2-11 怪人・決着・国家機関
「魔王様、ゴニンジャー共を連れてきた世界で、新たな発見があった事をここに報告いたします」
文化祭襲撃の二週間前、デイノケイルスは魔王の前に跪いていた。
「詳しく」
「あちらの世界で活動していた悪人たちの組織から『デーモンコア』なる物を奪取致しました」
デイノケイルスの部下のモンスターが持っていたアタッシュケースを開けると、そこには赤黒く輝く球状の物質があった。
「ほう、とても美しい……つい見とれてしまいそうだ」
「所持していた組織の幹部格に話しを聞いたところ、それは『デーモン怪人』という怪物を作り出す事ができるそうです」
「怪人……改造人間────いいじゃないか。スピカ、早急にこれを使えるようにしろ。期限は勇者共を襲撃する日までだ」
「お任せください、魔王様」
その時、ジョンソンが部屋に入ってきた。
「その必要は無い」
「聞こえてたのか?」
「俺は、俺自身の力でアイツらを倒したい……これは誰に何と言われても揺らぐことはない……」
「そうか、ならこうしよう。お前がピンチに陥った時、無条件にこれを使ってお前の超強化を行う。ダメか?」
「フン……勝手にしろ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ピエロの化け物……」
『それはデーモン怪人、我が魔王軍期待の新兵器。その実験対象にお前らは選ばれたということだ』
『末代まで誇っていいよ〜』
「このゆるいテンションと声、クラハも一緒なのか」
『お前らすぐ死ぬなよ? そいつはリミッターの外れた、いわば猛獣。すぐに死んだら実験もクソもないから、ガンバー』
クラハがそう言い終わると、ジョンソンの魔法石は粉々に砕け散った。
「カナタの言ってるクラハが一体どこの誰なのかは知らないけど、倒すわよ! みんな構えて!」
「分かってます!」
「おうよ」
『オーブリンク』「三度目の正直ってやつだね!」
変身したカナタと、戦闘モードに入ったマキナ、ゴルダン、ラーシャ。彼らは勇敢に、デーモン怪人と化したジョンソンに立ち向かっていくのだった。
**********
その頃、校舎の外で動きがあった。
南校舎一階、職員室と運動場を繋ぐドアの前に、ボディアーマーをスーツの上から装備した男と、サブマシンガンを持ったフル装備の特殊部隊員五人からなる集団がいた。
先頭に立っているスーツの男は、インカムに向かって喋り始めた。
「こちら釘原、南校舎一階、職員室前に待機完了。いつでも突入が可能だ」
通信の相手がいるのは、北校舎一階の端っこにある技術室の扉の前だった。そこには、釘原という男と同じように、スーツの上からボディアーマーを装着した女性と、同じ特殊部隊員五人がいた。
「月海了解。こちらもいつでも突入が可能」
学校の東側に位置する低層マンションの屋上には、狙撃銃を携えた特殊部隊員がいた。
「こちら狙撃班、配置完了」
「了解。突入班・作戦本部各位、これより釘原が三秒カウントしたら突入する」
男は深く息を吸い、口を開く。
三、二、一……!
「突入!」
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カナタたちの戦場は図書室に移っていた。
どうやら、怪人化していても自身の固有魔術は使えるようで、プロトデーモンはそれを巧みに使いながらコスモたちの行く手を阻んでいた。他にも、拳から生えた鋭利な鉤爪や風船型の爆弾も用いている。
「flamma Intersecare/交差する炎!」
プロトデーモンのいる場所が交点になるように、召喚された炎は十字に交差。確かに攻撃は当たったはずなのだが、彼は無傷。
「古式武闘術八番:上飛五連撃ぃ!」
続いてゴルダンが攻撃を仕掛けたが、
「ったく、攻撃効いてないじゃん!」
「ええ。視たところ、攻撃力、防御力等のステータスがまとめて大幅上昇しているようです」
その時、プロトデーモンの口が耳まで裂け、顔全体を覆うほどの大きな口の中に生えた無数の鋭い牙をむき出しにし、「……ダリワオ……」と呟いてこちらに向かってきた。
「な、なんか来たぁぁぁぁぁぁぁ!」
コスモは銃弾を三発撃ったが、やはり通用していない。
見かねたマキナは最前に立ち、魔法で一時的な空気の壁を作り出した。いわゆるバリアだ。勢いがついていたプロトデーモンはそれに弾かれて少しよろめいた。
そこの隙を突き、再び「flamma Intersecare/交差する炎」を発動、今度は少しだけ効いている様子だ。続いて「Fluctus aquae asperae/荒波の水流」という、水圧で相手を無力化する技を繰り出し、今度は「Rami penetrantes/貫く枝分かれ」という、地面から枝を生やして相手の体を突き刺す技、そのまた今度は「Tonitrus fremat!/雷よ鳴り響け」という、雷を召喚して相手を攻撃する技、そして最後に「Pressio soli et saxi/土岩石圧」という、召喚した岩石を四方八方から相手にぶつける技。
ここまでの五つの技を、マキナは連続して繰り出したのだ。
そしてこれらの技のコンボはプロトデーモンに大ダメージを与えることができた。
「すごい……これがあの『五遁魔術』……!」
カナタの言う五遁魔術とは、先ほどマキナがやったように、火の魔術、水の魔術、木の魔術、雷の魔術、土の魔術からなる五つの基礎魔術からそれぞれ好きな術を選び、自由に組み合わせ、コンボを決めることで成り立つ技である。また、この術はRpGゲームで言うところの所謂「序盤最強の武器」であり、魔術を用いての交戦歴が短い者には非常に重宝されている。と同時に、極めればかなりの効果が期待できる力技でもあるため、結局いろんな層から評価されている。
しかし、この魔術には一つの、命に関わる重大な欠点があるのだ。
マキナが五遁魔術を使用し終わった後、ゴルダンとコスモが再び戦いに参加、間合いを詰めながら攻撃を繰り出していった。
マキナは少しの間だけは攻撃を避け、追加の攻撃を行うことができていたが、ある時、よろけた勢いで尻もちをついて倒れてしまった。
「ソコドンコ」
今がチャンスと言わんばかりの無防備な状況を察知したプロトデーモンは、ものすごい勢いで彼女のもとへやってきた。非情にも、彼のもつ鋭利な鉤爪はマキナに振り下ろされようとしている。ゴルダンが助け出すには距離があって振り下ろされるまで間に合わない。彼女自身も体に力が入らず「ここまでね……」と諦めかけたその時、コスモが颯爽とマキナを抱きかかえて助け出した。
「大丈夫?」
「ん……だいじょ」
そこまで言いかけた時、マキナは唐突にせき込み、嗚咽を漏らし、終いには吐血してしまった。
「え? うそ……え?」
「カナタ君、診せてください」
ラーシャはマキナの喉元を少し抑えて口を開いた。
「これは……魔力の使い過ぎですね」
「魔力の使い過ぎ……? あっ、それって、」
カナタはアニメで語られていた知識を思い出した。
「はい、私たちの住む世界では、初等教育を終えるときに『魔泉』の水を飲むんです。すると、私たちの体の中に少量の魔力と魔素が取り込まれ、喉のあたりに魔素を魔力に変換する器官が作られて、『魔力に適応した』状態になります。なので、魔素が全く無いこの世界でも魔法は一応使用できる訳なんですが、セルアの『Defensio automatica/自動防御』やマキナちゃんの『五遁魔術』のような、魔力消費が激しい技を使用すると、蓄えていた魔力や魔素を使い果たしてしまい、再びそれらを作る為に体のエネルギーのほとんどは自動的にそちらにシフトされます。これらのことがあり、結果的に動けなくなってしまう、ということです」
「……つまり、『バッテリーが切れたから充電してね。無茶に使ったら壊れるよ』って、こと?」
カナタの例えの質問に対し、マキナの体を喉を中心に回復魔法で癒しながら、ラーシャは答える。
「まぁ、概ねは。あと、程度があまりにも重すぎると年単位の昏睡、脳死状態、最悪の場合は死、という可能性があります」
「え、やば! 何そのシステム、怖!」
ラーシャが一通り解説を終えたその時、ゴルダンがこちらに吹っ飛ばされてきた。
「!!ィイワヨ……イワヨ」
「ゴルダン! 大丈夫ですか?」
「ああ……なんとか……っ痛てぇ……」
コスモは立ち上がり、前へと歩いて行った。
「来いよ。俺が相手になる」
そう言った次の瞬間、彼の肩に手が置かれた。
「待て。僕も行かせてもらおうか」
その手はなんとセルアのものだった。
「セルア……! 起きたんだ」
「ああ。大大大復活だ」
「イナケマハレオ、トウヨコラクイ」
「ん? なんて? ……ま、いっか!」
「さあ準備はいいか? いくぞ、カナタ!!!」
「おう!」
二人はプロトデーモンの方へ駆け出した。迫りくる攻撃をひらりひらりと避け、二人はほぼ同じタイミングでプロトデーモンのもとへたどり着いた。
セルアはその一太刀でプロトデーモンの左腕を切り落とし、コスモは右肩に五発の弾丸を打ち込んだ。先ほどのマキナが使った電気の魔術が効いている証なのか、動きは少々鈍い。
「Flammas gere/炎をまとえ」
セルアはその魔法で剣に燃え盛る炎をまとわせ、プロトデーモンの体を斬って確実なダメージを与えていった。コスモも負けずと力強いパンチやキックを繰り出していった。
「ック……エラクモデレコ!」
プロトデーモンは部屋の中央から奥の壁ギリギリ辺りまで移動すると、そこそこ大きい銀色の何かをいくつか宙にばらまいた。
「これは……気をつけて! トラバサミ! 踏むと大怪我するよ!」
「忠告どうもっ! って、あ!」
なんと、宙に舞ったトラバサミの一つが、振り上げた剣に当たって食いついてしまったのだ。
「……まあこれも、悪くはないかな!」
セルアはまだ形を保っている本棚の側面に足をつき、本棚同士の間をぴょんぴょん飛びながらプロトデーモンのもとへ向かい、コスモもそれに続いた。
そして、プロトデーモンのもとへ再びたどり着いたセルアはトラバサミつきの剣をハンマーのように振り上げた。
「おらぁぁぁ!」
セルアは剣にくっついたトラバサミの部分で勢いよくプロトデーモンの頭をぶっ叩いた。
「よし、今だ!」
「サンキューセルア!」
『オーブリンク』
コスモはスライドを一〇回連続で引いた。
『チョウ・チョウ・チョウ・ヒッサツ!』
そして、迷いなくトリガーを引いた。
『ショット・フィニッシュ・ショット・フィーバー!!!』
銃口からは一〇の連続した光輝くエネルギーの弾が飛び出し、プロトデーモンの体を破壊しつくした。
それから約五秒、ラーシャは粉塵の中を自らの固有魔術を使って視ていた。だがそこには何の反応もない。
「……生体反応、完全に消滅しました!」
「てことはつまり?」
「うん。勝ったよ」
変身を解除したカナタは、微笑んで答えた。
「……いよっしゃあああああああ!」
ゴルダンがそう叫ぶと同時に、カナタはその場に座り込んだ。おそらく疲労だろう。
意識を少しだけ取り戻したマキナはうっすらと目を開け、その光景を見ていた。
────そっか。勝ったんだ…勝った……………さよなら、ジョン兄。
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一方その頃魔王城
「あー!!! 負けちゃった」
クラハが叫ぶと同時に、スピカは机に拳を叩きつけた。
「クソッ、なんでだ? この私の力作の、どこがダメだったというんだ!!!」
「まーまー、怒んないでよ。『ミスは大成功への一番の近道』ってゆーじゃん?」
「そうかもしれないけれどな! 許さないんだよ……私の、プライドが……」
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座り込んでいるカナタは疲れのせいか、戦いが終わって三分間、ずっとボーっとしていた。
────やばい……めっちゃだるい……
そう考えている裏では、「突入! 突入!」という声と、ラーシャたちの抵抗するような声がうっすら聞こえてくる。
「おい」
その時、後頭部に何かが当てられた感触がした。最初こそ何かはよく分からなかったが、それが銃口だと気づくのに時間はそれほどかからなかった。
「所持品をすべて出し、手を上げろ」
カナタはゴニンチェンジャーとハンカチ、スマホを床に置いて、指示通り手を上げると、後ろにいた男に力強く取り押さえられ、手錠をはめられた。
「七月一一日一四時一五分、七王子西中学校、制圧完了」




