2-15 リスタート文化祭
一週間の臨時休校期間が終わり、七西中の校庭に組まれたプレハブ校舎にカナタたちは登校してきた。しかし、校内の雰囲気は暗く淀んだものだった。
「なんだか空気が淀んでるね。特に三年生フロア」
「そりゃそうだよ……今まで頑張って仲間たちと積み上げてきたものが、成果を発揮しきれずにぶっ壊されたんだから……」
カナタの表情と声はとても暗く、背も丸まり、俯いていた。どこかいつもの彼と様子が違う。
「うん、やっぱりそうだよね………あたし達には、先輩たちの気持ちを理解しようとしてもしきれないよ。────それはそれとして、カナタはなんでそこまで落ち込んでるの? この間病院で会った時はめちゃくちゃ元気そうだったのに、何故に急に今日になって」
チハヤは俯くカナタの顔を覗き込んで聞いた。それにカナタは顔を上げて答える。
「ま〜、文化祭ぶっ壊されたのもあるけど、一番は、四月から隔週連載になってたファンタジーワールドが、とうとう無期限休載になっちゃったことだよ……今週号で発表されてさぁ……まあ二期はちゃんとやるらしいけど……」
「うっそマジで? あたしもショックぅ……続き気になってたのに。ちなみに理由とかは?」
「あそうか、チハヤ単行本派だから知らないんだ。まぁ、公式からの発表は無いから詳しくは分からないけど、ネットじゃ家族関係のなにかとは噂されてる。なんか夏雲ゴロウ先生も匂わせてたらしいし」
「ふ〜ん、家族ねぇ……何があったのかは知らないけど、おめでたい話だといいね」
「だね」
そうこう話しているうちに、カナタの教室の前まで二人は来ていた。
「じゃ、俺はこっちだからまた」
「うん。また」
今日も今日とて、二人は別れて別々の教室へ入った。
時刻は八時四〇分、朝のホームルームが始まり、カナタのクラスの担任教師である曽根崎が、教壇に立って話を始めた。
「えー、今日は皆さんに、私達…というより、市からのプレゼントがあります」
開口一番のその発言に、クラス内は一時ざわついた。そんな中、エイタが「はい! はい!」と元気よく手を挙げた。
「そのプレゼントって、一体なんですか!?」
一人の男子生徒が聞いた。
「それは、行ってからのお楽しみです」
その一言で、クラス内のざわつきはより一層強まった。ところどころから「遠足」やら「ちょっと早い修学旅行」という言葉が聞こえてくるが、「そうではない」と曽根崎は言い張った。
そんな時、彼のスマホが震えた。教員ラインの通知音だった。その内容を確認した曽根崎は顔を上げ、口を開く。
「皆さん、バスが来ました。水筒、筆記用具、タブレットを通学カバンに入れて、グラウンドに集合してください」
その指示を聞いた生徒たちは、素早く準備を終え、同じ指示を聞いているであろう他のクラスの人たちと共に、グラウンドに向かった。
グラウンドに出ると、そこには既に全校生徒の八割近い人数が並び座って待っていた。そこにカナタたちも加わる。
数分後、全校生徒の集合が確認されると、一年生から順に体育館前の駐車場に駐車してある大型バスに乗り込んでいった。カナタたちのクラスが乗り込むことができたのは、約一〇分後だろうか。
二~三分程で全員の乗車が完了し、先に出発した二年二組のバスを追いかけるようにして、カナタたちを乗せた二年三組のバスも出発した。
**********
七西中から約十分で、すべてのバスが目的地の「ある施設」に到着した。カナタがバスを降りて、開口一番に飛び出したのは困惑の声だった。
「何故に……ナナアリ?」
彼の言う「ナナアリ」とは、「七王子アリーナ」という市が運営する総合体育館のことである。
カナタは、頭の中に「?」を浮かべながら、前を歩く生徒たちに続いて、この体育館で一番大きい、メインアリーナへと足を運んだ。
だが、一年生全クラス、二年生と三年生がそれぞれ四〜六組の生徒がホール内に入ったところで後ろにいた生徒たちは止められ、二階の客席へと案内された。七西中の全校生徒は約六三〇人。余裕で一階部分に収容できるはずなのに、なぜしないのかという疑問が、カナタの中にはあった。
まあいいやとそのことは一旦忘れて中に入ると、メインアリーナは暗闇に包まれていた。外の光を取り入れる窓も、今日ばかりは完全に閉じている。懐中電灯を持った教職員たちが生徒を誘導しているのが見える。カナタも他の生徒と同様、誘導されるがままに席に着いた。
すると、横から声をかけられた。暗いためか顔はよく見えない。
「なぁカナタ。これから何が始まるんだ?」
「その声、隣いるのはエイタか。……ん〜流石に俺も分からない。なにかサプライズ的なことかなとは思うけど……」
────まあ『バトル・ロワイアル』が始まることはないでしょ。
「だよなぁ。この場にいる誰も知らなそうだし、当然か」
よく耳を澄ませると、周囲からも困惑の声が聞こえてくる。
するとその時、メインアリーナのドアが全て閉じられたため、アリーナ内には文字通りの暗闇が訪れ、そこに響く生徒たちの声は一層強まった。
それから約五秒後、突如としてアリーナ最奥の照明が一つだけ、まるでスポットライトのように点灯、下にはステージらしきものがあり、さらにその上に初老の男性が立っていた
「なぁ、あれ誰だ?」
エイタがカナタに再び声をかけた。
「あの顔は確か……あ、そう市長」
照明の光に照らされた男性は大きく息を吸い、自身の前に立てられたマイクに向かって口を開く。
「えー、七王子西中学校の皆さんおはようございます。市長の柿窪です」
「お、カナタ当たりじゃん」
「えー、皆さんは先日、校内に侵入した不審者によって、文化祭を台無しにされるという悲しい出来事に遭われました。そこで、我々市は皆さんにある『プレゼント』を、クラウドファンディングを活用して用意させていただきました。それでは、続きは教頭先生、お願いします」
そうして、市長の柿窪と入れ替わるようにして教頭が壇上に上がり、マイクに向かって口を開いた。
「聞いてください。七西ティーチャーズで、NN-rock」
はじめに聞こえたのは、シンセサイザーの音。校歌のAメロの部分がゆっくりと、そして滑らかに演奏され、今度はエレキギターを弾く音が響く。その瞬間、照明が点灯して舞台が一気に明るくなると、いつの間にか七西中の教師たちで構成されたバンドがそこにいた。
ドラムとベースの音、そして生徒たちの、歓声がアリーナ内に響きわたる。
「七西中文化祭、やり直しだぁ!」
ボーカル(?)である教頭の、六〇代らしからぬ声量での宣言で、客席の熱狂は最高潮。特別に張られたホリゾント幕の鮮やかな光も、それをさらに高めている。
「ねぇ嘘でしょwww鬼怒川wwwドラムだしwwwね、カエデちゃん」
「ありゃ、マジじゃん。ギャップすっご」
チハヤが腹を抱えながら話しかけた隣の女子生徒の名は、忽那カエデ。チハヤの親友かつ同級生であり、普段は素行の悪さが目立つ生徒である。
もうすぐ歌が始まろうというその時、新任の音楽教師の女性、粋川アカリが教頭と入れ替わるようにしてセンターに立ち、次の瞬間にも彼女は美しい声で歌い始めた。
世界の美しさ、友情、青春というキーワードが歌詞からは連想される。それらをギター、ベース、ドラム、キーボードの、勢いがあるもどこか心地よい音色が彩っていく。サビに差し掛かる頃には、男も女も、生徒も教員も、先輩も後輩も、陰キャも陽キャもひっくるめた全員が演奏に夢中になっていた。
二分間、アリーナを熱狂の渦に包み込んだNN-rockにも、終わりの時がやってきた。
『ありがとう! みんな、これから楽しんで!』
その掛け声でアリーナ内は再び暗闇に包まれた。だが五秒後には点灯し、なぜ、巨大なアリーナに全校生徒約七〇〇人を収容できなかったのか、その理由が明かされた。
「え、あれは……海底カフェ!?」
カナタを含む数多くの生徒の目に入ったのは、あの日破壊されたはずの、各学級の出し物たち。幸運にも、あの事件から生き残っていたものが壁沿いに設置されていた。だが当然ながら、破壊されたクラスのものはそこにはなかった。
まさかの光景に、生徒たちの興奮冷めやらぬ中、一人の教師が拡声器で指示を出し始めた。
『いきなりですが、あと二〇分で親御さんと近くの小学校・幼稚園の皆さんが入場されます。模擬店とゲームコーナーの担当の人は、速やかに準備を行ってください』
「はい? どゆこと?」
「カナタ……」
右後ろ、カナタより一段上の席からビスケの声が聞こえた。
「だいじょぶ、言いたいことも考えてることもきっと同じだから。っていうかそこにいたんだ」
その後、担任の曽根崎ともう一人の教師に先導され、半数は一階の自分たちのブースまで、もう半数は外に設けられた調理スペースへと、文化祭当日の担当別に案内された。カナタたちの班は、もちろん室内のブース担当だ。
海底カフェが設置された場所に到着すると、曽根崎から何をすればいいかの説明を受けた。文化祭当日と同じ事をすればいいとのことらしい。
それを了承した彼らはエプロンを身につけ、やる気と自信に満ちた顔つきになった。
「なあなあ、みんなで円陣組まね?」
エイタが提案してきた。
「おっ、いいねそれ」
「折角だし、気合い入れようぜ」
最初に承諾したカナタとビスケを筆頭に、その場にいた一五人余りの担当全員が賛成、すぐに円陣を組んだ。
「で、誰が掛け声する?」
ビスケが聞いた。
「う~ん……やっぱエイタでしょ! クラスの中心みたいなもんだしさ!」
カナタがエイタを推薦した。
「おっ、じゃあ俺、行きます! ……復活した海底カフェ、絶対成功させるぞ!!!!!」
「「「「「「「「「「「「おー!!!!!」」」」」」」」」」」」」
全員が右足を前に出し、仲間同士の団結は一段と深まった。
**********
「いらっしゃいませ! 席へどうぞ!!」
約二〇分後、そんな活気のある言葉が飛び交う空間に、アリーナは変化した。
「いらっしゃい。何食べる? みんな」
カナタが接客している「みんな」とは、言わずもがな、セルアたちも含めた春晴家の面々だ。
「おいおい、そこは『何になさいますか』だろ」
「まあまあ、あなた。えーとじゃあ……」
「こっからここまで全部ください」
タイチがメニュー表を上から下へ指でなぞりながら言い、カナタはそれを苦笑いを浮かべて聞いた。
「大富豪ごっこやめて」
「実際金持ちだぞ? 我が家は」
「そうだけど……はい承知しました」
「待て待て待て冗談だよ。一回言ってみたかったんだ」
「なんだ。で、結局何にすんの?」
「クラゲまんを六つ。一つは持ち帰りで」
カナタは父の注文を復唱しながらメモにとっている最中、一つ気づいたことを口に出した。
「マキナ、来なかったんだね」
「ああ。試験勉強したいって言ったからね」
セルアが答える。
「なるほど、勤勉だねぇ」
「あ、すまん。あとブルーハワイソーダを五つと、カメロンパンを一つ持ち帰りで」
「注文追加了解。しばしお待ちを〜」
そう言ってカナタはカウンターに注文伝票を渡しに行き、渡し終わると再び両親たちの座る席に戻った。
「それでさそれでさ、一個聞きたいんだけど、母さんと父さんはこのこと知ってたの?」
「あぁ、文化祭をやり直すってことなら、二日前にメールが送られてきて、生徒たちには内緒でってことだったから……」
サユコがカナタの問いに対して答えた。
「そういうことか〜」
「ちなみに俺は昨日の夜まで、こいつらは今朝まで知らなかったぞ!」
タイチは顎でセルアたちを指して言った。
「ふーん……」
その時、カウンターの方から、誰かの張り上げた声がカナタの耳に入った。
「春晴ェ! 三番テーブルでお客さん待ってるぞ!」
それは、クラス随一の熱血漢で他人にも自分にもストイックな生徒、寿イオリの声だった。
「ごめんイオリ! 今行く!」
そう言って、カナタは駆け出していった。
**********
「あ〜、終わったなぁ」
そう言って、カナタは大きく伸びをする。
文化祭が再び始まってから、早一時間と三〇分。カナタたち六班のメンバーはシフトを終え、エプロンを脱いで文化祭をエンジョイしようと歩き出していた。
「どこ行くどこ行く?」
エイタが自分以外の五人に聞く。
「お化け屋敷とか良くない? 三年五組の」
アカネが返答した。
「それもいいけど、俺はちょっとお腹空いたし、何か食べたいな」
「右に同じく……」
「確かに、先にメシにするってのもアリだな…… 柴谷さん、えーっと……ワッツドゥーユーウオントトゥードゥ?」
「Um…… I want to eat something」
「イートってことはメシか! というと……なんだけっけ?」
「What do you want to eat? だね、この場合」
「さすがカナタ」
「What menu do you have?」
「ああそっか、Fried chicken, French fries, yakitori, takoyaki……は保健所の指導入ったぽいからnothingで……Gyoza, churros, shaved ice, that's it. こんくらい」
「Okay. Um…… I want to eat shaved ice.」
「かき氷だってさ」
「よーし、じゃあそこ行くか!」
先程までと同様に、エイタを先頭として、二年三組六班の面々は歩き始めた。
**********
「うぅ……頭痛い……」
カナタ、エイタ、ビスケの三人は揃って頭をさすっていた。
「もう。早食い対決なんてするから」
「ゆっくり食べて良かった……」
カナタは深呼吸をして息を整え、痛みを我慢しつつ口を開いた。
「それで、次何する?」
「今度こそお化け屋敷に!」
間髪入れずにアカネが答えた。
「じゃあそこにしよっか」
今度はカナタを先頭に、六人は歩き始めた。
その道中、班長は口を開いた。
「お化け屋敷、かぁ……」
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「人多」
ビスケがそう口にしたように、三年五組のお化け屋敷がある大会議室の前には、長蛇の列ができていた。
「まさか、ここまでとは思わなかったなぁ」
「こ……こんなに多いなら……」
班長の震えた声を耳にした五人は、彼のいるほうへ振り向いた。
「いっそのこと他のとこに行きましょう。それに……怖いし……」
「班長……お前……」
エイタが班長のほうへ歩み寄った。その様子を目にした班長は怯えている様子だ。
────どうしよっ……協調性の欠片もないこと言ったから怒られ……
「ビビってんのか」
「はっ、ひゃい!」
「そうか……それなら安心しろ。俺らがついてる」
「────へっ」
信じられない、とでも言いたげな目の上に涙を浮かべている彼は、ゆっくりと顔を上げた。
「だから大丈夫だって言ってんの。よく考えてみろよ。この六人だったら、何とかなりそうじゃね?」
エイタは屈託のない笑顔を浮かべた。そして、班長こと東あずまマサルの目には、その笑顔が何よりもかっこよく映った。
「さ、決心ついたなら並びましょうや」
カナタ達が列に並んでから約三分、お化け屋敷から二人の女子生徒が飛び出してきた。一人はひどく息を切らし、その場に両手と両膝をついた。
「大丈夫……? って、チハヤじゃん」
「あ゛ぁ゛もう。怖すぎだって……」
「ほらフユちゃん、しっかり立ちなって……」
チハヤを介抱するカエデの姿に、カナタは覚えがあった。
「あの、もしかして、あなたが忽那カエデさんですか? チハヤから話をいろいろと聞いてます」
「え? ああそうだ。私が七王子の女番長、忽那カエデ様ご本人よ!」
「おぉ~これまたすごい肩書をお持ちで…」
「ちなみに、今日で番長になってちょうど三か月」
チハヤがカエデのことについて補足したその直後。
その時だった、耳をつんざくほどの悲鳴がお化け屋敷の中から聞こえたのは。その声はどんどん大きくなってきており、こちらに近づいて来ている感じがする。
そして次の瞬間にはその声の主が出口から勢いよく飛び出してきた。その正体はカナタたちのクラスの熱血漢、寿イオリだった。
イオリは出てきてすぐさまバランスを崩し、カエデの上にあわやその巨体がのしかかろうとしたその時、
「うりゃあっ!」
カエデはとても女子中学生とは思えない力強さの回転蹴りを、寿イオリの巨体にくらわせ、一メートル弱、吹き飛ばした。
「いっ痛つっ」
「おいイオ、情けねぇぞ」
カエデは振り上げた足を下ろしてそう言った。
「だってカエデぇ! 怖いもんは怖いんだよぉ!」
「イオリの弱い姿、はじめてみたかも。っていうか二人はどんな関係なの? イオにカエデに呼び合っちゃってさ」
カナタは普段はストイックで力強い彼の姿にギャップを感じ、少々ニヤけながら聞いた。
「こいつとは小学校からの付き合いで、つい半年前まで最強のヤンキーコンビとして多摩地域の不良界で有名になってんだ。だよねぇ、お化け如きにビビってる寿イオリくぅーん?」
「くっ……面目ねぇ……」
イオリは立ち上がり、これからお化け屋敷に挑もうとしている。カナタらの班を指さして口を開く。
「お前ら気をつけろよ。先輩たちは『ガチ』だからな」
「ひっ、やっぱ……やめようかな……」
「大丈夫大丈夫。イオが極端にビビりなだけだから」
「そうそう。イオリが極端にビビりなだけだって」
────やばい。そうは言ったもののめっちゃ不安になってきた~……
それから約五分後、とうとうカナタ達のグループの番になった。
「どうぞお進みください」
受付の先輩の声に案内されて、一行は暗闇に包まれたお化け屋敷に足を踏み入れた。
「暗っ、寒っ」
全員が入り切った直後に入口の扉は閉められ、真の意味での暗闇が姿を現した。
「ヒッ……ここここ怖い!!!」
「お、落ち着けよ班長……こっちまで怖くなってきただろ……?」
彼らは恐る恐る前へ進んでゆく。すると、目の前に井戸が見えた。
「カ、カナタこれって……」
「う、うん……貞子の……」
井戸の中から、長い髪の女が姿を現した。とても人が演じているとは思えない程、まるで本物の怪異のような恐怖を全身で感じ取った彼らは叫ばざるを得なかった。
「「「「「で、出たー!!!!!!!!!!!!」」」」」
その瞬間、全員は一目散に走りだした。
「誰かやっつけてー! もうこの際バケモンぶつけてもいいからさぁ!!」
思わず、カナタは恐怖で発狂した。
最初の幽霊で恐怖して、ほかの怖いものたちには目もくれずに逃げる最中、班長ことマサルは恐怖のあまり失神してしまった。
「あ! 班長が倒れた!」
「よし! 担ぐぞ! 俺が頭持つからカナタは足持って! 女子二人は先行ってて!」
「え? 俺!?」
「わ、分かった! 行くよ、柴谷さん!」
そうして、彼らはお化け屋敷から退散したのだった。
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六人はお化け屋敷から出て、近くのベンチに座って休んでいた。
「はい、水」
「あ、ありがとうございます……」
マサルは、ビスケに金券を渡して買ってきてもらったペットボトルの水を流し込んだ。
「今になって考えてみると……なんで俺らはあっこまでビビってたんだろ」
「確かに。黒髪ロングの女の幽霊なんてベタもベッタベタなとこだしね」
そのとき、チハヤの明るい声が遠くから近づいてきた。
「あ、いたいた!」
「どしたのチハヤ」
カナタに用件を聞かれた途端に、チハヤは深々と頭を下げた。
「私たちのクラス展示、見て行ってください! 鬼怒川が客連れて来いってうるさくて……」
「あぁ~、なんだそんなことか。みんな~今度は一組のとこ行くよ」
こうして今度は、一組のクラス展示や他のクラスの探求発表が行われている、もう一つの大会議室に移動を開始した。
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「結構しっかりしてたな。SDGsの研究」
「わかる。そこ取り上げるんだーって感じあったよな」
「うん。おかげで今までぼんやりとしか知らなかった事が、しっかり理解できた気がする」
「I was very surprised to see that the explanations were written in English as well.」
「え? なんて?」
「英語でも書いてあったのがびっくりしたんだってさ」
「あ~確かに。こういうのって日本語以外で書くことないもんな」
その後も、彼らは文化祭を楽しみ続けた。射的、ボーリング、カジノといったゲームをしたり、唐揚げやチュロスを食べたりと、それらは彼らにとって最高の思い出となるものだろう。
そんな楽しい時間を過ごす最中、唐突に館内放送が始まった。
『これから、演劇部は劇の準備を行います。部員は至急、特設ステージの下手側に集まってください』
「……と、いうことで、行ってきます!」
カナタ自身も初めて耳にした、という面持ちで舞台裏まで走って行った。
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「春晴、到着しました!」
そこにはすでにほとんどの演劇部員がいた。
「よし、これで全員だね……」
メンバーの顔を一人ずつ見渡しながら言ったカナメの目には、大粒の涙が浮かんでいた。
「部長……? どうしたんですか?」
そう声をかけたのは、ブルーを演じたメガネの男子生徒。
「いや……その……あの時滅茶苦茶に破壊された劇がこうしてもう一回できるのが、すごいうれしくて……それで……」
カナメは涙を腕で拭いて、話をつづけた。
「それで、準備を始める前に一つか二つ言っておきたいことがあるんだけど……カナタ君レッドできる?」
「へっ……? 俺が……レッド役を……?」
「そう。オーディションでレッドを希望したのは君と彼だけだし、この中で誰よりもゴニンジャーにハマってくれてた。LINEで感想送ってくれてたよね」
「いや……まあそうですけど……スバルがやったことを俺が? いやいや、ダメですって。あいつに悪いし、俺がやったところで劣化版に……」
その時だ、まとまって話し合っていた彼らの後ろから声が聞こえたのは。
「お困りのようだね」
その声は本来今は入院していて聞こえるはずのない彼の声だった。それに驚いた一同は振り向いた。
「スバル! 何でここに?」
「七西中の文化祭をナナアリでやってるって母から聞いて、こっそり見に来たんだ。それで演劇部に顔を出そうと思ったら、この話をしててね」
「そっか……あ、でも寝てないで大丈夫?」
「大丈夫だと思うよ。お医者様も今週末で退院って言ってくれてるし。それで、本題だけど、カナタは本当にレッドの役をやるんだね?」
「いや……正直言って悩んでるんだ。セリフも完璧じゃないし……失敗するのがめっちゃ怖い……」
「────そっか。でも大丈夫。僕がこれから開演までの一時間でみっちりレクチャーするから」
「ホント!?」
「ああ」
「じゃあ、よろしくお願いします!」
カナタが頭を下げ、少しいい雰囲気になったところで、カナメが口を開いた。
「あ、あと一ついい? 例のハゲ教頭のくだり、隣の中学の人から苦情が来たのでカットします」
その言葉は、部の空気を確実に和ませた。
こうして、開演に向けての準備が始まった。スピーカーやマイクといった音響機器をセッティングし、二階の観客席からスポットライトを、舞台前方ではフットライトの調整・セッティングをそれぞれ完了した。問題のカナタだが、スバルの演技指導の甲斐あって、元々スバルがやっていた演技と見劣りしないものになった。
時はすでに開演二分前。役者陣+部長と副部長、そしてスバルで円陣を組むことになったようだ。
「それじゃあ本番、絶対成功させましょう! 演劇部~ファイッ」
「「「「「「「「「オー!!!」」」」」」」」」
この劇では、まず最初に怪人が出てきて、そのすぐ後に変身前のヒーローが出てくるので、カナタたちの登場は少し遅れるのだ。
だが遅れる、と言ってもほんの三〇秒ほど。彼らの出番はすぐにやってきた。
客席では、両親、友人、そして異世界からやってきた同居人が、多くの観客に混ざって舞台を見守っている。
「よし……行ってきます」
カナタは、スポットライトの輝く舞台に、一歩を踏み出した。




