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3話 この世界には魔法があるらしい

挿絵(By みてみん)

<あらすじ>

ギャンブルで身を持ち崩した三十路女。目覚めると彼女は赤ん坊。そしてそこは異世界でした。

特別な力を授かるでもない彼女の異世界生活。前世から持ち越せたのは大工としての知識だけだった。

「今度こそ、わたしは自分の家を建てる!」

3


あれから半年が過ぎた。冬になって雪が降り、それが溶け始めた。窓から見える景色にも色が戻りだしていた。隣家とはずいぶん離れている。ど田舎と言っていいだろう。


母はわたしを抱いて外を見下ろし「あなたァ、おかえりなさいィー!」と大きな声をだした。彼らの言葉はもう随分意味が取れるようになった。話すのはまだ無理だけど。いや、機能的にも無理だし。一歳の赤ちゃんがべらべら喋り出したら怖いだろ。

通りの向こうで若い男が手を振る。あれがサムソン、父だ。ひと抱えもある巨大な鳥を背負っている。


「マグダラ、ただいまァ〜」


締まらない声。この人が父親。鳥を捕ってきた訳じゃない。だってこの人の仕事は──

階下に向かう梯子を母、マグダラはひょひょいと駆け降りた。おいおい、赤ん坊抱いたままそれは危ないだろ。


木製のドアを開けてサムソンが入ってくる。背が高い。黒い髪と口髭で落ち着いて見えるが若々しい。多分二十代だろう。前世のわたしよりずっと若い男、うん、まぁ、割といい男?

マグダラもサムソンも彫りが深い顔だ。どう見ても日本人じゃない。マグダラは緑の瞳、サムソンは抜けるような青だ。わたしは? 鏡がないからわからない。


夫の逞しい胸板に頬を寄せるマグダラ。何てストレートな愛情表現──いや、子供の前でそんな熱心なキスは……


サムソンは机に鳥を置き、背負っていた荷物袋を床に下ろした。袋の口からはチラリと道具が見えている。わたしはそちらに手を伸ばす。


「あらクラリス、お父さんにおかえりなさいしないと」

「いいさ。この子本当にコレが好きだな」


マグダラは呆れ顔でわたしを床に降ろす。猛スピードで這い這いし、サムソンの袋を開けると、中から道具を取り出した。


鞣し皮を巻いた袋。紐を解くと、中から四本のノミが現れる。そう、サムソンは木工なのだ。

洋ノミの形状に近いが間違いなくノミだ。太さが四種。八分、五分、三分、一分、という感じか。刃先が少し曲がっているところを見ると、刃金はあまり硬くないのだろう。


「こらこら、刃物は危ないだろッ、見るだけな」

サムソンに取り上げられてしまう。それと同じくしてわたしの身体はふわっと抱きかかえられる。

「女の子なのに木工道具が好きなのね。クラリスは」

そうマグダラが笑う。わたしは椅子に乗せられ、彼女は鳥を捌きに行ってしまった。


わたしはサムソンの背中をじっと見つめた。懐かしい動き。砥石を使ってノミを砥ぐ。一本ずつ。わたしも毎日やった。いや、最後の方はサボってたかも。

彼は時間をかけて手入れをしていった。真面目な男なのが分かる。


中庭の竈からはパンと鶏肉の焼ける匂いが漂ってきたが、まだ彼は道具の手入れだ。次はのこぎり。薄い板にやや粗目が切ってある。意外なことに引いて切るタイプののこぎりだ。

両親は西洋風の顔だし建物もなんか外国っぽいのに。不思議な気持ちだ。ここ、どこなんだろう。


「うっほ、美味そうだァ。マグダラ、愛してる」

サムソンは道具を片付けると、食卓の鶏肉をひょいと口に放り込んだ。

マジか、その汚い手で!?


「あなた! 手を洗ってらっしゃい!」


マグダラは椅子に腰を下ろし、わたしの分──

何かのミルクに何か果物みたいなのを入れて茹でた感じの何かを掬った。

「はい、あーん」

ええ、あっちが食べたいよ。あんな美味そうな匂いさせといて……パクリ。


ぬるい。


「あれ、美味しいよ。はいアーン」

「何やってんだ」

「クラリス食べないのよ」

マグダラのスプーンをサムソンがパクッと食べる。おお、いいぞ! 不味いって言ってくれ!


「こりゃぁ、ちょっと冷めてるんじゃないか?」

「あ、そういうこと。ごめんね、ちょっと待ってね」

温かいとだいぶマシに……あれ?マグダラ、何を──


「אבינו שבשמים, יבורך שמך. אנא תן לי את עזרת רוח הקודש」


何か呟くと器の周りがぼんやりと光った。彼女は味を確かめて「うん、良くなった」とわたしにスプーンを差し出した。


温まってる──って、あれ魔法? いや呪術? 精霊術? 超能力?

いや、全部一緒だ。魔法、魔法でいい。


魔法がある世界に転生したってことか!


アニメみたいだ!


わたしは温かいミルク煮を頬張りながら、自分がどんな超能力を持っているのかと胸を躍らせ続けた。


わたしの本を読んで頂いてありがとうございます。

一日一話更新して行きます。

毎朝七時の更新を心がけます。


異世界語として用いられているのは実はヘブライ語なので翻訳検索していただければ意味が解るのですが、あまり深い意味は有りません。

言語学者さんやヘブライ語に自信ニキの方にすれば、もしかしたら文法や意味が間違っているかも知れませんがご容赦ください。

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