聖騎士編①
「――裁きを受けなさい。神は寛大だが、罪という淀みは周囲を腐らせ、やがて国を滅ぼす小さな悪魔なのだ」
王都の中央広場を見下ろす時計塔の屋根の上。
行き交う人々の喧騒から切り離された特等席で、
僕は眼下で繰り広げられる「絶対正義の執行」を静かに眺めていた。
石畳の上に両膝をついて震えているのは、
スリを働いたらしい路地裏の浮浪者だ。
彼を見下ろしているのは、白銀の甲冑に身を包んだ長身の男。
高潔と名高い『白き刃』のリーダー、聖騎士ユリウス。
今度開かれる大司教のパレードにおいて、
最高責任者の警護長に抜擢された男である。
「ゆ、許してくれ…! 腹が減って、つい魔が差したんだ!」
「いかなる理由があろうと、罪は罪だ。
到底許されることではない。
それが私の、そして我ら白き刃の教義だ」
ユリウスは悲痛な顔で首を振り、
純白のガントレットで男の肩を掴んだ。
次の瞬間、眩い光が放たれる。
「ぎ、ぎゃああああっ!!」
肉が焼けるような浮浪者の絶叫。
それはアンデッドを灼くための『浄化』の魔法だが、
ユリウスは生身の罪人に使っている。
しかし、ユリウスの顔に加虐の笑みはない。
彼は本気で涙ぐみ、
自分が相手を邪念から救済していると本気で信じ込んでいる。
一切の容赦がない恐怖による絶対的な規律。
広場を取り囲む『白き刃』の他のメンバーたちは、
「やはりユリウス様は正しい」「我らが盾だ」
と陶酔した瞳でリーダーを讃えている。
僕は足を投げ出したまま、
ユリウスの頭上に向けてスキル『感情数値化』を起動する。
【ユリウス:正義 100、使命感 100、死への畏れ 70】
…なるほど。
彼は決して、正義の皮を被った嘘つきでも、
暴力を振るうサディストでもない。
彼は本気で「自分は勇敢な正義の化身である」と強く願い、
そう生きようとしている純然たる善人だ。
彼は自分が、
恐怖に震えるただの臆病者であることを無意識に理解している。
だからこそ、「妥協を許さない絶対正義」という極端な教義を作り出し、
自らを雁字搦めに縛ることでしか、
前線に立つ精神の均衡を保てないのかもしれない。
「……面白いね。とても美しい」
勇者レオンや、賢者クレアのような
『自己愛のバケモノ』たちとは少し毛色が違う。
本気で理想に殉じようと必死にもがいている人間の、
柔らかくて脆い精神。
しかし、そんな人間ほど小さな傷から瓦解していく。
「さあ、僕に見せてよ、ユリウス。君の中身は、何色なのかを」
僕は眼下の狂信的な光景に別れを告げ、
時計塔の屋根から静かに飛び降りた。




