2-5 文化祭
オーディションの日から時間は流れ、文化祭当日である七月一一日の朝、
────なんか心臓のあたりが痛いなぁ。
なんてことを思いながらカナタは起床し、朝食のホットサンドを口に突っ込み、自転車をかっ飛ばして学校へ向かった。
テレビでは、隣接する町で深夜に起こった三件の連続する殺人事件が繰り返し報道されていた。
ちょうど着いた頃、スーパーマーケットの二トントラックが、風船でアーチ状に飾り付けられた正門から出て行った。
中庭には複数の段ボールが積み上げられており、クラスの中で手伝い係に選ばれた一~三年生の生徒たちが搬入作業をしていた。手伝い係に選ばれていたカナタも、自転車を駐輪場に停めて、それに参加した。
炭酸水、りんご、水あめ、レンチンするタイプの肉まん、などの食材たちを二階の調理室に協力して運んでいく。「搬入も次で最後だ」そう思いながらカナタは中庭に戻ると、そこにはバナナとホワイトチョコとチョコスプレーのダンボールが置いてあった。
「こんなの買ったっけ?」
カナタが横にいるエイタとビスケに聞いた。
「いや、買った覚えないぞ」
エイタは否定した。
「きっとどこかのクラスが持って行き忘れたんだよ」
ビスケはそう予測した。すると、そんな会話をしている三人の後ろから声が聞こえた。
「それは自分が買いました」
三人はその声に反応してふり返った。
「鬼怒川先生」
カナタ達の後ろにいつの間にか立っていた、スーツ、メガネを一ミリの乱れすらなくぴっちりと着こなし、髪も七三分けできっちりと整えられているこの人物こそがチハヤのクラスの担任であり、彼女曰く「クソ教師」である鬼怒川イサオだったのだ。
「毎年、この時期にフィリピンの知り合いがバナナを大量に送ってきていましてね、今年の処理はどうしようかと困っていたらあなたたちのクラスからいい案が聞こえてきたんです」
「もしかして……」
「そう、その『もしかして』です。エイタ君の案はとても素晴らしいものでした。だがそれを想像でしかない『卑猥だ』という考えで却下してしまった。非常に勿体ない。大体、真っ先に『下品だ』という考えが浮かぶ人のほうがよっぽど下品な頭をしているんですから、堂々と売ってればいいんです。そもそもチンアナゴは水族館の人気者でしょう?」
イサオはメガネを右手の親指と人差し指を使って直し、軽く咳払いをして話を続ける。
「自分はバナナを効率よく処理できてwin、君たちはユニークな商品で儲けを増やして
win、農家の方は自分の作ったバナナが無駄にならずにwin。まさしくwin-win-win、ですよね。それでは、自分は駐車場の整備がありますので後はよろしくお願いします。あ、この件はあなた達の担任には伝えていますのでご安心を」
彼は終始冷静な口調で淡々と自論を述べ去っていった。
────あれは理詰めして生徒から反感買ってるタイプだな。でも……言うほど『クソ』感あるかな?
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八時三〇分、普段通り多くの生徒が登校してくる時間になった。カナタ達の教室は飾り付けがしてあるので、通学カバンは教材が置かれている空き教室に置くことになった。
朝礼や最終準備を済ませ一〇時、開祭式のために並んで体育館に向かった。校長の挨拶や来賓紹介等々を終えると、三年生と二年生の生徒と文化部の生徒は、模擬店や各種展示の持ち場に戻り、一年生と舞台発表をする有志の生徒は、体育館に残った。
体育館では彼らの発表が終われば午後からは演劇部、太鼓部、吹奏楽部の公演が予定されている。
カナタ達が体育館を後にしてから一〇分後、ついに保護者や近所の一般の人々が校内を回り始めた。しかし二年三組のブースには、昼飯時まではまだ時間があるので人はあまり来ない。来たとしてもクラスメイトの親数組のみ。他の人たちはゲームのブースに集中している。
「暇だなぁ……」
「それなぁ……」
「誰か来てくれないかなぁ……」
カナタ、エイタ、ビスケのいつもの三人はとても暇をしていた。
そんな時、校内放送がかかった。
『演劇部の生徒は至急体育館裏に集まって下さい。繰り返します・・・』
「あ、行ってくる」
「行ってら~」
エイタに見送られたカナタは駆け足で階段を降りて体育館裏に向かった。
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「何かあったんですか? 舞台準備までまだ時間あるはずですけど」
場所に到着したカナタは、そこに集まっている部員たちに聞いた。
「それが、これを見てくれ。防災倉庫の裏に隠してあった」
カナメの持っている背景が書かれていたであろう模造紙は白い塗料まみれになっていた。
「うそでしょ。いったい誰が……」
「それが分からないからみんなをここに呼んだんだ。それに部室に入れて、塗料を触れるのは部員だけだしね」
「まって、ちょっといい?」
そう言って手を挙げたのは副部長の阿武隈ヒサエだった。
「昨日の色塗りどこでやったっけ?」
「えーと、最後はここでやった」
チハヤが地面を指さした。
「確か、追加の仕上げのタイミングであたしがバケツひっくり返して、避難させたついでにここでそのまま」
「それで最後に帰ったのは誰?」
「僕とカナメ先輩が最後でしたね。机運ぶために、途中から駆り出されてたんで」
スバルが答えた。
「あの後これのこと覚えてた?」
「「あ」」
カナメとスバル、二人の口がそろった。
「ほら、やっぱり忘れてた。それにあそこよく見て」
ヒサエが顎でさしたのは、駐輪場のコンクリートの部分だ。
「猫の足跡」
「あ、ほんとだ」
ヒサエに言われてから、最初に見つけたのはカナタだった。
「つまり……犯人はネコ?」
チハヤがヒサエに聞く。
「昨日の夜は風も吹いてなかったし、ここもめったに人来ないからそうだと思ってる」
「でもなんで防災倉庫の裏に?」
今度はカナメが聞く。
「そこが謎なのよねぇ……」
うーん、と全員が首をかしげてしばし考えた。
「まぁ考えても仕方ない。残念だけど、この背景はもう使えないから、今回は背景なしでやろう。解散」
カナメがそう言うと部員たちはそれぞれの持ち場に帰っていった。
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「たっだいまー」
カナタが元気に教室のドアを開けるとその先の光景は想像を絶するものだった。
「なに……これ……」
見渡す限りの草原、ピンク色の空、わたあめのような雲、でっかいキノコ。まるでおとぎ話に出てくる不思議の国だ。
「ここ教室だよね?」
カナタが一歩足を踏み入れると教室のドアはピシャリと閉まり、以降開かなくなってしまった。
「え? うーそーでーしょー!!!!!!!!!!」




