解明編 ⑥
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「まだ、わからないな」
どれだけ酷い真実を突きつけられても、エララの静かで祈るような表情は変わらなかった。彼女の真っ直ぐな問いに対し、僕は肩をすくめて答える。
「こうして妻を娶り、血を分けた子ができた。『愛』という言葉の辞書的な定義で言うのであれば、それは愛しているという状況になるのだろう」
「…」
「定義の条件は満たしている。だが、それでも僕は、確信を持って『家族を愛している』とは言えないんだよ。心に何の動きもないからね」
「アルス様…」
背後に立つベリルが、悲哀と祈りの声色で僕の名を呼ぶ。
「お父様…私たちを、愛していないの?」
僕のズボンを握りしめたエマが、不安そうに見上げてきた。僕は彼女の頭を撫でて、事実だけを正直に答えた。
「愛しているよ。定義上はね」
「……え?」
「でもね。頭で理解はしていても、どうしても納得ができないんだ。愛しているという実感が、僕には何一つ湧いてこないんだよ」
ベリルは固唾を飲んで僕たちを見守っている。彼女たちの前で、自分の中にある絶対的な『欠落』にきちんと言及するのは、これが初めての事だった。
「ガイは、残した家族への愛と、僕という被害者への罪悪感の狭間で板挟みになり、こと切れた。僕の両親は、死の恐怖のただ中で、息子を守るために身を挺し、なぜか笑顔で僕を見送った。そしてミラは、身を裂く恐怖の中で、身を挺して僕を庇った」
彼らを突き動かした、理屈では説明できない何か。
「確かに、僕は君たち家族に何不自由ない暮らしを提供している。怪我をすれば医者を呼び、不安になれば優しく声を掛ける」
「…」
「でもそれは、世間の『家族』を手本として、それが『一番普通で正しい家族像』だと、頭で理解しているからだ。理解しているからこそ、僕はその最適解を完璧に実践している。ただ、それだけさ」
そこには、彼女らが持っていたような『感情』は一切介在していない。
【エララ:アルスへの同情 70→94、慈愛 100、自己愛 0】
彼女の頭上に浮かぶ数値が、大きく揺れ動いていた。それは、深い、深い哀れみだった。
「エララ。君はまた、僕を憐れんでいるのかい?」
僕が自嘲するように鼻で笑うと、そこまで黙して僕の言葉を聞いていたエララは、大きく息を吸い込み、静かに口を開いた。
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