アルスの過去編 ②
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我が息子、アルスが3歳になった頃のことだ。村の子供たちは、この歳にもなれば泥だらけになって駆け回り、些細なことで泣き、親の後に付いて回るものだ。
だが、アルスは違った。
「…アルス、何をしているんだ?」
私がそう声をかけると、庭の隅でしゃがみ込んでいた息子は、ゆっくりとこちらを振り返った。
その視線には、子供らしい甘えも、無邪気な好奇心もない。ただ、冷徹なまでに「静か」な瞳がそこにあるだけだった。
確かに生まれた時も泣き声一つ上げず、心配したこともあった。ちょっとしたことで泣き叫ぶ周りの子供に比べ、物静かな彼は「物分かり」よく、安堵したこともある。
「父さん、鳥が、動かなくなっているよ」
息子の指差す先には、木から落ちて息絶えたばかりの小鳥が転がっていた。普通の子供なら、怖がって泣き出すか、あるいは死という概念を理解できずに触り続けるだろう。
しかし、アルスはただ、それを「観察」していた。物分かりがよい、という言葉では言い表せない、何か、どろりとした、不気味な感覚。
「…暖かさが、無くなっていく」
「そうだな、死にゆく動物は、その温もりを失っていくんだ」
私は戸惑いながら、アルスに語り掛ける。
「暖かさが無くなる」…死にゆくものを前に、3歳児が口にするような感想ではない。
私は、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
(…この子は、やはり、どこか違う)
その時、私の頭上を、息子がじっと見つめていることに気づいた。確信に満ちた視線。
「父さん…怖いの?」
「…怖い? 何のことだ、アルス」
「分からない。でも、父さんが僕を見る時、いつもその数字が変わるんだ。今は…何か困ってる?」
私は答えられなかった。
この子が何を見ているのか、何を考えているのか、親である私にも全く分からない。
時折、この小さな体が、全く別の「何か」——精巧に作られた人間そっくりの彫像のように思えて、恐ろしくなることすらあった。
「…あなた……」
隣で妻が、祈るように手を握りしめていた。妻もまた、アルスを気味悪がっている。だが同時に、私たちはどうしようもなく「普通」の「親」でもあった。
彼を愛しているのだ。
「…ああ、分かっているよ」
しゃがみ込むアルスの小さな肩に手を置いた。
反応はない。驚くわけでも、喜ぶわけでもない。
それでも、私はその小さな体を抱き寄せた。
「…アルス。お前は私の子だ。たとえ、お前が何を見ていようと…」
【父親:アルスへの愛情 82、恐怖 45、決意 70】
腕の中の息子は、相変わらずの虚無だった。
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