3-12 カーレーサー・ガンマン
昼前、カナタとチハヤの二人は並んでショッピングモール内の映画館から出てきた。
「おもしろかった~」
「同感~ CGも火薬もたっぷりで迫力あったよね~」
その時、チハヤは「あっ」と、立ち止まった。彼女の目線の先にはカーレースのゲームがあった。
「やってかない?」
「乗った」
二人は百円ずつ投入し、ハンドルを握る。
『3 2 1 GO!!』
その合図で強くアクセルを踏み、勢いよく発車する。
直進の道を走り、コーナーを曲がり、起伏を越え、アイテムを使って妨害していれば、あっという間にレースは終わった。
結果はカナタ一位、CPU二位、チハヤ三位となった。
「カナタ上手すぎない? これレーサーなれるよ」
「いやいや『グランツーリスモ』じゃあるまいし……」
────いや、アレ実話に基づくストーリーだわ。
「……まぁエイタたちと遊びに行った時は、毎回やってるからね~」
雑談を繰り返しながらモールを出て、バス停へ向かう。
道中にある横断歩道を渡ろうとカナタが右足を出した次の瞬間、二人の目の前をとてつもないスピードで『何か』が横切った。
「えっ今の何!?」
「ニコーラー、見えた?」
カナタは小声で、ポケットの中にあるスマホにインストールしておいたニコーラーに尋ねる。
『ブンセキチュウ…………ミえました。これは……フォーミュラカー? ガゾウ、ダしますね』
スマホに映し出されたのは、速さのせいでピンぼけしている、禍々しい雰囲気を纏ったフォーミュラーカーのようなものの写真。
「これって、デーモン……?」
「ねえ、なにブツブツ言ってんの? ほら、早く行こ。信号変わる」
「ごめん、ちょっと急用ができた!」
手を合わせてそう言うと同時に、カナタは走り出した。
「ちょっ、カナタ!? どこ行くのー!」
カナタを追ってチハヤも走り出した。
**********
南東へ一キロメートル程走ったところにあるガソリンスタンドで、"何か"を見つけた。
赤紫色のフォーミュラーカーを醜く、禍々しく歪め、機械的な筋肉や血管のような意匠を纏った巨大な存在が、地面に溜まったガソリンをチビチビ飲んでいたのだ。
「おい! 何、してるの?」
カナタの声を聞いた『何か』はギロリと目を動かしてこちらを睨む。
『ア? なニもンだィ?』
「俺に名乗ってほしかったら、そっちが先に名乗ってよ!」
『おレはカぁレぇスでェもン。まオうサまのチゅウじツなシもベェ』
「例に漏れず変な喋り方。やっぱりデーモン怪人だったんだ」
その時、遠くからチハヤが走ってきた。
「うわっ、なにコイツキモッ」
「チハヤ。下がってて、できたら周りの人を逃がしてほしい」
「でもカナタはどうするつもり? まさか、戦おうってわけじゃないよね!?」
「そのまさか。ほら、早よ逃げて」
「…………死ぬなよ!」
チハヤ は「グッ」と親指を立て、再び駆け出した。
『はナしハおワっタか?』
「終わったよ。じゃあ、お手柔らかに」
そう言ってオーブリンクをしたその時、カーレースデーモンは大きくエンジンを吹かせて威嚇した。
『まテ、おレはウでッぷシのタたカいハとクいジゃナい』
その言葉にカナタは困惑した。じゃあ何故戦うなんて言ったのかと。
「じゃあどうするの? 何かゲームでもする?」
『げェむ……トはマたチがウが、チかシいコとダ。おレさマと、レぇスしロ!』
「レース!? ここで!?」
『あアそウだ。オれサまト、いマこコで、カぁレぇスだ!!』
「分かった。ニコーラー、車かバイクを」
『だーかーら! ワタシにそのキノウはナいと、ナンドイわせればいいんですか!』
『れェすシなイのカ?』
「したいけど無いんだよ! 車両が!!」
『そウか。ジゃアしネ』
カーレースデーモンはフロントウィングの部分をカナタに向け、エネルギーの球を作り出した。コスモの必殺技と似たようなものだ。これが高威力の攻撃の準備であることは、用意に想像がついた。
「やっべ」
オーブリンク。
しかしその時、近くで銃声がしたかと思えば、カーレースデーモンは怯んだ。続けて一発、二発、三発と鉛玉が撃ち込まれる。
カナタが銃声の方へ目線を向けると、そこには馬に乗った西部劇の保安官風の男がいた。しかし、彼のリボルバーを持つ手はブルブル震えており、よく見ると顔もひきつっていた。
「……誰?」
「こっ、こここ……子供をいじめる奴は……ゆ、許さんぞぉ!!!」
バン、バン、バン、と、今度も三発続けて撃つ。
『いテぇ。イてテてテてテてテ。くソっ、オぼエてロ!』
そう吐き捨て、カーレースデーモンはその場から逃走。自ら生成したポータルに逃げ込んだ。
「逃げられちゃった……」
「き、きみ」
カナタが振り返った先には、馬から降りた保安官風の男が立っていた。
「怪我はない……か?」
彼の口からは、見た目に反して弱々しい声のみが吐き出されてくる。
「はい、助かりました。ところであなたは?」
「僕?! 僕はジェイク。カムザリタウンの保安官……です。一応」
その名前に、カナタは覚えがあった。
────この人、もしかしたらってかもしかしなくとも、『臆病者のバッジ』の主人公だ。名前、舞台の町、格好が同じだし、顔も俳優まんま。
「……どうか、されました?」
「いえ、なんでもありません。ありがとうございました、ジェイク保安官。この後、良かったら家にきませんか? 行く当ても無いでしょうし」
「はい……気がついたらわけの分からない場所にいて困ってたんです」
その時。
「カナターっ! って今度は誰その人!?」
周囲の人の避難を完了させたチハヤが戻ってきた。
「えーとこの人は……言いにくいなぁ」
「春晴カナタさんですね」
カナタが言葉を選んでいたその時、彼らの背後に黒服の男が立っていた。
「あ、もしかしてJNIAの?」
「はい。釘原課長の指示を受けて参りました。指示に伴い、春晴さん以外のお二人を連行させていただきます」
「カナタ~、これどういうこと?」
「ほんとごめん、協力してあげて。あ、本部に連行しなくても、家なら釘原さんが近所にいるから、そこにってことはできます?」
「左様です。では、お乗りください」
JNIAの事後調査・処理の部隊が動く裏で、三人は車に乗った。
「あのぉ……馬、どうすればいいでしょうか?」
「────動物輸送車を要請しよう」
**********
それから一五分後、三人を乗せた車は春晴家に到着した。
「まさか、カナタがCIA的なのと繋がりがあったなんてね~」
「うん。何回も言うようだけど・・・」
「分かってる分かってる。誰にも漏らさないから」
「ならよし。今日は俺の部屋で好きな映画でも見てて。絶対に下には降りてこないこと」
「へーい」
家に入る。今日はセルアたち四人は、揃って図書館に行っていて不在のようだ。
その代わりと言っては何だが、リビングにはマコトが待機していた。
「………彼が新たな」
「うん、異世界転移者。魔王軍が絡んでるかは不明。だけど多分絡んでるんじゃないかな」
「そうか。報告は受けている。フォーミュラーカーのようなデーモン怪人が出現、林町のガソリンスタンドを襲撃した、と。で、そこに現れたのが彼」
「そう。で、これは俺の見解なんだけど、この間のシャークデーモンと同じ感じで、ジェイク保安官もカーレースデーモンも、映画の世界から来たんだと思う」
マコトは頷きながら、熱心に聞いていた。そして、尋ねる。
「なるほど……で、なんの映画だい?」
「保安官の方は、臆病者のバッジっていう八〇年代の西部劇。カーレースデーモンの方は……カーレースモノの映画は多すぎて分かんないや」
「そうか。話は変わるんだけど、今度やるってレース、我々JNIAが観測・分析させてもらおうと思っている。いいね?」
「それはご自由に」
その時、カナタのスマホ画面が明るく光った。
「なになに?」
『カナタサマ。すりーでぃーぷりんたもーどのいんすとーるがカンリョウしましたよ。これで、ばいくだろうがかーとだろうが、ヨびダせるようになりましたよーと』
ニコーラーは少々呆れっぽく言った。
「えー、ありがとー!」
「それが噂の戦闘補助AIか。これは……JNIAにもほしいな」
『そっちにはイくつもりはモウトウありませんよ~』
「それは失敬」
「では改めて、彼女……彼かもしんないけど、ニコーラー・マカリスター。日曜の朝にやってるスーパーヒーローゴニンジャーの、サポートメンバー的立ち位置のAIで、なんやかんやあって今は俺のところに来てる」
「解説ありがとう。次は、キミだ」
マコトはジェイクの方を向き直って言った。
「ぼ、僕ですか?」
「そう。自己紹介をお願いします」
ジェイクは深く息を吸い、覚悟を決めて口を開いた。
「ぼ、僕の名前はジェイク。カムザリタウンの新人保安官です。特技は……無くて、苦手なことは拳銃の扱い……です」
「釘原課長、カムザリタウンと言う地名は過去にも現在にも存在しません」
後ろのソファでパソコンを叩いていた黒服の男が言った。
「やはり異世界転移者ということか……ありがとう。じゃあこれから作戦会議と・・・」
その時、先ほどの黒服の男が声を張り上げた。
「本部から入電! 灯保町にカーレースデーモンと思われる怪人が出現しました。至急、現場にお向かいください」
「分かった」
「行きましょう。保安官はお留守番でいいよね?」
「い、いいえ。僕も行かせてください。キミを傷つけようとした奴が……許せないんです」
「────そっか。なら、行きましょう」
**********
三人が灯保町に到着したのは、二五分後のことだった。
「おい!」
真っ先に車を降りたカナタが声を荒げた。
「来たよ。さあ、レースしよ」
『だナぁ。発動:Progressio Hippodromi/競走場の展開』
その一声で、カーレースデーモンを中心に周りがまばゆい光に包まれた。
カナタが目を開けると、そこは全く見ず知らずの街の中にいた。だが、すぐに感じた一つの違和感。
────人が一人もいない。それどころか、生活感もないし、車も通ってない。信号の電気も消えてる。
「映画のセットみたい……」
そこにはジェイクも一緒に連れてこられたようで、ビクビク怯えて乗っている馬にしがみついていた。
『よウこソ。わガれェしンぐふィぃルどヘ。コこノこトを、ハじメまシてノきミたチに、トくベつニおシえテやロう』
「お願い」
『まズはジめニ、こノれェしンぐフぃィるドは、『氷河』、『都市』、『砂漠』ノみッつのエりアにワかレてイる』
「そこを巡るようにレースしろ……ってこと?」
『のミこミがハやイな。氷河エりアをスたァとシて、都市、砂漠ノじュんバんダ』
「おっけー。ニコーラー、車でもバイクでもどっちでもいいから、コントロールしやすくて速いやつを出して」
『まったく。AIづかいがアラいですねぇ』
一〇秒ほどでニコーラーはバイクを生成して見せた。それを見たカナタは気分が高揚し、バイクの周りをぐるぐる見回したり、いろんなところを試しに触ってみたりした。
「こ……これ僕もやらなきゃいけない感じですか?」
『そウだ。レぇスがオわルまデ、だレもコこカらデるコとハでキなイ』
「うっそぉ……」
『ごタごタいッてナいデ、はヤくレぇスをハじメよウ』
そう言ってカーレースデーモンはエンジンを一吹き。すると、周囲の景色は一瞬にして氷河に変わった。
『いチにツけ』
三人は半楕円状のアーチの手前の白線に並ぶ。余裕そうな表情のカーレースデーモン、覚悟の面持ちを感じさせるコスモ、恐怖で怯えているジェイク、三者三様の待機時間。
そして、出発の時間はやってくる。
3 2 1 GO!!
赤だったランプが青に変わると同時に、三人はエンジンを入れる。
一番に飛び出したのはカーレースデーモン。やはり、デーモンコアと魔力で強化されたエンジンの火力はケタ違いだ。
それに追随するようにコスモが走り、コスモに並ぶようにジェイクが走っていた。
フルパワーのバイクと互角に渡り合える馬とは、一体何なのだろうか。
「保安官、速くない!?」
「し、知りまんよ! この子がこんなに速いだななんて!」
状況が動いたのは、ツルツル滑る氷河エリアを越え、都市エリアに入ったすぐのところだった。
カーレースデーモンの独壇場が続いていたが、コスモとジェイクが距離を縮め、三者互角の一位争いが繰り広げられていた。
────じャまダな。
そう、頭の中で呟いたカーレースデーモンは、再びエンジンを一吹かし。
すると、ビルの壁を突き破って、スポーツカーが五台飛び出してきた。
「ハリボテビルからスポーツカー!?」
「う、うわぁ~~!」
『しョうカいシよウ。あラたナらイばルだ』
そう紹介された、赤、青、緑、銀、オレンジのスポーツカーたち。
彼らもレースに参戦したのだ、圧倒的なスピードで熾烈な戦いが幕を開ける。
「『ワイルド・スピード』とか、今日観た『オーバードライブ:ユーラシア・ラン』に出てきた車によく似てるなぁ」
その時、コスモの隣を走っていた一台のスポーツカーの窓が開いた。
「やぁ兄弟。今日もいい天気だな」
「ディーンの兄貴!?」
カナタはその顔に覚えがあった。それもそのはず、今日映画館で二時間近く眺めた、主人公の顔なのだから。
「初対面なのに俺のこと知ってんのか。珍しい」
「まあね」
────映画のことは言わんとこ。
「それより、ユーラシア大陸横断レース、優勝おめでとうございます」
「おう、サンキュー。だが、この場では俺たちはライバルだ。容赦はしないぜ!」
そう言って、ディーンはさらにアクセルを踏み込んで加速する。
負けじとコスモも加速。
ジェイクも手綱を振って、馬を加速させる。
ドリフトで交差点を曲がり、橋への上り坂でピョンと跳ね、六レーンの大通り全部を贅沢に使ったカーレース。
やはり現状の一位はカーレースデーモンだが、途中でコスモが追い越したり、ディーンの乗るスポーツカーが追い越したり、ジェイクが凄まじい加速をして追い越したりと、はっきり言って先の見えない、ハラハラドキドキのレースである。
そんなこんなでレースも遂に終盤。一行は砂漠エリアに突入した。
「うぅ……砂漠走りづらっ」
「ザンバー、まだ走れるかい? 無理はしちゃダメだよ」
ザンバーというのは、ジェイクの乗る愛馬のことである。
『あの~カナタサマ。たいやをおふろーどもーどにヘンコウしましょうか?』
「できるんならお願いしま~す」
コスモのバイクは、すぐさまオフロードタイヤに変わった。
「おっ、走りやす~い」
砂漠地帯を走りやすくなったコスモは、アクセルを全開にして超加速。カーレースデーモンとのトップ争いに躍り出た。
「チッ。まタじャまヲ……」
「ねえねえ、ゴールまであとどのくらい?」
「二きロもナいダろ……ウ!」
そう語気を強めると、カーレースデーモンはまたもやエンジンを一吹かしさせた。
すると、何やら後ろのほうから多くのエンジン音が聞こえ、地響きもする。
「今度はなんだよも~」
呆れた様子でコスモは振り返る。すると後方には、スパイクやガトリングガン、火炎放射器で武装した「世紀末」という言葉の似合う車両団が迫ってきていた。
その光景に、思わずカナタも目を見張る。
「うわー今度は『マッドマックス』みたいなの来たよ……」
スパイクや火炎放射器で武装した、とても世紀末風な車両団が現れた。
車両団たちはスポーツカーたちを押しのけ、ジェイクの後ろまで追いつめてきていた。
「ひいっ」
次の瞬間には、車両団たちはさらに追い上げ、ジェイク、ディーン、コスモを巻き込んで進む。それに乗じて、カーレースデーモンはさらに速く進んだ。
「あばばばばばばばばば あだっ!」
そんな声を上げて、コスモは転倒。バイクから転がり落ちた。
「っつぅ……」
ゴニンジャーのスーツを纏っているとはいえ、走っているバイクから落ちたらしっかり痛い。
だが、そんなこともすぐに忘れられるトラブルが、コスモの身に起きた。座り込んでいた自身の体が、砂の中へ沈んで行っているのだ。
「えっ、何コレ!?」
『ソコなしヌマ……の『スナ』バン、ソコなしスナです! ハンジュウリョクしすてむでダッシュツ・・・』
「いや、大丈夫。一個、一発逆転できる作戦を思いついた」
そう言い放ったコスモは、ニコーラーの慌てる声を聞き流し、バイクにまたがって砂の中に消えていった。
**********
ついにレースも佳境に差し掛かる。ゴールまで残り三〇〇メートルもない。現状の順位は、
一位 カーレースデーモン
二位 車両団
三位 ディーンの兄貴
四位 ジェイク保安官
行方不明 ゴニンコスモ/春晴カナタ
となっている。
「うぅ……カナタくんはどこへ行ったんだ?」
地面が小刻みに震えている。そんな気がする。そしてそれはどんどん大きくなっていき、カーレースデーモンでさえも、タイヤを止めた。
「なンだ?」
揺れが最高潮に達したその時、地面の中から大きなエネルギーの球が姿を現した。
『ショット・フィニッシュ・ショーット!!!』
「これは……やるじゃねえか兄弟」
吹き飛ばされた砂とともに、蹴散らされた車両団とともに、地面の中から出てきたのはコスモだった。バイクにまたがったコスモは、カーレースデーモンの目の前に着地した。
『きサま……ドんナてヲつカっタ?』
「簡単簡単。地中に潜って、進んで……君たちの真下に来たタイミングで上向きにバーン!!! ってこと。一発逆転♪」
『ぼウがイはハんソくダ!』
「じゃあ『意図せず地中に沈んでしまって、そこから脱出するために仕方なく技を使った』『巻き込まれたのは計算外でたまたま』ってことで」
『ぐヌぬ……』
言い争いの裏で、ジェイクが二人の間に割って入る。
「あのぉ……レースの続きを……」
『────だナ』
そうして再びレースは再開。カーレースデーモン、コスモ、ジェイク、ディーンの四人で改めて発進!
残り五〇〇メートルを全力疾走。
やはり一番はカーレースデーモン。おっと、ここでコスモが追い上げた。しかし負けじとカーレースデーモンが追い上げる。
コスモ、追い越されるか……いや、ここで妨害。ジェイクの撃った弾がマフラーに着弾。
カーレースデーモンは少し減速した。
「やった……あ、『流れ弾』ってやつ……です」
ついに最終盤。ジェイクとディーンの二人はトップ争いからはフェードアウトし、コスモとカーレースデーモンの二名が、追い越し追い越されの戦いを繰り広げていた。
言葉では言い表せないほどの激しさ、勢いだ。速さはゆうに時速四百キロメートルを超え、火がついてしまいそうだ。
そして、ゴールゲートをくぐったのは、ほぼ同時であった。
『しョうシゃハおレ、だナ』
「いや俺! VAR!!」
コスモのその声で、二人の前方上部にはホログラムモニターが出現した。モニターに映し出されたのは……
コスモが一ミリメートルの差で、カーレースデーモンに勝利したことを示す映像だった。
「っ……しゃあ!!!」
「『カナタの一ミリ』……流石ですね」
「三苫に並んだってこと?」
『そンな……マさカ……』
────デーモンコア、活動停止。
カーレースデーモンの頭の中を、そんな文字列が横切った。それと同時に、彼(?)の体からデーモンコアが分離し、カーレースデーモンはただのレーシングカーとなった。
分離したデーモンコアは、ふわりふわりととんでどこかへ行こうとしたが、
「させるかぁ!」
コスモがそれを撃ち抜き、粉々に破壊した。
いや、待て。本当に破壊したのはコスモか?
否。デーモンコアを一足先に撃ち抜いていたのは、ジェイクだった。
彼の顔は、いつになく、柄にもなく、真剣なものである。
『まったく、使えない奴だ。ま王様のき待に、沿えぬとは……』
「えっ。何、言ってるの……?」
その瞬間、ジェイクと馬のザンバーを、赤黒いもやが取り囲んだ。
彼らは、デーモン怪人と化した。
~~~~~~~~~~
カーレースデーモンがこの現実世界に現れる直前のことだ。彼は今回の任務についての説明を、クロノス・マドゥから受けていた。
「今回のこの任務には二人であたってもらう」
『とイうト、もウひトりハどコに?』
カーレースデーモンが尋ねる。
「ここだ」
そう言ってクロノスが手を叩くと、部屋の外から、眠らされたジェイクが馬のザンバーと共に連れてこられた。
「『ジェイク。世界〇〇七五出身。町の保安官の男。弱虫だが正義感がある』とのことだ」
クロノスはスピカの報告書を読み上げた。
「待て、続きがある。『尚、今回新たにコアスイッチ』なるもの『を導入した。彼に埋め込んだデーモンコアの起動条件は』……『カーレースデーモンが、戦闘不能状態に陥ること』」
~~~~~~~~~~
「……保安官?」
『アーアー。し事増やしやがって』
構えたコスモの目の前に立っていたのは、まるでケンタウロスが西部劇のガンマンになったような、同時に禍々しいオーラを纏った怪人だった。
「さしずめ『ウエスタンデーモン』ってとこ?」
どう攻略すればよいのだろう。そればかりを考えて、コスモの前方は疎かになっていた。
彼の頬を、ムチが打つ。勢いで吹き飛ばされかけるも上手く着地し、チェンジガンのトリガーを引く。
しかし、それすらも彼はムチで跳ね返してしまう。
発泡しながら岩陰に身を隠し、そこからウエスタンデーモンとの撃ち合いを続ける。
だが、結果が変わることはなかった。撃てど撃てど、跳ね返されるだけ。
────これ隠れてても埒明かないな……ええい、こうなったら!
コスモは高くジャンプし、ウエスタンデーモンの目の前の地面に、拳を叩きつけて着地する。
で、そのまま殴り合いというわけだ。
────相手の腕は、まあ当たり前だけど二本! 右手にムチ、左手に銃。手放さなければまともな防御はできないはず!
殴り、殴り、からの回転蹴りで武器二つを、コスモは弾きとばした。
ウエスタンデーモンが丸腰になったのを確認したところで、コスモは三ステップ後ろに下がってオーブリンク。からのトリガーを三回引けば、毎度お馴染みの大技枠『チョウヒッサツ/ショット・フィニッシュ・ショット』を繰り出した。
だが、知っての通りこの技では、相手を倒しきることはできない。だから・・・
「三連チャンでどうだ!!」
オーブリンク、トリガー三回、チョウヒッサツ。オーブリンク、トリガー三回、チョウヒッサツ。
繰り返した末、ウエスタンデーモンを極限まで弱らせることに成功した。戦闘不能ではあるが死んではいない、所謂『ひんし』の状態だ。
そこにコスモは歩み寄って、ウエスタンデーモンの頬を平手打ちした。
────塩梅はこれくらいかな。
「さ、戻ってきてよ。保安官」
カナタの見立ては正しかった。平手打ちと同時に、デーモンコアがウエスタンデーモンの体から抜け出した。
すかさずチェンジガンで撃ち抜く。デーモンコアを、完全に破壊することに成功した。
「保安官。ジェイク保安官、大丈夫ですか?」
変身を解いたカナタが、ジェイクの体を揺すって声をかける。すると、彼は「うーん……」と声を出してゆっくりと目を開けた。
「保安官! 無事ですか?」
「あ、あぁ。何があったの?」
「……カーレースデーモンと同じ、怪人になっちゃってました。けどもう大丈夫です! 怪人になるコアは、壊しときましたから」
「そうか……ありがとう、助けてくれて」
その言葉を聞いたカナタは、まるで全身の力が抜けたかのように、その場に大の字で寝転んだ。
────よかった。今度は救えた。
**********
現実世界に戻ってきてからの展開は、まさに風のようだった。
まず初めに、カーレースデーモンの素体であるレーシングカーとデーモンコアの破片が、JNIAに回収された。
ジェイクとディーンはというと、元の世界に戻る手段が確立されるまで、JNIAに身柄を保護されることになった。もちろん、馬のザンバーもだ。
次に、カーレースデーモンの大暴れを目撃した一般人たち。彼らはみなJNIAに任意同行され、記憶消去を施された。ネットにアップロードされた情報も、すべて削除された。
そして、カナタはというと……
「『オーバードライブ:ユーラシアラン』、明日二週目してこよ。あ、そういえば『臆病者のバッジ』が駅前の方の映画館でリバイバル上映されてたっけ」




