2-13 お見舞い
ここは、七王子医療センター。そこにある病室の一つ、ドア横に「宮川昴一」と書かれている部屋に、カナタは入っていった。
「調子はいかがですかー『コウイチさん』」
「あ、カナタ。来てくれたんだ」
ここは宮川昴一の部屋のはずだが、なぜかそこにいたのは、治療を終えて意識を取り戻した荒牧スバルだった。きっと、有名人である事を配慮されて、偽名を使わせてもらえたのだろう。
「冗談はさておき、お前が無事でほんと安心したよ。一時はどうなることかと心配で…」
「そうだよね。心配かけさせちゃってごめん……あ、一応聞くけど、文化祭って……」
「中止。その上、不審者が持ってた爆弾で自爆して校舎半壊。プレハブ校舎建設とか、生徒たちの心のケアとかで一週間休校になっちゃった」
カナタは、先日マコトに「他人に今回の事件を説明する時はこう言ってくれ」との指示を守って、少々ぼかしと改変を加えた内容で話した。
「────そうか……相当にヤバい事が起きてたんだな。で・す・が、今の僕にとって一番ヤバいのは……」
「ヤバいのは?」
「この入院で向こう数週間の仕事が全部消え失せたこと……」
「それは最悪……まあ元気出して! お土産持ってきたからさ!」
そう言ってカナタは持っていた袋の中から箱を取り出した。
「これは?」
「いいから、開けてみて」
箱を開くと、そこには「happy birthday」と書かれた小さな紙と、丁寧にラッピングされた一枚のトレーディングカードが入っていた。今日、七月一三日は彼の誕生日だったのだ。
「これって……」
「そう『爆強ホワイトベアー』のSSRカード。スバル、ずっと欲しがってたでしょ?」
実は、彼はああ見えてカード集めが趣味なのである。
「そう……だけど、一体どこで手に入れたんだ? 排出率〇.〇五%だぞ……」
「不動台の、うちの近くのコンビニに、一パックだけ残ってるのを偶然見つけて、運試しのつもりで買ったら……ね。『余り物には福がある』ってやつ」
「すごいラッキーだ………ありがとう。大事にするよ」
「おう! 是非ともそうしちゃってくれ!」
二人がにこやかに笑い合っていると、遠くから誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。その足音は「宮川昴一の部屋」の前で止まり、次の瞬間には扉が勢いよく開けられた。
「生きてますかーー?!」
白い髪を揺らしながら病室に入ってきたのはチハヤだった。純白髪のポニーテールは崩さず、カーキ色のサロペット姿で登場だ。
「あ、チハヤ。僕はもう大丈夫だから、安心して」
「それなら良かった~……」
その瞬間、彼女は体に張り詰めていた力が一気に抜けたように、椅子に座り込んだ。
「ごめん、エレベーター止まってて、階段を全力疾走で上がってきたから疲れちゃって」
「それは大変だったね。あ、水が冷蔵庫の中にあるから、二人とも飲んでいいよ」
「マジナイス、気が効くね〜」
「ではありがたく……」
チハヤは水を一本取った後、ふとある事を思いつき、もう一本水を取った。
「ねぇ、これ、みんなで乾杯しない? ほら、今日スバル誕生日じゃん。やろ、なんちゃって誕生日パーティー」
「確かに。ケーキこそ無いし、これもただの水だけど、気分だけなら味わえるかも」
「そうだね。じゃあいただこう!」
スバルが水を取った後は、カナタが乾杯前の言葉を言う運びになった。
「えー、それでは、国民的名子役荒牧スバルさんの誕生日をここに祝しまして、乾杯!」
「「乾杯!!」」
刹那、三人はそれを喉に流し込んだ。
「────やっぱりケーキほしい」
チハヤが呟いた。
「コンビニ下にあるし、俺買ってこようか? お金頂戴」
「頼んだ」
差し出されたカナタの右手に、彼女はなけなしの千円札乗せた。
そうしてカナタは走り出す。せっかくの記念日に、ショートケーキを買うために。




