2-16 通知表は賑やかに
今日はマキナの編入試験の前日の夜。そのため、カナタ指導のもと追い込み特訓が始まっていた。
まず初めに、昼間のうちに解いた過去問の見直しから始める。
「うーん、暗記部分は完璧だし小問集合もほとんどできてるんだけど、漢字間違いとか符号のつけ忘れとかのケアレスミスが残念なことに多い……熟考しすぎて見直しの時間が足りないってのもあるかな? あ、ここは複雑な裏ワザを無理に使って間違えてる。それで間違えくらいなら筋道立ててじっくりやったほうがいいよ。それでここは・・・」
カナタは各教科五分ずつかけて、一通りの分析と説明を終えた。
「そっか……これまで勉強してきたけど、まだまだなのかな……」
「今のままでもギリギリ合格圏内ではある。けど、ギリギリである以上、何らかのハプニングが起こったら落ちかねない。一発逆転を狙うのはあまりにもリスキー。だから今夜は、ミスったところと、出題傾向が高かったり誤答しやすかったりするところを重点的におさらいして、やり方からなにから全部確実なものにするよ」
「ええ。そうしましょ」
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翌朝、カナタとマキナの姿は、玄関にあった。
「サインコサイン」
「タンジェント」
「After school, many students belong to a sports team or a cultural club because they want to enjoy their free time and make new friends.」
「多くの学生は放課後、自由な時間を楽しみ、新しい友達を作りたいため、スポーツチームや文化クラブに所属します」
「周期表言ってって」
「水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、ネオン・・・」
「よしそこまで。壬申の乱、保元の乱、応仁の乱、承久の乱の中で平安時代に起こったのは?」
「保元の乱」
「よし、入学試験へ行っておいで。俺は終業式に行ってくる」
「いってらっしゃーい」
今日もまた、学期末であるということを除けば、大して変わり映えのない一日が始まる。
最近は日が長くなっているのだろう。いつもと同じ時間、いつもと同じ道でも、太陽が上からカナタを照らすようになっていた。
蝉も、朝が早い者はもう所々で鳴き始めている。
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七西中、プレハブ校舎。時刻は九時ちょうど。
先述の通り、今日は一学期の終業式。コロナ禍の名残なのか熱中症対策なのか、ここ数年はオンライン開催が普通となっている。
『え〜、これから夏休みですが、規則正しく生活を続け、一,二年生は部活に打ち込み、三年生は受験勉強に励んでください。また、ボランティア活動にも・・・』
校長の長い話を、ほとんどの生徒が気だるげな様子で話半分に聞いている。その一方でカナタはというと……堂々と爆睡していた。
昨夜は二時過ぎまで勉強に付き合っていたので、当然といえば当然である。
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終業式とは、数多くの配布物が生徒たちに手渡される儀式でもある。デジタルの時代といえど、学校教育の場における紙文化は健在だ。課題に始まり、塾の夏期講習の案内、生徒たちにとって有益な経験となるであろうイベントの案内、夏休みの規則から学年通信まで。そしてそれら配布物の大トリを飾るのが「通知表」だ。
「せーので見せろよ?」
「うん!」
「ああ!」
「はい」
通知表が配り終えられたエイタ、カナタ、ビスケ、マサル(班長)の四人は集まって、各々の通知表を見せ合おうとしていた。
「いっせーのー」
「「「「せ!!! ん?」」」」
その瞬間に四人は互いの通知表に刻まれた数字を読み合う。
「お、今回エイタよくできてんじゃん」
最初に声を上げたのはビスケだ。
「だろ? これで母ちゃんにスマホ没収されなくて済むぜ! なんで俺がここまでできたのか知りたい?」
「いや別に興味はねーけど」
「そーか、知りたいか! 実は塾行き始めたんだよ。『JUKUJUKU』なら初回体験無料、確実に成績アップ! みんなも来なよ」
「……ステマ……ですか?」
「ステマだね。しかも『トゥルーマン・ショー』が脳裏をよぎるタイプ」
「さてさて、そんなビスケくんはどんなかね〜」
エイタがビスケの通知表を覗き込む。
「変わってないね、全く。一つも上がってないし下がってない」
「そだな」
「一年一学期の頃からずっとこれキープなんだよなぁ……」
「そんな君に塾『JUKUJUKU』を……!」
「それはもういいから!」と、カナタが半ば呆れた笑顔でツッコんだ。
「さてさてさてさてカナタはどんなだ〜 きっとオール五……」
またエイタが覗き込んだが、そこには五の羅列の中に異質な雰囲気を醸し出して佇む「三」の姿があった。
「……じゃないんだよこれが。ほれ見てみ、実技教科オール三」
「ほんとだ。まぁ、アレだったもんな」
「そうそう。短距離走をすりゃ開始五歩で足をくじき、リコーダーは毎回穴をうまく塞げずに音が狂い、彫刻をすれば彫りすぎてガリガリハンコができ……テストと、プリントとかノートとかの提出物でここまで取れたのは奇跡かも」
「カナタって意外とそっち系の才能ないよな」
その言葉が何度もカナタの脳内で反響し、グサグサと胸に突きささってゆく。事実とは分かっていても、他人に言われてそれを平常心で受け止められるとは限らないのだ。
「ウッ。エイタ、それはストレートすぎ」
「あ〜わりわり。でも五教科だけでもオール五はすげぇよ」
「ありがと。でも二学期こそは本当に真の意味でもオール五に……!」
カナタは次に向けて決意を改め、エイタも共感するように頷いた。
「さあ班長。最後はキミだ」
「あっ……あ、はい。どうぞ!」
決して完璧な結果とは言えなかった三人は、残るマサルの通知表を覗き込んだ。
「おぉ……これは……」
「まさしく……」
「伝説の……」
「「「マジオール五だァァ!!!」」」
「そ、そんな大声で言わないでください……!」
「いやだってさ、オール五だぞ。ファ・イ・ブだぞ!?」
「仰天せざるを得ないよなー!」
「この俺でもなし得なかったオール五を、まさか班長がやってのけるとは……」
「……そんなに褒め称えないでくださいよ……! なんかこっちが恥ずかしくなります……」
その後も担任の式根に止められるまで、マサルは祭り上げられ続けた。
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時は放課後……といっても、給食を食べ終わってすぐの昼下がりの頃だ。
「なんかこうして一緒に帰るの久しぶりな気がするね」
「わかる~二週間って結構長いよね」
カナタとチハヤは、今日も並んで帰っている。
「それでさ、カナタ。成績どうだった?」
「保体、美、音、技家が三で後は五」
「やっぱりそんな感じか。昔っからホント実技弱いよねー」
「む……そんなチハヤはどうだったの?」
その言葉を耳にした途端、彼女は一瞬足を止めた。
「あ〜えと……四! オール四だった!」
そうは言っているものの、チハヤの目は泳いでおり、額や頬には汗が浮き出ている。これでは嘘をついていることは一目瞭然だ。
「よーしそうか、じゃあ見せてみ!」
そう言ってカナタはチハヤのカバンを開け、捜索を開始。ものの数秒で彼女の通知表を見つけた。
「はいみっけー。さあ答え合わせといこうじゃないの。えーっと……ナニコレ。煙突とアヒルが、交互に並んでる……?」
そう、そこにあったのは「四」、ではなく「一」と「二」の羅列だった。
「ホントごめん。盛りました」
「それは分かったけど盛りすぎ。っていうか、どうやったらこんなひどい成績取れるん?」
「え〜、そりゃもう授業中とテスト中に爆睡かまして、提出物パパ〜ッと適当にやって出したら……ね」
「『ね』じゃないよ『ね』じゃ。二年生にもなってなってこれは流石に……」
「まーやる気の問題だと思うし? そのうち何とかなるんじゃない?」
チハヤは酷い成績がバレ、カナタに注意されても尚、あっけらかんとしている。
「うん、それ一生やる気出てこないやつ。とりあえず夏休みは俺監督のもと強制勉強会な?」
「え〜今年も……? それだけは勘弁してくれない?」
「チハヤがちゃんと夏課題も予習も復習もやるなら別にいいんだけど……」
「やる! ちゃんとやるから!」
「そう。ならなしでいいよ」
そう言ってるけど、去年の夏も冬も、こいつ全くやってなかったんだよなぁ…………と、過去を振り返り、肩を落とすカナタであった。




