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2-7 『FIVE・HEROs』


「ごめん! 遅れた!」

 カナタが食べかけのカメロンパン片手に、体育館裏の扉から、ステージの下手側に入ってきた。

「あ、先輩! カナタ来ました」

 衣装を着てスタンバイしているチハヤが上手側の音響ブースにいるカナメに報告した。

「あ~よかった。とりあえずこっちまで来てくれる?」

「ふぁい、ふぁふぁりふぁひは!(はい、わかりました!)」

 カナタはカメロンパンの最後の一口を放り込んで小走りで向かった。

「カナタ君、返事は食べきってからでいいからね。それで、これ後教えられる?」

 カナメは一年生の部員に、音響機器の一種であるサンプラーの使い方を教えていた。

「あれ? 彼、先週入ったばかりの新入部員で、何も係にはついてなかったですよね?」

「実は、君以外の音響係の二人が、出店のたこ焼きが当たって早退したらしくて。カナタ君もいつまでたっても来ないし、急遽彼にやってもらおうかと……」

 カナメが事情を説明してくれた。

「マジすか。まぁ任せてください。音響係は二年目ですから」

「よし。じゃあ後は任せた」

 そう言ってカナメは、端っこの階段から観客席の方へ降りて行った。おそらく、二階部分で待機する照明係に確認を取りに行っているのだろう。

「それで君、名前は?」

「佐久間です」

「佐久間君ね、部長からどこまで教わった?」

「BGMとSEの入れ方切り方、音量の調整の仕方、どこにどの音源が入っているか、です」

 彼は指で一つ、二つ、と数えながら思い出した。

「全部教えてるじゃん」

 カナタは咳払いをして佐久間に聞く。

「どこか覚えられなかったところはある?」

「音源の入ってる場所がまだ覚えきれてないです」

「よっしゃ。じゃあ一緒に覚えようか」

 カナタは台本の裏に書いておいたメモを見ながら、佐久間に教えた。


 **********


 同じ頃、マキナを除く春晴家の五人は、体育館の観客席で開演を待ちわびていた。

「マキナちゃん、来ませんね……」

 ラーシャは心配そうな顔をしている。そこにマキナが走ってきた。

「みんなごめん! それより聞いて!」

「そんなに慌ててどうしたんだ?」

 セルアが問いかけた。

「ジョンソンが来てる!」

 その言葉を聞いて、セルアたち三人は驚きと絶望で目を見開いたが、タイチとサユコはキョトンとした顔だった。

「ジョンソンって誰なんだ?」

「ジョンソンは、魔王軍幹部で殺し屋。とても強い悪者で、俺たちと敵対している奴です」

 タイチの問いにゴルダンが答えた。

「でもなんでそんな人がここに……」

「おそらく、この世界に飛ばされた私たちを始末するための刺客、なんじゃないでしょうか」

 今度はサユコの問いにラーシャが答えた。

「そんな……」

「なあ、もしここで戦いなんてもんが始まったら……」

「はい。ここにいる人達全員、奴に殺されます」

「マジかぁ」

 タイチはおでこのあたりに手を当て、天を仰いだ。


 **********


 時刻は一三時ちょうど。体育館後部のドアと二階のカーテンは閉められ、客席は闇に包まれた。

 さあ劇の始まり始まり。宮崎カナメ演劇部長考案の劇に、しばしお付き合い願いたい。


まず最初に、舞台袖から悪役の衣装を着た男子生徒四人の戦闘員が現れた。

「ワーッハッハッハ! このステージは我々が占拠した! 今からここにいるお前らには死んでもらう! さあ行け! 戦闘員共!」

 とても熱のこもった演技で悪役を演じている。

「そこまでだ!」

 壁に取り付けられた古いスピーカーからスバルの声が聞こえてくると同時に緞帳が上がり始めた。上がりきると、舞台はスポットライトで照らされ、舞台中央に五人の男女が並んでいるのが見えた。

「出たな! 怪人武装集団『ワルイヤツラ』め! ここからは俺たちが相手だ! 行くぞみんな!」

 役になりきったスバルの掛け声で五人はブレスレットのついた腕を高く上げた。すると、舞台は暗転し、かっこいい音楽が流れ始め、それが流れ終わると舞台には五人の覆面ヒーローが並んでいた。


 それをカナタは舞台袖でカナメと佐久間、そしてチハヤとスバルとともに見ていた。

「やっぱスーツアクター方式にして正解でしたね」

 サンプラーを操作しているカナタが、カナメに小声で話しかけた。

「ああ。今考えても、あのBGMの間に着替えはどう考えても無茶だったよなぁ。一年がたくさん入ってくれて助かったよ。そのおかげで二・三年の演技慣れしている人員を、あっちにもって行けたんだから」

 佐久間の肩をポンポンと叩きながら、カナメも小声で返した。


「燃え上がれファイア!レッドヒーロー!」

「清い流れよ世界を潤せ!ブルーヒーロー!」

「正義の道に光あれ!イエローヒーロー!」

「気高き緑のご加護あれ!グリーンヒーロー!」

「可憐に蹴散らせ乙女の流儀!ピンクヒーロー!」

 スバルたち、それぞれの役者が舞台袖からマイクで声を当てた。

「我ら、人呼んで」


「「「「「ファイブ・ヒーローズ!!!!!」」」」」


 それぞれの戦士の乗りを経て、息っぴったりの掛け声とともにポーズが決まった。

「変身したな! やってしまえ戦闘員共!」

 悪役も戦闘員を仕向け、戦いが始まった。ブルー、イエロー、グリーン、ピンクは戦闘員と。レッドはメインの悪役と戦っている。

「ハァッ」「ヤッ」という掛け声の裏ではかっこいい音楽も流れ、迫力のある戦闘シーンを演出している。

「くぅぅ。こうなったら俺様の能力を使うしかないな。問題! 教頭の髪の毛は何本でしょうか?」

 レッドに追い詰められた悪役はクイズを出した。


 そしてそれを聞いた、下手側にいたチハヤは「遊園地のヒーローショーか」と、呟いた直後、思い出したように「なにそれ!? 人の髪の毛の本数なんてわかるわけないじゃん!」と、マイクでピンクヒーローに声を当てた。


「ここはあてずっぽうだ! 一万本!」

 レッドが答えた。

「ブブー! 正解は〇本!」

「おい、うちの学校の教頭はちゃんと髪の毛が生えているぞ!」

 イエローが反論した。

「誰もこの学校の教頭とは言ってない! 現に隣の学校の教頭はハゲているぞ!」

「ぬぅ、そう来たか」

 ここで一度、観客席の方に目をやってみよう。全員が「よくそんな台本通ったな」と言いたげな顔をしている。

「答えを外した人には罰ゲームだ! それ!」

 そう言うと、電気が流れる効果音とともにヒーローたちはしびれてしまった。

「今日はここまでにしといてやる。じゃあな!」

 悪役は逃げてしまった。

 変身解除の音とともに舞台は一度暗転し、スバルたちがステージに戻った。

「なんなんだあのクイズ。正解のしようがないじゃないか」

 レッドの男(演:荒牧スバル)が半ば呆れながら言った。

「ああ。クイズというのは5W1Hをしっかり示されない限り、好きなように答えを変えることができるからな」

 ブルーの男(演:メガネの部員)もレッドに同意した。


 その後、なんやかんやあって再び怪人と対峙することになり、五人は再び整列して変身、名乗りを経て最後の戦いが始まった。

 戦闘員をさっきよりも早いペースで続々と倒していき、あっという間に倒すべき相手は怪人一人になった。

「くっ、くそう。こうなったら問・・・」

 台本のとおりに怪人がクイズを出そうとしたその時、身長が一八〇センチはあるゴニンレッドのスーツを着た人間が舞台に入ってきた。

「ゴニンレッド!?」

 カナメは静かに驚いた。

「先輩、こんな展開台本にありました?」

 佐久間がカナタに聞いた。

「いやぁ、こんな展開はなかったはず……部長は何か知ってますか?」

 カナタはカナメに聞いた。

「知らない……というかあれショー用じゃないよね? 明らかに本物だよね? え、なにサプライズ?」

 独り言の多い部長に、カナタは呆れた目を向けた。

 舞台に出ていた生徒たちも困惑しているようだったが、全員「ショーマストゴーオン」の精神で劇を続けた。

 すると、ゴニンレッドは近くにいたレッドヒーローのスーツを着た生徒を力いっぱい蹴り飛ばした。

 蹴られた生徒は上手側にある音響ブースまで飛ばされ、その光景に観客席も騒然とした。

「うぅ……」

「大丈夫?」

 スバルが駆け寄り、ヘルメットを取ってやった。

 その時舞台では、演劇部顧問を含む男性教師二名がゴニンレッドのもとへ駆け寄り、職員室への同行を求めていたが、彼は聞く耳を全く持っておらず、二人をつかんで観客席へ投げ飛ばした。幸い観客のいた席には落ちなかったものの、パイプ椅子に打ち付けられ、椅子も倒れ、散らばってしまった。

 一人の観客が悲鳴を上げて逃げ出したのを皮切りに、周りにいた観客も逃げ始めた。

 セルアたちは助けに入ろうとしたが、座っていたのが後方の席だったのもあってか、前の席から押し寄せてくる観客に流されて体育館の外に追いやられてしまった。

「君たちも……早く逃げなさい……」

 投げ飛ばされた教師が声を絞り出して言った。

「おい。ゴニンレッドは、火川修司はそんなことをする人間じゃない。優しくて、情熱的で、すべての人の模範となるべき人間だ。なのに……そのイメージを、よくもお前は……!」

 カナメが舞台へ歩いて行こうとしたがそれをスバルが止めた。

「部長、下がっててください。こう見えて僕、剣道や柔道といった武術は、大体体得しています」

「そうか……でも、気をつけろよ!」

 そう言ってスバルは小道具の剣を持って一人立ち向かっていった。

「あなたのせいで劇がめちゃくちゃだ。一体どうしてくれるんだ!」

 スバルは、普段の穏やかな姿からは想像もできないような大きい声で怒鳴った。

 それにカチンときたのか、ゴニンレッドはスバルの顔めがけてパンチを繰り出したが、スバルはそれを避けた。続いて繰り出されたパンチも避け、スバルはかがんでゴニンレッドの腰を剣で力いっぱい叩いた。

 ゴニンレッドは少々ひるんだが、彼もまた剣を無から生成し、かかってこいと言わんばかりに手招きをした。

 そうして舞台上で、殺陣ではない本物の戦いが始まった。とても木製の剣vs金属製の剣とは思えないほど善戦した。だが無謀な戦いであることに変わりはなかった。スバルが大きく振りかぶったその一瞬の隙をゴニンレッドは突き、がら空きとなった彼の腹を、隠し持っていた小さなナイフで刺した。

「うぅっ……ぐっ……」

 スバルは剣を落とし、片膝をつき、両手で傷口を抑えた。

 ゴニンレッドはとどめを刺そうと剣を振り上げたが、そこに避難するのを待っていたカナタは

「やめろぉぉぉぉ!」

 と叫びながら、折りたたんだパイプ椅子を持って突進、それでゴニンレッドの頭を勢いよく殴った。

 ゴニンレッドを再びひるませることができたその時、天井を突き破ってゴルダンと彼に捕まったセルアとマキナが入ってきた。

「クソッずれた!」

「構わない。マキナはこの人を外へ運んで。カナタも一緒に逃げろ」

「────分かった。頑張って!」

 そう言って、スバルを抱えたマキナとともに体育館の外に逃げた。

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