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「星(ほし)の女神(めがみ)に仕(つか)えた盲目(もうもく)の巫女達(みこたち)の正体(しょうたい)を貴方(あなた)は知(し)っている?」


 星(ほし)の女神(めがみ)の信仰者達(しんこうしゃたち)は、皆(みな)、麗(うるわ)しい女性(じょせい)であり、瞳(ひとみ)を独特(どくとく)の飾帯(かざりおび)で隠(かく)していたという。偽(いつわ)りの暗黒(あんこく)で、星(ほし)の煌(きら)めきに覲(まみ)える為(ため)に。そして星(ほし)の信仰者(しんこうしゃ)の中(なか)に、男性(だんせい)の信徒(しんと)は殆(ほとん)どいなかったという。現存(げんぞん)している神殿(しんでん)の記録(きろく)にも、数(かぞ)えるほどしか残(のこ)されていないという。伝承(でんしょう)や神話(しんわ)に於(お)いても、同様(どうよう)で、星(ほし)の女神(めがみ)に仕(つか)えたとされる男性(だんせい)の逸話(いつわ)は、月(つき)の娘(むすめ)、竜血(りゅうけつ)の主(あるじ)を守(まも)る為(ため)に、太陽(たいよう)の騎士(きし)と相対(あいたい)し、後(のち)にその弟子(でし)になったとされる少年(しょうねん)、幼(おさな)き星(ほし)の半剣(はんけん)ステラだけだ。


 私(わたし)は訝(いぶか)しんで、少女(しょうじょ)に話(はなし)の続(つづ)きを求(もと)めた。


「女神(めがみ)の巫女(みこ)に与(あた)えられる、瞳(ひとみ)の紋章(もんしょう)、星の瞳(ステラ・オクルス)は、双眸(そうぼう)の間(あいだ)に与(あた)えられる、第三(だいさん)の瞳(ひとみ)。それは、即(すなわ)ち、揺(ゆ)らぐことのない視座(しざ)の天秤(てんびん)、其(そ)の支柱(しちゅう)。完全性(かんぜんせい)の象徴(しょうちょう)。……端的(たんてき)に言(い)うのなら、星(ほし)の瞳(ひとみ)を与(あた)えられたものは、自(みずか)らに欠(か)けているものを得(え)、少(すこ)しずつ完全(かんぜん)へと近(ちか)づいていく」


「……死(し)に対(たい)する生(せい)とか?」


「男(おとこ)に対(たい)する女(おんな)とかね」


 私(わたし)は思(おも)わず額(ひたい)に手(て)を当(あ)てた。


「だが……あれは……」


「覲(まみ)えたのでしょう? あの忌々(いまいま)しい、無垢(むく)の輝(かがや)きに。穢(けが)れなき星(ほし)の女神(めがみ)に」


「……」


 星(ほし)の瞳(ひとみ)とやらが、私(わたし)に如何(いか)なる恩恵(おんけい)を与(あた)えてくれるのかは知(し)らないが、それが此(こ)の辱(はずかし)めに見合(みあ)うものであればいい。私(わたし)は傍迷惑(はためいわく)な女神(めがみ)を恨(うら)んだ。何故(なにゆえ)に、私(わたし)を死(し)の内(うち)に留(とど)め置(お)いて、くれなかったのか。星(ほし)の女神(めがみ)が、私(わたし)を巫女(みこ)に選(えら)ぶ理由(りゆう)など、何処(どこ)にもなく、私(わたし)には見当(けんとう)も付(つ)かなかった。或(ある)いは、これは懲罰(ちょうばつ)なのか──


「……この姿(すがた)の何処(どこ)が完全(かんぜん)なんだ」


「貴方達(あなたたち)人間(にんげん)は知(し)らないかもしれないけれど。生(せい)の基準(きじゅん)は、女(おんな)なのよ。男(おとこ)は女(おんな)から派生(はせい)した形態(けいたい)の一(ひと)つに過(す)ぎない。故(ゆえ)に、基準(きじゅん)はその姿(すがた)なの」


「では……この幼(おさな)さは?」


「愚問(ぐもん)ね。完全(かんぜん)さとは全(すべ)てを併(あわ)せ持(も)っているという意味(いみ)ではないわ。私(わたし)の言(い)っている意味(いみ)が分(わ)かる?」


「いや。全(まった)く。……だが、まあいい。どんな姿(すがた)でも、私(わたし)は私(わたし)だ」


 私の強(つよ)がりを、少女(しょうじょ)は見透(みす)かすように笑った。


 人(ひと)の持(も)つ個性(こせい)とは。存在(そんざい)の本質(ほんしつ)とは。大小様々(だいしょうさまざま)な性質(せいしつ)の集合(しゅうごう)である。確固(かっこ)たる唯一(ゆいいつ)の本質(ほんしつ)などというものを持(も)つのは神(かみ)だけだろう。自身(じしん)を構成(こうせい)している性質(もの)が変(か)われば、当然(とうぜん)、自己(じこ)自体(じたい)も変質(へんしつ)を避(さ)けられない。もはや私(わたし)は、私(わたし)であるために、かつての私(わたし)を脳裏(のうり)に刻(きざ)み、それを演(えん)じなければならなくなった。


「そんなことよりも。……館(やかた)を脱出(だっしゅつ)する方法(ほうほう)は。本当(ほんとう)に知(し)らないのか?」


「貴方(あなた)が瞳(ひとみ)を得(え)た時点(じてん)で、此(こ)の館(やかた)は既(すで)に貴方(あなた)のもの。もう結界(けっかい)はない。堂々(どうどう)と玄関(げんかん)から出(で)ればいいわ」


 私(わたし)は一瞬(いっしゅん)、彼女(かのじょ)の発言(ことば)を疑(うたが)ったが、そんなことは確(たしか)かめれば直(す)ぐに分(わ)かることであり、彼女(かのじょ)が嘘(うそ)を吐(は)く理由(りゆう)もなかった。私(わたし)は部屋(へや)の窓(まど)を今直(います)ぐに叩(たた)き割(わ)って彼女(かのじょ)の言葉(ことば)が正(ただ)しいかを確(たし)かめたくなったが、この期(ご)に及(およ)んで私(わたし)の理性(りせい)は野蛮(やばん)な行為(こうい)を拒(こば)んでいた。


「私(わたし)は帰(かえ)る。……お前(まえ)は、どうするんだ」


 少女(しょうじょ)は溌剌(はつらつ)と笑(わら)って、私(わたし)の腕(うで)に触(ふ)れた。私(わたし)は反射的(はんしゃてき)にその手(て)を振(ふ)り払って、後退(あとずさ)っていた。少女(しょうじょ)の接触(せっしょく)に、私(わたし)の直観(ちょっかん)が、何(なに)か不穏(ふおん)なものを感(かん)じていた。


「取引(とりひき)しましょう」


「取引(とりひき)だと」


 少女(しょうじょ)が人(ひと)ならざる存在(そんざい)、精霊(せいれい)の類(たぐい)であることは今(いま)となっては、間違(まちが)いない。精霊(せいれい)とは神(かみ)の力(ちから)の先触(さきぶ)れであり、零(こぼ)れ墜(お)ちた神(かみ)の力(ちから)の断片(だんぺん)である。精霊達(せいれいたち)は霊的(れいてき)な交感(こうかん)により力(ちから)を得(え)るとされ、概念(がいねん)を食(くら)らうのだという。


 故(ゆえ)に精霊(せいれい)は時(とき)として、生(い)き血(ち)を啜(すす)る。


「そう。取引(とりひき)。不安(ふあん)に思(おも)う必要(ひつよう)はないわ。だって、貴方(あなた)は星瞳(せいがん)の巫女(みこ)。全(すべ)ての契約(けいやく)と全(すべ)ての法(ほう)と全(すべ)て道理(どうり)が、貴方(あなた)を裏切(うらぎ)ることはない」


 人(ひと)ならざる霊的存在(れいてきそんざい)、その中(なか)でも、精霊(せいれい)との取引(とりひき)は、少(すく)なくとも、王国(おうこく)においては教会(きょうかい)の発行(はっこう)する特別(とくべつ)な資格(しかく)が必要(ひつよう)となる。精霊契約(せいれいけいやく)は、優(すぐ)れた霊媒(れいばい)を持(も)つ魔術師(まじゅつし)か神官(しんかん)のみに許(ゆる)される、特殊(とくしゅな)な技能(ぎのう)なのだ。


 尤(もっと)も、私(わたし)に言(い)わせれば、精霊(せいれい)との契約(けいやく)よりも、人間(にんげん)との契約(けいやく)の方(ほう)が余程(よほど)危険(きけん)ではないかと思(おも)いもするのだが。


 精霊(せいれい)は嘘(うそ)を吐(つ)かない。比喩(ひゆ)でも何(なん)でもなく。文字通(もじどお)りの意味(いみ)で。吐(つ)かない、ではなく、吐(つ)くことが出来(でき)ない、というべきか。肉体(にくたい)を持(もた)たず、純粋(じゅんすい)な霊体(れいたい)である精霊(せいれい)は、肉(にく)という殻(から)が存在(そんざい)しない純粋(じゅんすい)な精神(せいしん)であり、故(ゆえ)に不安定(ふあんてい)なのだ。自己(じこ)を規定(きてい)するものが、自(みずか)らの意思(いし)のみである以上(いじょう)、それを偽(いつわ)ることの代償(だいしょう)は、人間(にんげん)よりも遥(はる)かに重(おも)い。


 何(なに)より、今更(いまさら)私(わたし)が、王国(おうこく)の法(ほう)など気(き)にする理由(りゆう)もない。だが、危険(きけん)であることは間違(まちが)いなかった。全(すべ)ての契約(けいやく)がそうであるように。精霊(せいれい)は嘘(うそ)を吐(つ)かない。だが、それは精霊(せいれい)が人を謀(たばか)らないということを意味(いみ)しない。


 私(わたし)は警戒(けいかい)して、眉(まゆ)を顰(ひそ)めた。


「私(わたし)に何(なん)の利点(りてん)がある」


「か弱(よわ)い貴方(あなた)を守(まも)ってあげられる」


「……余計(よけい)なお世話(せわ)だ。それに、お前(まえ)にそれだけの力(ちから)があるとも思(おも)えない」


 少女(しょうじょ)は嗤(わら)った。私(わたし)の強(つよ)がりを見透(みす)かしているのだろう。実際(じっさい)のところ。この身体(からだ)は大(おお)きな問題(もんだい)だ。


 少女(しょうじょ)は、窓(まど)の方向(ほうこう)を指(ゆび)さして、息(いき)を大きく吸(す)った。


「フルメン(稲妻)」 


 少女(しょうじょ)の全身(ぜんしん)から不可視(ふかし)の圧力(あつりょく)が放(はな)たれ、言葉(ことば)は力(ちから)となって弾(はじ)けた。古(ふる)き神(かみ)の言葉(ことば)。意味(いみ)は、稲妻(いなづま)。稲妻(いなづま)は星々(ほしぼし)の連(つら)なりに似(に)て鋭角(えいかく)で、堅(かた)く、そして、それは穿(うが)つ力(ちから)である。


 迸(ほとばし)る稲妻(いなづま)が轟音(ごうおん)と共(とも)に少女(しょうじょ)の指先(ゆびさき)より放(はな)たれ、恐(おそ)らくは霊的(れいてき)に保護(ほご)されている筈(はず)の硝子(がらす)の棺(ひつぎ)を融解(ゆうかい)させながら粉砕(ふんさい)し、その背後(はいご)にある壁(かべ)ごと諸々(もろもろ)を消(け)し飛(と)ばした。部屋(へや)に出来(でき)た大穴(おおあな)からは、滾(たぎ)るように赤熱(せきねつ)し、溶(と)け出(だ)した硝子樹(がらすじゅ)と大地(だいち)が覗(のぞ)いていた。


 私(わたし)は沈黙(ちんもく)せざるを得(え)なかった。少女(しょうじょ)が指先(ゆびさき)を此方(こちら)へ向(む)けた際(さい)に、私(わたし)は無様(ぶざま)にもか細(ぼそ)い声(こえ)を上(あ)げてしまった。私(わたし)は震(ふる)える手(て)を隠(かく)すように後(うし)ろに回(まわ)すと、辛(かろ)うじて、首(くび)を横(よこ)に振(ふ)った。私(わたし)は言葉(ことば)を発(はっ)する前(まえ)に、喉(のど)の痙攣(けいれん)が落(お)ち着(つ)くまで待(ま)たなければならなかった。


「お前(まえ)が、その力(ちから)を私(わたし)に振(ふ)るわない確証(かくしょう)があるものか」


「貴方(あなた)は星(ほし)の瞳(ひとみ)に守(まも)られているわ」


 私(わたし)は星(ほし)の瞳(ひとみ)とやらがどれほどの力(ちから)を持(も)っているのだろうかと考(かんが)えた。神話(しんわ)に伝(つた)わる通(とお)りであるのならば、星(ほし)の巫女(みこ)に与(あた)えられた第三(だいさん)の瞳(ひとみ)はあらゆる欺瞞(ぎまん)を見抜(みぬ)き、あらゆる非本質的(ひほんしつてき)な術(じゅつ)を打(う)ち破(やぶ)るという。そして、あらゆる裏切(うらぎ)りと不条理(ふじょうり)、不平等(ふびょうどう)を退(しりぞ)け、それによって如何(いか)なる傷(きず)を負(お)うこともない──


 だが、神話(しんわ)は神話(しんわ)。伝説(でんせつ)は伝説(でんせつ)だ。鵜呑(うの)みにして、全(すべ)てを真(ま)に受(う)けるべきではない。


「それに、貴方(あなた)一人(ひとり)では、森(もり)を抜(ぬ)けることはできないでしょう」


 それは、その通(とお)りであった。私(わたし)に与(あた)えられた印(しるし)が、正(まさ)しく、女神(めがみ)の加護(かご)の証(あかし)であるのならば、私(わたし)は森(もり)を抜(ぬ)け出(で)る資格(しかく)を得(え)たということになる。然(しか)し、この姿(すがた)では、森(もり)を抜(ぬ)け出(だ)すことが困難(こんなん)であることには、変(か)わりないだろう。森(もり)に獣(けもの)が出(で)るかも分(わ)からない。こんな森(もり)に生物(せいぶつ)が住(す)み着(つ)いているとは思(おも)えないが。仮(かり)に居(い)るのであれば、それは条理(じょうり)を逸(いっ)した獣(けもの)であることは間違(まちが)いない。そして、獣(けもの)に法(ほう)の守(まも)りが通用(つうよう)するとも思(おも)えない。獣(けもの)が生(い)き物(もの)を食(くら)らうことに、正誤(せいご)や善悪(ぜんあく)、そして、義理(ぎり)も不義理(ふぎり)もあるわけがなく、仮(かり)に女神(めがみ)の守(まも)りが事実(じじつ)だとして、適用(てきよう)されることはないだろう。


 硝子(がらす)の果実(かじつ)を食(しょく)すような化物(ばけもの)が存在(そんざい)するとは思(おも)えない。だが、このような館(やかた)があるのだからそれくらい居(い)てもおかしくはないのかもしれない。


 何(なに)よりも精霊(せいれい)の力(ちから)があれば、森(もり)を抜(ぬ)けた

後(あと)で暮(く)らしやすくなる。硝子樹(がらすじゅ)の大森林(だいしんりん)を抜(ぬ)けた先(さき)に在(あ)る、独立(どくりつ)都市国家(としこっか)オルニアスは魔術師達(まじゅつしたち)の国(くに)である。魔力(まりょく)を持(も)たない私(わたし)は良(よ)くは扱(あつか)われないだろうが、精霊(せいれい)と契約(けいやく)していればそれも変(かわ)わる。


 私(わたし)は、私(わたし)自身(じしん)に言(い)い訳(わけ)をするように、契約(けいやく)の利点(りてん)を探(さが)していた。


「それで。お前(まえ)は私(わたし)に何(なに)を求(もと)める?」


「ほんの少(すこ)しだけ。定期的(ていきてき)に血(ち)を分(わ)けてくれればいいの。私(わたし)は、貴方(あなた)の血(ち)を媒介(ばいかい)に蘇(よみがえ)った。だから、貴方(あなた)の血(れい)を得(え)ることが、私(わたし)にとって最(もっと)も力(ちから)を得(え)るのに適(てき)しているの」


 死(し)の間際(まぎわ)、私(わたし)の流(なが)した血(ち)が彼女(かのじょ)に触(ふ)れたことを思(おも)い出(だ)した。


「……。|私(わたし)の血(ち)を吸(す)い尽(つ)くすことがないと誓(ちか)うか」


「誓(ちか)うわ」


「私(わたし)の望(のぞ)まぬことをしないと誓(ちか)うか」


「それが貴方(あなた)の死(し)に直結(ちょっけつ)しない限(かぎ)りは誓(ちか)うわ」 


 私(わたし)は頷(うなづ)いた。精霊(せいれい)は自(みずか)らの宣言(せんげん)を裏切(うらぎ)ることが出来(でき)ない。


「いいだろう」


 精霊契約(せいれいけいやく)の方法(ほうほう)は知(し)っている。私(わたし)は短剣(たんけん)を手首(てくび)へと押(お)し当(あ)て、軽(かる)く引(ひ)いた。鮮(あざ)やかな血(ち)が溢(あふ)れ、珠(たま)を作(つく)る。私(わたし)は短剣(たんけん)を少女(しょうじょ)へと手渡(てわた)した。


「名(な)は?」


「……。そうねぇ。ティア……いえ……ユースでいいわ」


 ユースと名乗(なの)った少女(しょうじょ)は私(わたし)と同(おな)じように短剣(たんけん)を手首(てくび)に当(あ)てて、躊躇(ためら)いなく切(き)り裂(さ)いた。だが、彼女(かのじょ)の傷(きず)から赤(あか)い血(ち)が流(なが)れることはなかった。流(なが)れたのは、水(みず)のような透明(とうめい)な液体(えきたい)だった。傷口(きずぐち)から湧(わ)き水(みず)の如(ごと)くに溢(あふ)れ出(だ)し、先程(さきほど)ユースが壁(かべ)に空(あ)けた巨大(きょだい)な穴(あな)から差(さ)し込(こ)む日(ひ)の光(ひかり)に反応(はんのう)して煌(きら)めいていた。霊(れい)の水(みず)だ。その身を第五元素(だいごげんそ)で構成(こうせい)する精霊(せいれい)の類(たぐい)は、赤(あか)き血(ち)ではなく、その身(み)に穢(けが)れなき水(みず)を流(なが)す。


 私(わたし)は彼女(かのじょ)の手首(てくび)に触(ふ)れ、傷跡(きずあと)を重(かさ)ね、互(たが)いの血(ち)を混(ま)ぜ合(あ)わせた。血(ち)は魂(たましい)の媒介(ばいかい)であり、存在(そんざい)の本質(ほんしつ)を伝(つた)えるものである。精霊契約(せいれいけいやく)は本質(ほんしつ)の契(ちぎ)り。血(ち)を混(ま)ぜ合(あ)わせることにより、互(たが)いの存在(そんざい)を縛(しば)り合(あ)う。


 そして何(なに)より、彼女(かのじょ)のような精霊(せいれい)にとって血(ち)は確(たし)かに上質(じょうしつ)な食事(しょくじ)となるだろう。


 私(わたし)はユースの血(ち)が(彼女(かのじょ)の流(なが)した霊的(れいてき)な水(みず)が)身体(からだ)の中(なか)に侵入(しんにゅう)してくるのを感(かん)じた。身体(からだ)が熱(ねつ)を帯(お)びて、胸(むね)が締(し)め付(つ)けられる。下腹部(かふくぶ)に妙(みょう)な違和感(いわかん)を覚(おぼ)え、私(わたし)は困惑(こんわく)して、身動(みじろ)ぎをした。葡萄酒(ぶどうしゅ)を飲(の)み過(す)ぎた時(とき)のような酩酊感(めいていかん)が私(わたし)を支配(しはい)しようとしている。脚(あし)が震(ふる)えて、立(た)っていられない。溢(あふ)れ出(だ)した粘性(ねんせい)の蜜(みつ)が太腿(ふともも)に垂(た)れて濡(ぬ)れていた。


 耐(た)えきれずに自身(じしん)を抱(だ)くようにしゃがみ込(こ)んだ私(わたし)を、ユースが愉悦(ゆえつ)の笑(え)みを浮(う)かべて、見下(みお)ろしていた。





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