未亡人ベリルは守り抜きたい⑦
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「ベリルさんの言う通りです」
ハルトマン伯爵が私の言葉に顔面を蒼白にさせたその時。王国の高官の隣に座っていたエララ様が、静かに立ち上がった。
「そ、そうだ!帝国軍が動けないのであれば、王国が恐れる必要はない!ふん、法外な要求など、やはり突っぱねて正解――」
「あなたもです、特使殿」
調子に乗って胸を張ろうとした王国の高官を、エララ様の冷たい声が容赦なく切り捨てた。
「法的に、レオンはすでに王国の籍を持たない大罪人。この事件において、王国の国家としての責任は皆無です。にもかかわらず、相手の挑発に乗って無用な戦火を招こうとするなど、言語道断」
「だ、大司教殿!我々は王国の誇りを守るために…」
「これ以上、無能な外交で国を危険に晒すというのであれば。今後、教会は王国政府との一切の協力と、民衆への支援を打ち切ります」
「ひっ…!」
高官が短い悲鳴を上げて座り込んだ。
先の混乱の後、教会による炊き出しや支援がなければ、王国はすでに崩壊している。教会に見捨てられることは、王国の滅亡と同義だった。
(すごい…これが、エララ様)
私とエララ様によって、帝国も王国も、戦争をするための「両腕」を完全に切り落とされた。
「ハルトマン伯爵」
エララ様は、聖母のような、慈悲深い微笑みを浮かべて、伯爵へ向き直った。
「アルスさんの死は、王国にとっても痛ましい出来事でした。ですが、彼が望まない血を流すよりも、彼が愛した『合理性』で報復しませんか?」
「…合理性?」
「はい。王国政府と教会、そしてクォーツ家の三者合意の元。帝国全体に対する王国の主要な輸出品の関税を大幅に引き下げる『包括的通商条約』を結びましょう。これにより、帝国のあらゆる貴族や商人が恩恵を受けることになります」
「…っ」
帝国全体が潤う。それならば、他の貴族たちが不満を持つことは絶対にない。だが、エララ様の提案の『本命』はそこではなかった。
「…そして、その歴史的に見ても類を見ない巨大計画の『帝国側・全権統括責任者』として。ハルトマン伯爵。あなたにご就任いただきたいのです」
「私が、全権統括…?」
「ええ。一滴の血も流さず、帝国に未曾有の富をもたらした立役者。あなたは帝国の歴史に名を残す偉大な英雄となるでしょう。加えて、クォーツ家は今後の物流の新たな中継拠点を、伯爵の領地に独占的に建設させていただきます」
帝国全体を儲けさせて不満を封じつつ、名声と実益の『一番おいしいところ』はハルトマン伯爵が独り占めできる。
彼の心の奥底にあった『名声への欲求』を完璧に満たす、断る理由など存在しない、悪魔的に魅力的な条件だった。
「…っ」
私による、これ以上の暴走を止めるための、
冷徹な『ムチ』。
そしてエララ様による、
誰一人として血を流させないための、
底なしに慈悲深き『アメ』。
盤面を操るその手腕はアルス様を彷彿とさせたけれど、彼女の根底にあるのは、ただすべての人を救いたいという『究極の利他』だ。
自国がどれだけ経済的に不利になろうと、命が守られるなら少しも惜しくはないという、美しく、強固な意志。
ハルトマン伯爵は、まるで狐につままれたような顔で、私とエララ様の顔を交互に見比べた。
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