13話 無力
<あらすじ>
ギャンブルで身を持ち崩した三十路女。目覚めると彼女は赤ん坊。そしてそこは異世界でした。
特別な力を授かるでもない彼女の異世界生活。前世から持ち越せたのは大工としての知識だけだった。
「今度こそ、わたしは自分の家を建てる!」
13
「ほら、メトシェラ。しっかりお食べなさい」
彼女はわたしの弟の口にスプーンを運び微笑んだ。浅黒い肌と灰色の髪、染められていない肩掛け、二の腕に風変わりな刺青が覗く。
タビタの乳母で、名はミハルというそうだ。彼女はわたしの視線に気付き、服の袖をそっと整えた。
朝食を済ませた後、アーロンは算術教師と部屋に入り、メトシェラは寝てしまった。わたしはどう過ごせば良いか分からず、木剣を持って外の庭へ出た。
わたしの木剣は腕の長さと同じにした。40センチ程だろうか、ここでは1キュビトという。大人の肘から指先までの長さ。雑な測り方だ。
──ヒュッ ヒュンッ
袈裟斬り、胴払い。授業でやった剣道の動きを思い出して真似てみる。上手く出来ているかよく分からなかった。
何せ、わたしはソフトボール部だ。バットなら散々振ったが剣道なんか全く知らない。それでも綺麗なスイングの感じが出来れば……
──スンッ!
今のはヘッドが走る感じがあった。成程、少し刀身を軽くし過ぎたのかもしれない。次に作る木剣はもう少しだけトップに重さをつけてみよう。
数時間、無心で木剣を振り続けたわたしは、大樹の根元に腰を下ろした。息があがり、肌着の背中が重くなった。
マグダラはどうしているだろうか、酷い扱いを受けていなければ良いが……不幸なことに彼女は大変な美しさだ。思わず瞼を固く閉じた。
呼吸が整ったわたしは木剣を掴み、更に素振りを続けた。ここでは自分や大切な者を守るには力が必要だ。公共井戸のほとりでアーロンを殴った奴らの顔が思い浮かぶ。
──ブンッ!
おっと、力み過ぎだ。大振りしても打球は行かない。きっと剣でも同じだ。的確に、最短距離で……
──フュッ!
この方が良い。当たった後、刀身をつかまれでもしたら終わりだ。
「おーい、クラリス。勉強終わったぞォ」
間抜けな声を上げてアーロンが歩み寄る。そちらを一瞥し、また剣先に視線を戻した。
「相手してやろうか」
そう言って彼は木剣を取った。アーロンは剣術も習っている。
「怪我しても知らないよ、自分で治してね」
「オ、言うね」
アーロンが剣を構える。剣道みたいに。
わたしはテニスでサーブを待つみたいにトーン、トーンと跳ね、トンッと踏み込んだ。
──カツーン!
アーロンの木剣が空に跳ね上げられる。驚いた彼の顔。傑作だ。
「クラリス、お前ほんとうに五歳なのか? こ、こんな──」
彼は手を握り開きし、嘆息を漏らした。
「俺の方がずっと大きいのに……」
「アーロンは大きいけど、遅い」
自分が居たらマグダラを守れただろうか。いや、絶対に無理だったろう。
子供だから、いや、子供でなくとも。わたしは無力だ。
ぎりりと奥歯を噛んで、木剣を振った。
──ブンッ!
わたしの本を読んで頂いてありがとうございます。
一日一話更新して行きます。
毎朝七時の更新を心がけます。
異世界語として用いられているのは実はヘブライ語なので翻訳検索していただければ意味が解るのですが、あまり深い意味は有りません。
言語学者さんやヘブライ語に自信ニキの方にすれば、もしかしたら文法や意味が間違っているかも知れませんがご容赦ください。




