未亡人ベリルは守り抜きたい④
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国境付近に設けられた中立地帯の天幕。
そこは、両国の未来を決めるにふさわしい、刺すような緊張感に包まれていた。
「――以上が、我が帝国の要求である」
帝国側の代表として卓の向こうに座るハルトマン伯爵が、分厚い要求書をテーブルに叩きつけた。
そこに記されていたのは、到底受け入れられるはずのない莫大な賠償金と、王国にとって重要な防衛拠点である国境都市の割譲だった。
その隣には、黒い喪服に身を包んだベリルさんが静かに座っている。顔色は少し悪いようだが、凛とした佇まいは健在だ。
だが、今の彼女はただの同席者に過ぎず、発言権は与えられていないようだった。
「…あまりにも法外な要求です、ハルトマン伯爵。王国として、これを受け入れるわけにはいきません」
私の隣に座る王国の高官が、脂汗を流しながら反論する。
だが、ハルトマン伯爵は忌々しげに顔を歪めた。
「法外…?我が国の最重要人物であり、そして私の無二の同志であったアルス卿。彼の命の代償が、これ程度で済めば安いものではないかな」
「それは…」
「そちらの大司教殿はよくご存じのはずだ。アルス卿がいかに偉大であったか。彼を失った帝国の喪失感と怒りは、計り知れない」
伯爵は私を真っ直ぐに見据えた後、悲痛な顔を作って隣のベリルさんを示した。
「見なさい。愛する夫を理不尽に奪われた未亡人の、この悲しみに満ちた姿を!彼女の涙を拭うためにも、我々は正当なる報復の権利を有しているのだ!」
伯爵の瞳には、友を失った確かな悲しみがある。
だが、同時に彼はその純粋な悲しみを。意識的か、無意識的、どちらにせよ、自らの戦争への大義名分として、残された遺族までも都合よく消費しようとしているように見受けられた。
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