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婚約破棄されたらS級冒険者だった前世を思い出したので魔王を倒して来ようと思います。なぜか養い子だった氷の騎士が睨んでくるけど。  作者: 水流花


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王都からの知らせ

 翌朝、フローラがいつまで経っても起きて来なくて、隣の部屋にも様子を見に行ったら案の定ギデオンたちもよく眠っていた。気持ち良さそうに眠る姿を見ていたら、これは当分起きないんだろうなと理解する。私の時と同じだ。呪いの影響なんだろう。


 暫く様子を見ていたけど、うなされている様子もなかったので買い出しに行くことにした。

 力強い体躯の男たちがうごめく街を歩きながら、鼻歌をうたう。


 一人で歩くなんてひさしぶり。

 ずっとみんな過保護だったんだもの。


 昨日の冒険者ギルドの横が商店だったわね、と向かいながら歩いていると男たちから声を掛けられまくる。食事にとか、口笛を吹かれるとか、反応はそれぞれだけれど。アンジェリカは目立つのだろう。


 ついでに、と冒険者ギルドを覗くと、受付嬢が私を見て「あ」と驚いた顔をした。

 すっ飛んできて「ギルド長が探されてましたよ」と連れていかれる。


「よぉ。アンジェリカさん。あいつらは?」


 個室の中でギルド長キリルさんが笑顔を向けてくれた。


「そうね……昨日呪いを解いた影響だと思うのだけど起きてこなくて」

「そういうもんなんだな」


 書類をバサバサと探しながら「お、これだ」とキリルさんが一枚の紙を私に渡した。


「極秘ね」


 そんなの見せていいのかしら、と思いながら受け取ると、嫌なものを読んでしまって思わず顔を顰めた。


「何うける、その顔」

「……お会いせずに旅立ちたいです」

「無理。だってあいつ鍛えたいんだろう?どう考えても日程かぶっちゃうよ。それに、実質……呪いの件はおまえらしか知らん。その辺解明しない限り、ちょっと出て行ってもらっても困る。死者は一人でも減らしたいだろ」

「……」


 はぁ、とため息を吐きながら、促されて椅子に座る。


 書かれた紙に書かれていたのは、王国からの魔王討伐隊の到着予定だった。それは間違いなく、元婚約者のそばにいた聖女ヘレナが来るということだ。面倒なのだ。おそらく、元婚約者と上手くやれなかった原因の大半はアンジェリカにある。アンジェリカに非があるとしても、非があったからこそ、彼らと上手く話せる気もしない。一緒に魔王討伐なんてことになったら『足を引っ張られる』。リリーの時の二の舞だ。


「魔王討伐は命がけなので困ります」

「いや、ほんとそれ」


 キリルさんは豪快に笑う。


「で、呪い、詳しく教えてくれ」


 私はこれまであったことをキリルさんに詳しく話し出した。驚いたり、引かれたり、キリルさんは反応豊かに聞いてくれていた。








 ずいぶん話し込んで遅くなってしまった。商店で、三人ともいつ起きるかも分からないから日持ちする食料品を買い込む。


「よぉ、ねえちゃん、暇?」

「暇じゃないわ」


 かけられた声を軽くいなして、よいしょと荷物を抱え込むと、目の前に男たちの集団が立ちはだかった。


「俺たちと飲みに行こうぜ」

「酒場で飲むだけだよ」

「大丈夫楽しむだけだから」


 首を傾げて彼らを仰ぎ見ると、彼らが私の顔を見て息を呑んだ。ズボンを履いた軽装の私でも、磨き上げられた容姿は目を引くんだろう。鍛えられた体に薄汚れた服装の彼らはこの街の労働者だろうか。


「とんでもない上玉だな……」

「なんだおまえ、お貴族様?」

「街案内するか?」


 そういえば、リリーの時はここまでの誘いがなかったから新鮮よね、と思う。アンジェリカにこの手のタイプから声が掛かることなどなかったし。


「私はB級冒険者なの。魔王を倒しに来たのよ」

「B級!?」

「え?本気か?」

「そんな細腕で?」

「やめた方がいいよ。親御さんが心配してるよ……」


 心配されてしまったので思わず笑ってしまうと、彼らは気を良くしたのか「荷物持つぜ、送っていく」と態度を変えてきた。不思議に思っていると「魔王は俺たちの宿敵なんだ」と言った。


「親も兄弟も、友人も、ここにいる俺たちは皆親しい誰かをあいつらの仲間に殺されている。討伐に訪れる冒険者にはいちおう、敬意を払ってる」

「そうなのね……必ず倒してくるわ」


 この街は魔の山にほど近い。労働者は山近くまで行くこともある。ふいに事故のように遭遇することもあるんだろう。


「力づえーな」

「なぁ、ほんとに冒険者なの?どうやって倒してんの?」

「私の場合主に魔法よ。貴方たちみたいに鍛えられた体を持っていないもの」

「俺ら鍛えてる?」

「とても素晴らしいわ。王都にはあなたたちみたいに素敵な肉体の人は少ないのよ」

「へへっ……」


 話しているうちに宿屋に着いたので荷物を受け取り彼らと別れた。頑張れよと素直に応援の言葉をくれた。階段を上がろうとしたら、ガタリ、と音がしたので見上げると、階段の上にはふらついた様子のギデオンがいた。片手で頭を押さえて、壁に倒れ掛かっていた。


「え?ギデオン!?大丈夫?」

「……」


 荷物を置いて階段を駆け上がりギデオンの体を支える。


「どうしたの?頭痛いの?」


 頭をなでると、彼の手が私の手首を掴んだ。辛そうに顰めた顔で私を覗き込んでいる。


「アンジェリカ……」

「な、なぁに?」

「声が聞こえた。絡まれてたのか?」

「え?違うわよ?送ってくれただけで……」

「そうか」


 力強い彼の手が私を放さない。何か様子がおかしい。


「に、荷物取ってくるから放して」

「……」


 ギデオンは感情を映さない瞳で私を見下ろしている。まるで夢を見ているみたいに、私を見つめ続けている。


「寝ぼけているのね……?もう一度寝かしつけてあげるから、一度放してくれない?」


 そう言うと、ギデオンは手首を放し、視線を荷物に向けて階段を降りだした。抱えて戻ってくると、私をじっと見下ろした。

 ギデオンはよく私を見つめているけれど、いつもの鋭い視線でも呆れたような視線でもない。

 記憶を取り戻す前のアンジェリカを見ていた視線でも、リリーを見つめていた眼差しでもない。


 私の表情を、私の外見を、一つ一つ確認するように彼は瞳を動かす。

 隠すことなく観察しているようなぶしつけな視線。

 まるで知らない男が目の前にいるみたいだと思う。


 だってギデオンはいつだって感情豊かだったのだ。彼の瞳に籠っていた、憎しみに似たなにかも、信愛に似たなにかも、熱い情熱がこもり私に向けられていた。

 私には何も理解が出来なかったけれど、それでも羨ましいくらいに生命力に溢れていた。なのに。


 本能が、怖いと思う。私がギデオンを怖いと思うことがあるなんて……。


「今のお前は……アンジェリカなのか?」

「え?」


 冷淡に聞こえるその声の、質問の意味が分からない。


「リリーなのか?」

「……どういう」


 ギデオンは冷ややかな眼差しで私を見下ろしながら言った。


「ライラなのか?」

「……」


 それは、リリーの前の『私』の名前。夢に見ただけの。本当にいたのか分からない誰かの。記憶が遠く薄れてしまっている、もう何を考えていたのかもよく思い出せない。ただの人間だったときの『私』の……。




 

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