝石(エテメンアンキ)などと言う大層な呼び名も無い』、と。

 『あれは新大陸の山肌で拾える、ただの綺麗な石ころだ』と……!!」


「…………、……え?」


 伝令の言葉が、ひどく遠く聞こえた。

 石ころ。魔力などない。ただの石ころ。


 理解できない。

 何を言っている?


 私は、その『ただの石ころ』を買うために、国を売ったのか?


「で、殿下! いまこの瞬間にも、輝石の価格は暴落を続けております!

 昨日の百分の一……いえ、千分の一まで落ち込み…ゴミ同然の扱いで……っ!」


「嘘だァァアアアアッ!!!!」


 絶頂の万能感から、脳天をカチ割られるような急転直下の現実。

 私は血を吐くような絶叫を上げ、傍らに立っていた男を睨みつけた。


 ラピスは、顔色一つ変えず、ワイングラスを片手に遠くを見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ