第19話 配点表
永安の包囲が続く間、俺は夜な夜な、頭の中の帳面を清書し直していた。
人材の目星をつけるだけの段階から、そろそろ「どうやって測るか」という制度の骨格を作る段階に移す時期だった。だが、いざ紙に書き出そうとすると、思ったより難しかった。
——何を、どう測ればいいんだ。
俺は、自分の受験勉強を思い出していた。
国語、数学、英語、理科、社会——五教科、細かく割れば七科目。あの頃の俺は、これを馬鹿正直に全部さらってきた人間だった。花形企業を狙えるだけの大学に入るために、朝から晩まで机に向かい続けた。模試の判定、偏差値の一覧表、志望校のボーダーライン——あの数字の羅列を、今でも夢に見ることがある。
結果だけ見れば、俺はそれなりの難関を突破した側の人間だった。
だが、それが何になった。
就活は全滅した。ガクチカが書けない、留学経験がない、リーダー経験がない——面接官の前で、俺はあの五教科七科目の知識を、何一つ役立てられなかった。試験の点数と、実社会で評価される能力は、まるで別の物差しだった。あの数年間の努力は、次の選抜の入り口にすら、まともに通用しなかったのだ。
——だったら、同じ轍は踏まない。
俺が今から作るのは、科挙のような「暗記の総量」を測る試験でもなければ、あの受験のような「限られた科目の得点力」を測る試験でもない。もっと、実際にこの国で使える能力に直結した物差しにする必要があった。
筆を執り、頭の中の設計図を、少しずつ紙に落としていった。
まず、読み書き。これは最低限の足切りでいい。文字が読めなければ、命令一つ正しく伝えられない。次に、算術。徴税、兵站、物資の管理——数を扱えない人間に、実務は任せられない。ここまでは、科挙にもある程度重なる部分だ。
だが、その先が違う。
地理と実地の判断力。ある土地に何人分の食料が必要か、ある道でどれだけの兵が動けるか——机上の暗記ではなく、目の前の状況を正しく読み解く力を測る科目を、俺は新しく加えた。四書五経の暗誦の代わりに、実務の想定問答を置く。
もう一つ、これは科挙にも、あの受験にもなかった項目だった。
——人を動かせるか。
どれだけ知識があっても、それを実行に移せる人望や統率力がなければ、絵に描いた餅で終わる。李秀成のような男が、まさにそれだった。読み書きは苦手だったが、人を動かす勘だけは、誰よりも鋭かった。この手の人材を掬い上げられない試験は、片手落ちだと俺は思っていた。
配点表の草案が、ようやく形になってきた。
読み書き、算術、実地の判断力、そして人望の評価——それぞれに配点を振り、総合点で選抜する。科挙の「答案一枚勝負」とも、あの受験の「五教科七科目の総合点」とも、似ているようで根本が違う設計だった。
俺はその紙を、しばらく黙って見つめていた。
あの受験勉強は、無駄じゃなかったのかもしれない。ただ、使う場所を間違えていただけだ。
永安の外では、清軍の包囲が日に日に狭まっていた。だが俺の頭の中では、この国の骨格になるかもしれない一枚の紙が、静かに形を整えつつあった。




