2-8 文化祭襲撃
カナタとマキナ、そして傷を負ったスバルの三人は体育館を脱出し、出てすぐそばの駐車場にスバルを寝かせた。
「出血がひどい……カナタ、消毒と綺麗なタオルもらってきて」
マキナは持っていたハンカチで傷口を抑えながら指示を出し、その指示でカナタが駆け出して間もなく、少し離れた場所から声が聞こえた。
「スバちゃん!」
声の主である小太りな女性がマキナのところに駆け寄ってきた。
「彼のお母様ですか?」
マキナが聞いた。
「ええ、そうよ」
「かあ……さん……」
自分の母の姿に気づいたスバルがうっすらと目を開けて反応した。
「死にたくないなら喋らないで」
そこから二分ほど経った頃、カナタが保健室の養護教諭である柊と共に戻ってきた。
「はいこれガーゼと消毒と包帯と、あとゴム手袋」
「ありがとうございます」
「今、救急車呼んだからな」
近くにいた誰かの保護者であろう男性も、そう声をかけてくれた。
「あ、そっちもありがとうございます!」
マキナはゴム手袋をはめ、その上から手指を消毒し、腹部に刺さったナイフの固定を始めた。
────この間の公民館での救急講習、受けてて正解だったわね。
「ねぇマキナ、回復魔法でどうにかならないの?」
カナタがマキナの耳元で、小声で聞いた。
「悪いけど私が使える回復魔法だと、このレベルの怪我となると精々痛みを和らげるくらいね」
「そう……だったんだ」
その時、校舎の方から悲鳴とガラスが割れる音がした。それから間もなく、校舎の中から人々が一目散に逃げてきた。それと同時に、マキナは強大な邪悪な力を校舎の方から感じ取った。
「ごめん、ちょっと見てくる。あとお願い」
彼女はカナタに後を託し、校舎に向かっていった。
「え? あっ」
カナタはマキナのやっていたようにナイフの固定を進める。その時、柊がカナタを押し退けて、処置を代わった。
「何があったのかは分からないけど、春晴君も一応逃げなさい。後は私が」
「は、はい!」
カナタも逃げてきた人々に紛れて学校の敷地の外へ逃げた。
**********
その混乱の最中、ラーシャは一階のトイレに籠っていた。
────うぅ……何でこんなことに。まさかあのタコヤキとやらが原因ですかね……
彼女もまた、演劇部の音響係と同じように出店のたこ焼きで腹を下していた。回復魔法を使いながら痛みを和らげていると、大勢の急ぐような足音と悲鳴が聞こえてきた。
「何か、あったのでしょうか?」
一分後、痛みを我慢しながらトイレを出たラーシャは、逃げてくる人々の波に逆行して、誰かが暴れているのであろう、大きな音のする二階へ向かった。
そして、大きな音の発生場所である三年五組の教室に入ると、幼い子供を人質にとったゴニンブルーと対峙した。
「その子を今すぐに放しなさい」
ラーシャは魔法石から大きな、錫杖のような杖を召喚し、構えながら警告した。
その警告を聞き入れたのか、ゴニンブルーは子供を自らの後ろに放り投げ、ゴニンレッドと同じように剣を生成し、こちらへ向けて突進してきた。
ラーシャは杖でそれを受け止め、力いっぱい跳ね返すと、ゴニンブルーは段ボール製のピンボール台に突っ込み、ピンボール台はぐちゃぐちゃになってしまった。
「さあ、行きましょう!」
ゴニンブルーが動けないうちに、そう思ったラーシャは男の子を抱きかかえて教室を後にした。
**********
体育館では、ゴニンレッドVSセルア&ゴルダンの戦いが続いていた。
「なぁ、外でも何かあったみたいだぞ」
ゴルダンは外から聞こえてくる多くの悲鳴に反応した。
「そうみたいだな。ちょっと見てきてもいいか?」
「おう! ここは任せろ!」
セルアは体育館を後にした。
「さァて、派手にカマすか!」
ゴルダンは、ラーシャが杖を召喚したのと同じように、格闘技で使うオープンフィンガーグローブを召喚し、手に装備した。
ゴルダンはボクシングの構えをしながら、目を閉じて深呼吸をすると、天井近くまで跳ね上がり、ゴニンレッドの真上まで移動した。
「古式武闘術七番:上飛大殴撃!」
途端に彼の拳は巨大化し、その大きな拳でゴニンレッドを叩き潰した。衝撃で体育館の床に穴も開いてしまったようだ。
「どうだ?」
拳を元の大きさまで収縮させながら穴の中を覗き込んだ。そして、その覗き込んだ頭を殴るかのようにして、ゴニンレッドが穴から飛び出してきたが、ゴルダンは間一髪でそれを避けた。
「ダメだったか」
ゴニンレッドの怒りに満ちた佇まいをみて、ゴルダンは再び闘志を燃やすのだった。
**********
場面は再び校舎内に戻る。
「怖かったね。でももう大丈夫。もうすぐおうちに帰れるからね」
恐怖心で涙を流す男の子をなだめながら、ラーシャは廊下を全力疾走していた。階段のところまで着いた時、下からマキナが上ってきた。
「ラーシャ! ちょうどよかった、外に重症を負った人がいるの。治療してあげて」
「わかりました。後は任せます」
「後ってな────」
マキナが「に」を言い切る前に、廊下の向こうから斬撃が飛んできた。二人の目線の先にはゴニンブルーが歩いて来ている。
「なるほど、あいつの相手をすればいいわけね」
「はい、お願いします」
ラーシャはそう言うと階段を駆け下りて逃げて行き、マキナもまた、前述の二人と同じように杖を召喚して戦闘態勢に入った。
「Tonitrus fremat!/雷よ鳴り響け!」
そう唱えて杖を振ったが、何一つ魔法が出る気配はなかった。
「ウソ? なんで? って魔法石が無い!」
自分の首元を触って確認するも、そこにペンダントはなかった。
マキナが動揺している間に、ゴニンブルーは青いラインの入った拳銃型の変身アイテム兼武器の「ゴニンチェンジガン」を腰のホルスターから取り出し、彼女に照準を合わせて引き金を引いた。
相手が銃を持っていることは、『それ』が取り出された時には気づいていたものの、彼女は即座に体を動かすことができなかった。
銃口から放たれた光の玉のような銃弾は、とてつもない速さで迫ってくる。
マキナの頭と銃弾の距離、残り約五センチ。
ゴニンブルーの銃を目にしたマキナは、昨夜勉強しながら見た、少し昔の任侠映画のワンシーンを思い出していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それは、薄暗い事務所で組長と若い衆(健太)が、向かい合って話をしているシーンだ。
『健太、テメェよくもやってくれたな。『あの店には手を出さねぇ』って向こうのシマの奴らと取り決めを交わしたばっかりなのによぉ』
組長は机を力いっぱい叩き、再び口を開いた。
『やったことの重大さ分かってんのか!!!!』
委縮している健太は恐る恐る口を開いた。
『ですが組長、奴ら、俺たちの顔に泥を塗るような言葉を!』
『黙れ!!!』
怒り心頭の組長は机に置いてあった灰皿を健太の後ろの壁に投げた。
『いいか!? 今回ばかりは向こうも許してくれるそうだから俺も許すけどな、次テメェが何かしでかしたら……』
組長は拳銃を取り出し、銃口を健太の額に当てた。
『俺の拳銃が火ィ吹くぞ!!!』
二〇〇〇〇年代初頭の粗い画質だが、その迫力は今のものに引けを取らない。
「おぉ、怖っ」
どこか余裕そうなマキナは、ワークをカリカリと解き進めていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
────もしかして、チャカ……!? 本物?
そう思った次の瞬間には銃弾が発射され、すさまじい速さでこちらに向かっている。
────まずい、避けなきゃ死んじゃう!
だが思うように体はすぐには動かず、銃弾は文字通り「目と鼻の先」まで迫っていた。
ここまでか、と死を覚悟したマキナだったが、間一髪のところで銃弾が左右二つに割れ、それぞれ壁とガラス窓に着弾した。
既に弾が体に着弾しただろうに、痛みも何も感じなかったマキナは恐る恐る目を開け、横を見るとセルアが剣先を床につけて立っていた。
「油断するなよ」
そう、斬撃を飛ばして銃弾を左右二つに割れさせたのはセルアだったのだ。その証拠に壁の一部に斬ったような跡がついている。
「セルア……ごめん、私どこかで魔法石落としちゃったみたいで、それで……」
「分かった。なら下がっていろ。ここは僕が相手する」
その時、階段の上からイエローとピンクが下りてきて、下からグリーンが上ってきた。
────四対一か。だが、何人増えようとさほど脅威ではない!
「Flammas gere/炎をまとえ」
そう唱えると、セルアの剣の刃の部分が炎に包まれた。
「ハァァァァ……ハッ!」
長い溜めの後、所謂「ジャンプ回転切り」という技でゴニンブルーをスパッと斬った。斬られたゴニンブルーは、上半身と下半身が分離し、それぞれが剣の炎で燃えてチリとなって消滅した。
だが、セルアはある違和感を感じていた。
────なんだ?今の斬った感触は。まるで空気で膨らませた、訓練人形を斬った時みたいだ。
その時、二人は背後にゾッとするような気配を感じた。
まさかと思って振り返ってみると、そこにはさっき斬って倒したはずのゴニンブルーが立っていた。まるで忍者の「変わり身の術」だ。
「なるほど、そうきたか!」
**********
ほんの少し前、ラーシャは子供を学校から逃がした後、マキナに言われたように校舎の外で怪我人を探していた。だが敷地内にいた人はみんな逃げてしまったのか、辺りには誰もいない。
────怪我人も、みんなと一緒にどこかへ逃げたのでしょうか。
そう思ったラーシャは、近所を探そうと校門を出ようとしたが、そこにカナタが走って現れた。
「カナタ君!? なんでここに?」
「みんなが心配で様子を見に」
「そうだったんですね。それより、重傷を負った怪我人がいると聞きましたが、何か知っていることはありませんか?」
「スバルのこと? あいつならさっき救急車に乗って病院に行ったから、もう大丈夫だと思う」
「よかった……じゃあカナタくんも今すぐにここを離れて、とても危険です」
「わかった。頑張って」
「はい」
その時、大きな爆発音がして、校舎の二階辺りの壁に穴が開いた。
「まずいですね……」
そうつぶやいたラーシャは、急いで校舎の方へ戻っていくのだった。
カナタもラーシャの向かった方向とは逆方向に走りだした。
だが、校門を出て数一〇メートル走ったところで、ジャージのポケットからビー玉のようなものが落ち、それを拾い上げたカナタは絶句した。
「これって……マキナの……」
そう、彼が拾い上げたのはマキナの魔法石だったのだ。きっとスバルの傷口の応急処置をしていた時に、チェーンが外れて偶然ポケットに入ったのだろう。
────届けなきゃ
カナタはマキナに落とし物を届けるために、急いで来た道を戻るのだった。
**********
「皆さん、無事ですか!?」
ラーシャが校舎二階に戻ってきた。
「ああ、壁二枚ブチ抜いてここまで飛ばされたが、なんとか無事だ」
額から血を流しながら答えたゴルダンの視線の先には、壁に開いた大きな穴をバックにゴニンジャーが勢ぞろいしていた。
『────我ら五人そろって……ゴニンジャー……』
ビシッとかっこよくポーズは決まったが、ゴニンレッドの声にはテレビで見た時ほどの力強さは無かった。
『みんな、行くぞ』
ゴニンレッドがそう言うと、彼以外の四人の戦士が、セルアたちの方めがけて走ってきた。それを迎え撃つようにセルアは剣を横一文字に振ったが、ジャンプで呆気なくかわされてしまった。
こうして、ゴルダンvsゴニンイエロー&ゴニングリーン、ラーシャvsゴニンピンク、セルアvsゴニンレッド、マキナも持ち前の体術だけでゴニンブルーと応戦し、それぞれ、戦う構図となった。




