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7話 向き不向き

挿絵(By みてみん)

<あらすじ>

ギャンブルで身を持ち崩した三十路女。目覚めると彼女は赤ん坊。そしてそこは異世界でした。

特別な力を授かるでもない彼女の異世界生活。前世から持ち越せたのは大工としての知識だけだった。

「今度こそ、わたしは自分の家を建てる!」


7


「そんな膨れないの。魔法に適性がある人は少ないのよ。お父さんだって使えないんだから」


マグダラはわたしの背中を撫でながら言った。それでも不満に変わりはない。だって、初めてだよ? 自分から教わりたいって頼んだの。それが見込み無しってあんまりだ。


「どうしても、むりなの?」

振り返ってマグダラを見上げると、彼女は言葉を選び「人にはね、向き不向きがあるの」と、優しく言った。その言い方が絶対に無理だという意味を解らせた。


試した手順はこうだ。マグダラが唱える言葉を復唱して、彼女が出した小指の爪ほどの光球を掌で受け取る。これだけ。

適性があればその球は暫く光ったままらしい。


「אבי, חנון אותי.」(アヴィ・ハネーニ)


わたしがそう唱えると、マグダラは満足そうに指先の光球を掌に乗せた。


パチンッ!


瞬間、それは弾け飛んだ。静電気みたいな音を立てて。光が持続するとかしないとか、そこまで行ってない。

詠唱がおかしかったのか?と思ってマグダラの顔を見ると、「あぁ、どうやら無理みたいね」と苦笑いしていた。


諦めきれず、何度も何度もせがんだ。


「אבי, חנון אותי.!」「אבי, חנון אותי.!」

発音だけは上手くなった気がする。でも何度やっても結果は同じだった。


「聖霊との相性の問題だからねぇ、無理な人は無理なのよ」


「クラリスはどうして治癒術が使いたいんだ?」

外から帰ったサムソンがサンダルを脱ぎながら言った。わたしは駆け寄り荷物を持った。彼はこの家の家長だ。この世界で家長は敬われる対象なのだ。本来なら前世の日本もそうなんだけど、その辺は緩かったし敬意も無かったんだろう。

でもここでは違う。そう躾けられたというのもあるが、彼は集落の家々で修繕をしたり家具を拵えるために、朝早くから夜遅くまで働き、食材を買って帰るのだ。いや、これも本当は同じだったのかもしれないけれど……


「おかえりなさい、とうさま」

「あれ、父様だって。急におしゃまさんになったな」とサムソンは笑った。

「お友達ができたのよ。ガマリエルさんの末の子」

「一番下っていうとアーロンか、その子の影響だな。それと治癒術が関係あるのか?」


わたしはサムソンの木工道具を丁寧に作業机に置き、道具の手入れがし易いように並べていった。

ノミの袋を解き、のこぎり、皮剥ぎの銑(せん)を並べ、隣に砥石を置くと、腰掛けの丸椅子を運びながら答えた。


「あーろんがけがしたら、クラリスがなおす」

そう言ったが、誤りだ。適性がない自分には無理なのだから。

それでサムソンはうーんと考え込んだきり、口を閉ざしてしまった。彼はあまり喋らないタイプ、つまりわたしと似ている。いや、彼の子供であるのだからわたしが彼に似ていると言うべきか?


「じゃあ、けん。けんがほしい」

「剣を? アーロンを守りたいってことか?」

わたしは頷く。アーロンが怪我をするのを、もう見たくない。せめて身を護る術を身につけなければ。

サムソンはぽいっとナイフを投げ渡した。ナイフと呼ぶのも憚られる刃渡り。こんなのじゃわたしの指さえ切り落とせないんじゃないか。

「これ、けんじゃない」

「剣じゃないよ、それを使って──」

彼はひょいと木の棒を差し出した。片手でそれを受け取るや否や、サムソンが手を離す。

余りの重さに身を支えることも出来ずに取り落とした。

「それを削って、木剣にしたらどうだ。扱える重さと長さにしたらいい」


わたしは棒とナイフを交互に見比べ、破顔した。

「わかった、とうさま。ありがとう」


「ちょっとあなた! 何言ってるの? 四歳の娘に何を──」マグダラの言葉をサムソンが遮る。

「人は、いずれ何者かになる。クラリスがやりたいようにさせてやればいい。武器を取り上げるより、悪い使い方をしないように教えてやろう」


マグダラは不満そうだったが、わたしは満足してナイフを鞘から抜いた。なかなか鈍らだが、研げば使えそうだ。

「とうさま、かして」と砥石を奪い、わたしは丸椅子の上に登り刃を立て始めた。


その手つきを目にし、サムソンは固まった。そりゃそうだろう。サボってたとはいえ、この道十年以上だぞ。どうだ? お前のも研いでやろうか?


「お、おいマグダラ、この子凄いぞ」


研ぎものをしている時は周りの音も聞こえない程集中する。それが好きだ。心が澄む感じがして、リセット出来るからだ。そうだ、パチンコなんか行かずに刃物の手入れをするべきだったな、鉋の刃とか錆びついてるだろうか……


ハッとしてナイフの刃を確かめると、この上なく刃先が立っていた。手元に紙があれば切れ味を確かめられるのに。


「お、おい、ちょっと見せろ」とサムソンがナイフを奪い去る。おーい、折角研いだのに。

「こんな見事に研ぐ四歳がいるか? うちの子には才能がある!」

「あらあら、将来は職人さんね」とマグダラは笑った。


「そんなレベルじゃない、この子、きっと名匠になる」


わたしの本を読んで頂いてありがとうございます。

一日一話更新して行きます。

毎朝七時の更新を心がけます。


異世界語として用いられているのは実はヘブライ語なので翻訳検索していただければ意味が解るのですが、あまり深い意味は有りません。

言語学者さんやヘブライ語に自信ニキの方にすれば、もしかしたら文法や意味が間違っているかも知れませんがご容赦ください。

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