↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/30

2-13 お見舞い

 ここは、七王子医療センター。そこにある病室の一つ、ドア横に「宮川昴一」と書かれている部屋に、カナタは入っていった。

「調子はいかがですかー『コウイチさん』」

「あ、カナタ。来てくれたんだ」

 ここは宮川昴一の部屋のはずだが、なぜかそこにいたのは、治療を終えて意識を取り戻した荒牧スバルだった。きっと、有名人である事を配慮されて、偽名を使わせてもらえたのだろう。

「冗談はさておき、お前が無事でほんと安心したよ。一時はどうなることかと心配で…」

「そうだよね。心配かけさせちゃってごめん……あ、一応聞くけど、文化祭って……」

「中止。その上、不審者が持ってた爆弾で自爆して校舎半壊。プレハブ校舎建設とか、生徒たちの心のケアとかで一週間休校になっちゃった」

 カナタは、先日マコトに「他人に今回の事件を説明する時はこう言ってくれ」との指示を守って、少々ぼかしと改変を加えた内容で話した。

「────そうか……相当にヤバい事が起きてたんだな。で・す・が、今の僕にとって一番ヤバいのは……」

「ヤバいのは?」

「この入院で向こう数週間の仕事が全部消え失せたこと……」

「それは最悪……まあ元気出して! お土産持ってきたからさ!」

 そう言ってカナタは持っていた袋の中から箱を取り出した。

「これは?」

「いいから、開けてみて」

 箱を開くと、そこには「happy birthday」と書かれた小さな紙と、丁寧にラッピングされた一枚のトレーディングカードが入っていた。今日、七月一三日は彼の誕生日だったのだ。

「これって……」

「そう『爆強ホワイトベアー』のSSRカード。スバル、ずっと欲しがってたでしょ?」

 実は、彼はああ見えてカード集めが趣味なのである。

「そう……だけど、一体どこで手に入れたんだ? 排出率〇.〇五%だぞ……」

「不動台の、うちの近くのコンビニに、一パックだけ残ってるのを偶然見つけて、運試しのつもりで買ったら……ね。『余り物には福がある』ってやつ」

「すごいラッキーだ………ありがとう。大事にするよ」

「おう! 是非ともそうしちゃってくれ!」

 二人がにこやかに笑い合っていると、遠くから誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。その足音は「宮川昴一の部屋」の前で止まり、次の瞬間には扉が勢いよく開けられた。

「生きてますかーー?!」

 白い髪を揺らしながら病室に入ってきたのはチハヤだった。純白髪のポニーテールは崩さず、カーキ色のサロペット姿で登場だ。

「あ、チハヤ。僕はもう大丈夫だから、安心して」

「それなら良かった~……」

 その瞬間、彼女は体に張り詰めていた力が一気に抜けたように、椅子に座り込んだ。

「ごめん、エレベーター止まってて、階段を全力疾走で上がってきたから疲れちゃって」

「それは大変だったね。あ、水が冷蔵庫の中にあるから、二人とも飲んでいいよ」

「マジナイス、気が効くね〜」

「ではありがたく……」

 チハヤは水を一本取った後、ふとある事を思いつき、もう一本水を取った。

「ねぇ、これ、みんなで乾杯しない? ほら、今日スバル誕生日じゃん。やろ、なんちゃって誕生日パーティー」

「確かに。ケーキこそ無いし、これもただの水だけど、気分だけなら味わえるかも」

「そうだね。じゃあいただこう!」

 スバルが水を取った後は、カナタが乾杯前の言葉を言う運びになった。

「えー、それでは、国民的名子役荒牧スバルさんの誕生日をここに祝しまして、乾杯!」

「「乾杯!!」」

 刹那、三人はそれを喉に流し込んだ。

「────やっぱりケーキほしい」

 チハヤが呟いた。

「コンビニ下にあるし、俺買ってこようか? お金頂戴」

「頼んだ」

 差し出されたカナタの右手に、彼女はなけなしの千円札乗せた。

 そうしてカナタは走り出す。せっかくの記念日に、ショートケーキを買うために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。