17話 私と同じですっかり錆びついているけれど
<あらすじ>
ギャンブルで身を持ち崩した三十路女。目覚めると彼女は赤ん坊。そしてそこは異世界でした。
特別な力を授かるでもない彼女の異世界生活。前世から持ち越せたのは大工としての知識だけだった。
「今度こそ、わたしは自分の家を建てる!」
17
棚板と手道具を持って、わたしとミハルは屋敷に戻ると、棚板の仕上げに掛かった。
鉋があるので細かい調整は容易かった。仕上げに蝋を引けば完成。半日仕事だ。毎度あり!
レアはその手際にいたく感心し、歓声をあげた。それでわたしの手を取り「あなた本当に天才ね」と褒めちぎった。
何せ、元の棚板よりずっと美しいものを用意したのだ、当然と言えば当然だ。
「こんな素晴らしい肌着をいただきましたので、このくらいお安いご用です」
わたしが頭を下げて退室しようとすると、レアは「ばか、待ちなさい」と手を掴んだ。
「私がまた家具を壊すから、あなたが直しなさい」
そう言って目を細めると、わたしの手に銀貨を三つ握らせた。
「いけません、奥様──」
そう言いかけると「これには口止め料も入っているの。受け取ればあなたも同罪だから、私は安心でしょう?」と耳打ちした。
でも分かっている。この人はわたしに駄賃を渡したいのだ。それで目頭が熱くなって、下を向いた。
「でしたら受け取らないと、奥様を不安にさせますね」
そう答えるとレアは可笑しそうに笑った。わたしは彼女をいっぺんに好きになってしまった。
その夜、わたしは銀貨を手のひらで転がしていた。これは日本円にしてどの位なのだろうか。
八歳の子に駄賃でやるくらいなら、ひとつ千円くらいか? いやいや、裕福な家の婦人がやることだ。もしや一万くらいか?
何にしても、実は以前から欲しい物があったのを思い出した。これで買えるのかどうか、見当もつかないけれど。
「クラリス、起きない?」
翌朝、ミハルの声に起こされた。部屋はまだ真っ暗だ。あれか、剣を見てくれるという。
熱心がすぎる、とは言い辛い。彼女の方がずっと早起きをして、教えにきてくれているのだから。
「ミハル、おはようございます。早くからすみません」
物音を立てないように気を配り、屋敷の裏口を抜け、垣の外へ出た。まだ薄暗い。
麦刈りが済んだので、残った果樹園がよく目立つ。いちじく園が多いが、丘陵地の斜面には葡萄園が広がる。その稜線の空に朝焼けが輝いていた。
河原のあたりでミハルは足を止め「この辺りならひと目に付かない」と言って、苔むした岩に腰掛けた。
「ではクラリス、いつも通りにやってご覧なさい」
わたしは小さく頷くと、鞘ベルトから木剣を抜き、上段に構えた。
──フュッ! ヒュンッ!
右袈裟斬り、そこから切先を返して左胴払い。
「成程、八歳にしては悪くないです」
ミハルは立ち上がり、わたしの木剣に触れた。
「八歳にしては……」
「この木剣、とてもよく出来ているけれど、少し軽過ぎて鍛錬にならないでしょう」
そう言われると確かにそうだ。これは五歳から使っている。あの頃から比べると二手幅(15センチ)は背が伸びた。
「どんなものを作ると良いでしょう」
「そうね。それにはこの先どうなりたいか、によるかしら」
そう言って彼女は鞘から細身の剣を抜いた。木剣ではない。白刃の刃が朝日で光った。
普通の払い斬りだった。型としては。
蹴り足の強さ、頭を軸に回転する抜きの鋭さ、切先の走り、そして風を切る音。
「剣には重さがあり、それを味方につけないと斬れないです」
「す、すごい」
少し武器の扱いを知ってるって……?
違うだろ! 剣士なんじゃん!
「その剣、触れても良いですか?」
「どうぞ、私と同じですっかり錆びついていますけれど」
「う、うあ!」
その重さに愕然とした。刀身は1キュビトと少し。凡そ60センチほど。重さは、マスコットバットより重い! 1キロ以上だ。
「こ、これは振れません」
「八歳に振られたら、たまったものではありません、しかも女の子に」
そのサーベルのような剣は確かに錆が浮いて刃が曇っていた。所々欠けてもいる。
「これ、わたしが研ぎましょうか」
「剣を研げるの? 驚きですね」
「その代わり、どんな新しい木剣にすればいいか詳しく教えてください」
わたしの本を読んで頂いてありがとうございます。
一日一話更新して行きます。
毎朝七時の更新を心がけます。
異世界語として用いられているのは実はヘブライ語なので翻訳検索していただければ意味が解るのですが、あまり深い意味は有りません。
言語学者さんやヘブライ語に自信ニキの方にすれば、もしかしたら文法や意味が間違っているかも知れませんがご容赦ください。




